2007年08月27日

パニックを考える(4)

今回からいよいよ「パニックへの対処法」について考えていきたいと思いますが、その前に、本シリーズ記事を書き始めて以降、コメント欄での議論等で話題になった、パニックが起こる原因のもう1つの側面について簡単に触れておきたいと思います。

自閉症児は環境とのかかわり=相互作用が年齢相応に発達してこないため、環境を安定的に知覚したり、先の見通しを立てたりすることが苦手です。
そういった知覚や認知が、この世界を生きていくための「安心感」の源になっているはずですから、そういった能力が発達しにくい自閉症児は、健常児よりも混乱状態に陥りやすく、それがパニックにつながっていくということも十分に考えられます。

つまり、もともとパニック状態になりやすい、不安定でストレスフルな状態にあるうえに、欲求や混乱が高じたときの表現方法が極めて貧弱である(だから、なおさら欲求も実現できないし、混乱にも対処できない)ために、「パニックばかり起こす」という状況に追い込まれている、と考えられるわけです。
(自閉症児は怖い記憶をよく覚えていて、それを思い出してパニックになる、といったケースなど、他にもいろいろ考えられますが、あまり「内面」に入っていくと効果的な働きかけにつながりにくくなってきますので、まずはシンプルに考えていこうと思います。)

このような理解をふまえて、ここからは、パニックへの対処法を、類型化したうえで順に検討していきたいと思います。
(なお、繰り返しになりますが、ここで扱おうとしている「パニック」は、脳の疾患等が背後にあると想定される病的なもの以外のものを想定しています。ご承知おきください。)


3.パニックは抑えればいい?


自閉症児にとって、パニックが欲求や混乱状態の唯一の表現方法になっているとするなら、表面化した「パニック」を対処療法的に抑える、というやり方を続けることは、非常に不適切な働きかけである可能性が出てきます。

なぜなら、その自閉症児にとってのパニックは、たった1枚の手持ちのカード、つまり欲求や混乱状態を周囲に伝えるための唯一の表現方法かもしれないからです。
それをただ単に「抑える」ということは、そのたった1枚の手持ちのカードさえ奪ってしまうことを意味しています。

これは、心理学的にいうと「学習性無力感」という知見とも対応してきます。

学習性無力感とは、ストレスのかかった状態で、「何をやっても、そのストレスから逃げられない」という経験を繰り返すと、広くストレスから逃れよう、問題を解決しようという行動自体が起こらなくなってしまう現象のことを指しており、うつとの関連の可能性も指摘されています。

自閉症児がパニックを起こす状況とは、その子どもにとってストレスがかかった状態であることは間違いありません。そして、パニックを起こしてしまう自閉症児にとっては、パニックを起こすことが唯一、そのストレスから逃れるための手持ちの行動レパートリーであることがほとんどでしょう。
だとすれば、その唯一の「手持ちのカード」であるパニックですら、そのストレス状態を脱するための有効な手法にならないという状況を繰り返し経験した場合、まさにこの「学習性無力感」によって、ストレスがかかった状態になっても何もしない、という行動傾向が強まってくる可能性が否定できないのです。

ストレスがあってもパニックしないということはおとなしくなっていいじゃないか、と思う方もいるかもしれません。でも、そうではないのです。

パニック傾向が弱まること自体は社会的には望ましいことです。でも、学習性無力感を獲得してしまった自閉症児は、外界からの刺激に対する反応傾向自体が抑制され、他のスキルトレーニングにおける学習スピードや私たちからのフィードバックに対する反応、さらにはコミュニケーションに対する意欲といった「外界と相互作用する力」そのものが弱まってしまうと考えられるのです。
そして、いったん学習されてしまった無力感を克服するのはかなり難しいと考えられます。

次回は、この「パニックを抑える」という視点から、ある既存の療育法について新たな解釈を与えてみようと思います。

(次回に続きます。)
posted by そらパパ at 22:39
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