2006年12月13日

ソーシャル・ストーリー・ブック―書き方と文例(ブックレビュー)



ソーシャル・ストーリー・ブック―書き方と文例
著:キャロル・グレイ
クリエイツかもがわ

第1部 ソーシャル・ストーリーの書き方
 ソーシャル・ストーリーズとは?
 誰がソーシャル・ストーリーを書くのか?
 ソーシャル・ストーリーの題材
 ソーシャル・ストーリーの基本文型と比率 ほか
第2部 ソーシャル・ストーリー文例集
 人とのつきあい方
 赤ちゃんとペット
 みのまわりのこと
 食べることと料理 ほか

自分の娘に応用するのは、仮にできたとしてもまだまだはるか先のことになりそうですが、自分の知識を広げる目的もあり、ソーシャル・ストーリーについて勉強しています。
ほとんどそっくりな本が何冊も出ていて迷ったのですが(笑)、本書は比較的出版が新しく、内容的にも「書き方」だけでなく「実例」が豊富に盛り込まれていたので、これを選んでみました。

私は、社会の暗黙のルールや他者の考え方といった「目にみえないこと」をストーリーという形で「視覚化」することによって、自閉症児者が理解しやすく、また事前にリハーサルできるようにする、というソーシャル・ストーリーの考え方には基本的に賛成です

療育者の側も、ソーシャル・ストーリーを作ることによって、社会の暗黙のルールを平易な文章として記述することがいかに難しいかということに改めて気づくことでしょう。それはつまり、自閉症スペクトラムの人にとって、社会というものがそのような「非常に難しいもの」として映っていることを端的に示しているわけです。

そういった「気づき」のための素材として、また実際にソーシャル・ストーリーを書いてみるためのサンプルとしても、本書の後半に並べられた膨大な文例集は役に立つと思います。

ただ、こういったポジティブな印象は、本書の前半にあるソーシャル・ストーリーの「書き方」のセクションに目を転ずると、少し変わってきます。

どうも私には、この「書き方」は、本来やさしくて自然で当たり前のものを、無理に難しくて特別なものに仕立て上げようとしているような「違和感」を感じるのです。
この印象は、初めてPECSのテキストを読んだときの、難しいことが分かりやすいことばでシンプルに解きほぐされていく驚きとは正反対のものです。

例えば、本書の冒頭にある「ソーシャル・ストーリーの定義」は、こんな風になっています。
 現在のところ、ソーシャル・ストーリーとは、ある特定の自閉症スペクトラム(ASD)の人のために、ある作品を作るプロセスと考えられるようになっています。
(初版20ページ)

恐らくこの定義は、ソーシャル・ストーリーの守備範囲を最大限に受け止めるために拡張を繰り返して決められたものだと推測しますが、もはやここまで広げてしまうと、あまりに漠然としていて定義のなかにほとんど「意味」が残っていません
幸い、この定義に続けて、
 プロセスとして考える際には、ASDの人のものの見方や考え方を十分考慮し、尊重することが求められます。作品として考える際には、ASDの人にとってわかりやすい形式を用いて、ある状況や概念、社会的スキルを記述するという特徴をもつ、短いストーリーをさします。

という補足が入ってようやくぼんやりと輪郭が見えてくる気がしますが、本来なら「定義」というのは、むしろ後で引用した文章にあるような、しっかりした内容を含んでいるべきものでしょう。

そしてこの後は、「肯定文」「見解文」「完全ソーシャルストーリー比率」といった新しい概念が次々と導入され、定められたルールに厳しく従ってソーシャルストーリーを書くことが求められます。
もちろん、「良くできた」ソーシャルストーリーという抽象的な基準を、特定の手続きに還元することによって客観的に判定できるようにしよう、という趣旨は分かるのですが、それにしても、ソーシャルストーリーの本来の趣旨って、そういう風に厳格に型にはめていく方向性なんだろうか?ということをちょっと疑問に思ってしまいます。

おそらくこの「違和感」は、必ずしも科学的に導かれたものではない「経験知」を、無理に科学的・還元的に厳密に記述しよう(そして「ノウハウ」として知財化しよう)と意図したところから生まれているように感じます。もちろん、経験知が悪いといっているわけではありませんが、扱っているものと扱い方との間にアンバランスが生じているような気がするのです。

こういう、どんなにあいまいなものでも具体的な手順に還元してしまうことが「実用的で分かりやすい」ことだ、という考え方は、いかにもアメリカ的ですね。それはそれで分かりやすくていいのですが、日本人的な感性からは、いきなり新しい概念がどんどん出てきて計算式が出てきてチェックシートが出てきて・・・というよりは、まずはシンプルに「趣旨」を理解して、実例をたくさん読んで、試しに作ってみて・・・という手順を踏んだほうが、「入りやすい」んじゃないかな、という気はします。

個人的には、ソーシャルストーリー的な療育法の本質は、視覚化という要素に加えて、以前書いたことがある、「非線形分離課題」を、自閉症児者にとってより理解しやすい「線形分離課題」に解きほぐす作業だ、と理解しています。
ですので、私が志向している方向は、この「ソーシャル・ストーリー」が厳格に定義しようとしているやり方の志向性とは少しずれているな、と感じます。
加えて、「ソーシャルストーリー」という言葉と療育法はアメリカでパテント(商標)を取っていて、関連するサイトを見ると、開発者が定義されたやり方以外のものは「ソーシャルストーリー」と呼ばないように働きかけているようですから、私が向かっている方向は「ソーシャルストーリー」とは呼ばないほうがいいかもしれませんね。(ソーシャルスキル・スクリプティング[SSS]とでも呼びましょうか・・・)

ところで、最初にも書いたとおり、ソーシャル・ストーリーは著者まで同じそっくりな本がたくさん出ています。具体的にはAmazonですぐに買えるものとしては次の3冊です。



これらの本は、著者も同じで本のサイズも構成もほとんど同じなのですが、左ほど古くて右ほど新しい本になっています。
そして、「ソーシャル・ストーリーの書き方」も新しくなるにつれてどんどん改定されているということで、現在の「書き方」は一番右の本に収録されているバージョン10.0なのだそうです。先にも書きましたが、やはり著者であるキャロル・グレイはソーシャルストーリーの「書き方の定型化」にかなりのこだわりがあるようですね。

私自身は、ソーシャルストーリーはどちらかというと実践から生まれる「経験知」だと思っているので、本書の膨大な文例のほうにより高い価値を感じます

ともあれ、ソーシャルストーリーの実例をたくさん見るには本書がベストなのではないでしょうか。

※その他のブックレビューはこちら
posted by そらパパ at 22:53
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