2007年12月17日

自閉症の人の自立をめざして―ノースカロライナにおけるTEACCHプログラムに学ぶ(ブックレビュー)

読み方が難しい本ですね。



自閉症の人の自立をめざして―ノースカロライナにおけるTEACCHプログラムに学ぶ
著:梅永 雄二
北樹出版

第1章 ノースカロライナ州の自閉症サポートとTEACCHプログラム
第2章 診断・評価
第3章 就学前支援
第4章 学校コンサルテーション
第5章 就労支援
第6章 居住支援
第7章 余暇支援
第8章 研修
第9章 その他
第10章 自閉症の人の支援に関するノースカロライナに学ぶ点

この本ですが、ある特定のニーズに対しては完璧といっていい内容になっていると思います。
それは、「ノースカロライナ州で実施されているTEACCHって、実際にどんなものなんだろう?」ということを知りたい、というニーズです。

本書の特徴をごく簡単にいえば、「非常によくできた、『ノースカロライナ州におけるTEACCH』の視察レポート」です。
写真もたくさん掲載されていますし、療育に携わる大学の先生の視点からTEACCHの取り組みの姿が偏りなく既述されていますし、何より日本語で読めます(本当に視察に行ったら通訳はいるせよ英語で聞くことになりますから・・・)。

一方、それ以外の部分、特に本書を「TEACCHの入門書」、あるいは「具体的な療育法のガイドブック」のように読もうとすると、期待を裏切られると思います。

目次にある1つ1つの章は、それぞれ大体10ページ程度しかありません。そこに、具体的な施設名や個人名が入った形で、具体的な取り組みが写真入りで記述されているので、イメージはしやすいもののボリューム感には欠けます。

そのため、「TEACCHの入門書」というには知識が断片的なものになってしまい、TEACCHの理念や取り組みの全体像、診断や課題遂行などに関するさまざまな技術的な側面の解説などを詳細に知りたいと思うと物足りないでしょう。
そういった部分については、例えばこちらこちら、あるいはこちらこちらといった本を先に読むことをおすすめしたいと思います。

また、運営面からの掘り下げ、例えば「収益性はどうなのか、運営コストの構造と規模はどうなのか」「他の療育技法との折り合いはどうつけているのか」といった部分も強くはないです。(そういった問題意識に対しては、内山先生の「本当のTEACCH」という本が応えてくれています。)

とはいえ、先に書いたように「ノースカロライナ州のTEACCHを具体的に見たい、知りたい」というニーズに対しては、本書ほどぴったりの本はありません。

一般の親御さんでも参加できる、「ノースカロライナ州へのTEACCH視察旅行」というツアーの企画が毎年行なわれているようですが、私も実はこれに参加しようかどうか迷ったことがあります。
結局、時間と費用(通常の観光旅行と比べるとかなり割高だった記憶があります)の問題から参加には踏み切れませんでしたが、この本は、そのときに感じていたニーズ、つまり、「行政が、現実性のある範囲でベストの努力をして自閉症の問題に取り組んだ場合(つまりこれが、ノースカロライナ州のケースだと思うわけです)の、自閉症へのサポート体制とはどのくらいのものでありえるのか?」という問いに対しては、ほぼ完全に答えてくれていると言っていいと思います。

そのサポート体制の「中身」は、さすがと感じられるものもありますし、限界を感じる部分もあります。また、やはり富める国アメリカだからこそできる、お金のかかるサービスだという印象も(残念ではありますが)強いですね。

でも、いずれにせよ、そういういい面も悪い面も含めての「ノースカロライナ州のTEACCH」を、今までにない分かりやすさではっきりと示してくれているという点に、本書の最大の魅力、意義があると思います。
私たちはつい、「ノースカロライナ州のTEACCHはとにかくすごいらしい」といった無批判な評価をしてしまったり、逆に「日本ではTEACCHなんてできない」といった後ろ向きな態度をとってしまいがちですが、これらはいずれも、詳細が分からない中で、ノースカロライナ州のTEACCHを多少なりとも「伝説化」してしまっているところに問題があると思います。

本書を読めば、ノースカロライナ州で行なわれていることも、個々の内容としては特段「独創的」と言えるようなものではないことが分かります。「独創的」なのは、そこにTEACCHの哲学という明確な思想的柱を通して、統一感のある広範な行政サービスを提供できているところにあるのでしょう。

私たちが学ぶべきは、そのフォーマット(思想的柱を通して、統一感のある幅広い働きかけを行なう)であって、「ノースカロライナ州のコピーの作り方」ではないはずです。言い換えれば、ノースカロライナ州で行なわれていることを通じて、私たち親は「家庭でのTEACCH」の取り組みについて考えることができますし、地域や施設で働く専門家の方は、「自分たちの影響の輪のなかでできるTEACCH」を考えることができるのだ、と思うのです。

本書は、即効的、実利的なものを求める方にはまったく向きません。
でも、表面的な事実から、頭を働かせて本質に向かうだけのエネルギーをもっている方には、非常に面白いTEACCH本になることでしょう。そして言うまでもありませんが、本書はそのように読むべきです。

TEACCHの入門書を含む、その他のブックレビューはこちら
posted by そらパパ at 23:00
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