2007年04月02日

「環境への働きかけ」を再定義する(4)

ギブソン理論の視点から、自閉症について改めて考えています。

環境との相互作用に著しい障害をもつ結果として、自閉症児は、環境のなかに十分なアフォーダンス(利用できる意味)を知覚することができません。私たちにとっては、周囲の環境というのは生きていくのに十分なアフォーダンスに満ち溢れているものとして知覚されているのですが、自閉症児にとってはそうではないのです。

例えば、私たちにとって最もアフォーダンスに満ち溢れた重要な「環境要素」とは、他人です。私たちは他人とコミュニケーションをとり、さまざまに影響を与え合うことによって、非常に大きなメリットを享受しています。よく言われるように「ヒトは一人では生きていけない」のです。

ところが、ある程度以上障害の程度の重い自閉症児にとっては、周囲の他人はほとんど何もアフォーダンスを提供しない「不気味な物体」でしかないと思われます。
ヒトと相互作用するのはかなり難易度の高いことなので、相互作用に障害のある自閉症児は、他人に対するアフォーダンスの知覚を確立し、実際に役立てることができないのです。そして、これが具体的症状としての「他人とのかかわりや社会性に対する異常」として観察されていると考えられます。

ギブソン理論によると、私たちが環境を知覚する、というのはすなわち環境のなかにあるアフォーダンスを知覚することに他なりません。逆にいえば、アフォーダンスが知覚されていない、ということは、そもそもその対象に対する知覚そのものがなされない、ということになります。つまり、他人とうまく相互作用できず、他人に対するアフォーダンスが知覚されていない自閉症児にとっては、「他人」とはそもそも存在していないのと同じなのです。(この部分は、一部の自閉症児の行動特性としてみられる「あたかも他人が存在していないかのように振舞う」ということと符合しています)

例えば、自閉症児が周囲の人間に対して、「クレーン現象」(他人の腕をつかんで道具のように運んで何かをさせようとする行動)のような特異な行動を示すのは、自閉症児が限られた相互作用能力の中でかろうじて確立した「他人」のアフォーダンスが、通常の姿とはまったく異なったものであることによると考えられます。
(逆にいえば、クレーン現象も、自閉症児が自閉症児なりに何とか他人との間に確立した「相互作用」のやり方、適応方法である、と考えることができます。クレーン現象を安易にやめさせることは、自閉症児と他人との間にかろうじてつながっている細い糸を切ることにもつながりかねません。もしやめさせたいときは、例えばPECSのような、代替的な他人とのかかわり方=代替行動を身に付けさせるべきでしょう。)

ともあれ、自閉症児にとって知覚される周囲の環境とは、私たちにとってのそれとはまったく異なっていると予想されます。私たちは、環境のなかにさまざまなアフォーダンスを知覚し、それを利用できることを知っているからこそ、環境とかかわりあって生きていけるわけですが、自閉症児にとっては、環境は私たちと比較するとはるかに貧弱なアフォーダンスしか提供しないものとして知覚されており、だからこそ環境と適切にかかわることもできないし、かかわっていこうという行動も起こってこないわけです。

次回は、ギブソン理論における「生態学的ニッチ」という考え方を自閉症の理解に応用して話を進める予定です。

(次回に続きます。)
posted by そらパパ at 23:17
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