2014年08月25日

障害者いじめの一つの「形」-「聲の形」から(14)

さて、本シリーズエントリでは、もともとの出発点だった、まんが「聲の形」からは離れて、簡単な数値的モデルを束って「福祉社会だからこそ起こるようなタイプの「障害者いじめ」とはどのような構造で発生するのか」について考えてきています。

前回までで、その「現象」の説明は終わったので、今回からはその問題に対する解決法、ソリューションについて考えていきたいと思います。

この「弱者いじめ」の構造、根っこにあるのは、弱者に対する「実際にはそんなに困っていないはずだ」という誤解です

その誤解があるために、社会から与えられる福祉が過剰であり、弱者は焼け太っており、既得権として「甘い汁」を吸っている、という「誤った認知」にいたり、さらにそこから「人はみな公平であるべきであるという「正義感」に基づいて、弱者に与えられた福祉的サポートを無力化するような私的制裁(リンチ、いじめ)が行われ、かつ正当化される、そういう流れがあるわけです。

では、この問題を解決するには、どうすればいいのでしょうか?
この答えは「弱者が困っている、苦しんでいることのリアリティを、正しく伝えて理解してもらう」こと、つまり、あえて陳腐な言い方をするならば、

社会の理解を深める

ことが、最大の解決法になります


すでに示している「私的制裁を生む誤った利得カーブに基づいたモデル」に対して、「誤解」を解き、「正しい弱者の利得カーブ」をあてはめたモデルを見てみましょう。



実はこれは、「元のグラフ」に戻しただけです。

そして、この「弱者の利得カーブ」に対して、先の「最低限必要な福祉」を計算してあてはめると、こうなります。



この例で言えば、社会の「誤解」を解く=社会の理解を深めることで、「私的制裁によって弱者にペナルティを与えよう」というインセンティブがほとんどなくなり、逆に「弱者への福祉はまだ不十分だからもっと我々で助けなければ」という、「私的制裁」ならぬ「私的福祉」さえ生まれるようなモデルに劇的に変化しています

「社会の理解を深める」というのは、要はこういうことなんだろうと思います。

つまり、いくら制度として福祉があったとしても、その福祉を受ける弱者の現状、実態について社会の側に理解してもらえなければ、それは社会からはむしろ不公平だという非難の対象となり、やがては「社会」自体がその福祉を過剰で無駄なものとして切り捨ててしまうことも起こるでしょう。
そのような不幸な事態を避けるためにも、弱者にかかわる人たちは、社会に積極的に働きかけ、「理解を深める」努力を不断に続けていかなければならない、ということです。

私たちは、ときに「社会の理解を深める」ことを、社会に甘えることであるかのように誤解してしまうことがありますが、そうではなく、むしろそのような不断の努力によって、福祉制度を守り、前に進めていき、それらの結果として誰にとっても生きやすく、必要な支援が受けられる社会を守っていく必要がある、ということなのだと思います。

「福祉にはカネがかかる」というのは福祉へのよくある批判ですが、「社会の理解を深める」ことは、実はとてもローコストで効果的な福祉政策である、ということを、このモデルは示しています。

(次回に続きます。)

※既にまんがの内容とは別のポイントでの議論になっていますが、いちおうまんがのリンクも貼っておきます。

聲の形 第1巻・第2巻・第3巻・第4巻・第5巻
大今良時
講談社 少年マガジンKC
posted by そらパパ at 21:31| Comment(2) | TrackBack(0) | 雑記 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
>>その誤解があるために、社会から与えられる福祉が過剰であり、弱者は焼け太っており、既得権として「甘い汁」を吸っている、という「誤った認知」にいたり、さらにそこから「人はみな公平であるべきであるという「正義感」に基づいて、弱者に与えられた福祉的サポートを無力化するような私的制裁(リンチ、いじめ)が行われ、かつ正当化される、そういう流れがあるわけです。

この部分について意見させていただきます。
先ず,「リンチ・いじめ」は、相手が障碍者かどうかによらず、社会的な怒りや「正義感」によって起こるのではなく、ただ理由のない自然発生的なもののように思います。障碍者が居なくても発生するものですし、全ての動物の世の常として「いじめ」は存在します。「私的制裁によって弱者にペナルティを与えよう」なんて認識によるいじめは先ず存在しないと思います。

さらに、以前からの記事でもある「その「福祉が多すぎる」という認識」についてですが、逆に「過剰な福祉を社会から受け」「既得権として甘い汁を吸」っている障碍者あるいはその周辺、に対して、障碍者を助けようという人たちの想像力が及ばず、それらの問題点の可能性を誤った認識だ、妄想だと決めつける姿勢が問題をこじれさせているのではないでしょうか。如何に必要とはいえ、大きなお金が関わっている訳ですし、「絶対に福祉は不公平でなく、その制度に問題はない」と言い切ってしまうことはできない、という慎重な姿勢を示す事も重要なのではないでしょうか。
Posted by たなかn at 2014年09月20日 15:38
たなかnさん、

コメントありがとうございます。

たなかnさんは、このシリーズ記事の趣旨を誤読されているように思います。

そもそも、障害者に対するいじめをすべてこれで説明しようというものではなく、「そういう側面から説明できそうなものもある」という議論をしています。
また、このグラフのモデルにもってきた際に、問題を単純化しているということはあらかじめ説明させていただいているつもりです。

「甘い汁をすっている弱者に制裁を加えよう」という私的制裁が「存在しない」とおっしゃるのは驚きです。
ちょっとYahooのニュースのコメントなどを眺めれば、いわゆる弱者と呼ばれる人が甘えているといって罵声を投げつける人を当たり前に見ますので、私から見ると日常の光景ですから…。
Posted by そらパパ at 2014年09月20日 20:24
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