2006年12月09日

スピリチュアルにハマる人、ハマらない人(ブックレビュー)

予想外の良書。


スピリチュアルにハマる人、ハマらない人
香山 リカ
幻冬舎新書

序章 私の前世を診てください
第1章 人は死んでも生き返る?
第2章 スピリチュアルのカリスマたち
第3章 江原啓之という現象
第4章 スピリチュアルで癒されたい
第5章 スピリチュアルちょい批判
第6章 あくなき内向き志向の果てに

ワイドショーのコメンテーターなんかをやっている人というのは、えてして「テレビが期待することしか言わない人」であり、そういう人が書いた本というのは多くの場合、社会の問題の本質なんて絶対にえぐれない底の浅いものになりがちです。

最近はやりの「スピリチュアリズム」を検証するこの本も、マスコミでもてはやされているテーマなだけに、テレビ人でもある香山氏に突っ込んだ議論ができるのか、という不安を感じながら読んだわけですが・・・

その不安はいい方に裏切られました

冒頭で著者は、自分が精神科医として診察する患者のなかに、前世とかスピリチュアルといったことを期待してやって来る人が増えてきたということを語りますが、決してそういった患者の考え方をいきなり否定することはしません。
そうではなく、精神医学、特にユングの系譜の精神分析学は、錬金術や幽体離脱といったオカルト的な考え方が理論の根幹に含まれているという事実を率直に認め、一般の人がスピリチュアリズムと精神医学を同じようなものだと考えるのもやむを得ない、という立場から入ります。

とはいえ、香山氏自身はそういったオカルト的な思想についていけずにユング心理学からは離れてしまったそうで、この後はスピリチュアリズムの現状について冷静な批判的分析が始まりますが、これがなかなか鋭い内容になっていて、私自身も、スピリチュアリズムとは何なのかということについて改めて頭の中を整理することが出来ました。

※ちなみにスピリチュアリズムというのは、普通の人には目に見えない別の世界があり、その世界と正しくかかわりあうことで幸福が手に入るという考え方です。そして、その「目に見えない世界」と交信できると称する特別な人たちがいて、その人たちはスピリチュアリスト(やや古い言い方をすれば霊能力者)と呼ばれます。
現在、スピリチュアリストの頂点に君臨すると言っていいのが、出す本すべてがベストセラーで、テレビのレギュラー番組まで持っている「スピリチュアル・カウンセラー」こと江原啓之氏でしょう。


最初の鋭い指摘は、スピリチュアリズムが説いているのは「自分が幸せになること」であって、他人のためになることを良しとする「利他主義」は含まれていない、もしくは二次的なものでしかない、という点です。
ですから、スピリチュアリズムは仏教やキリスト教、イスラム教といった既存宗教と一見通じるものがあるように見えて、実はまったく相容れないものだということが分かります。
また、お金儲け、恋愛といった欲望を否定しないどころか、それを実現することが目的になっているようなものもあり、徹底して現世利益肯定的です。

そして、ここから導かれるもう1つの重要な指摘は、例えばお金にしても「素敵な異性」にしても、それを自分が手に入れれば代わりに誰かが失っているかもしれないのですが、それは仕方のないこと、その人もスピリチュアリズムを勉強すればいい、といった「自己責任論」を内包している、という点です。
これは言い換えると「内向き志向」だとも言えます。
人が抱えるさまざまな悩みは、例えば失業にしても配偶者の暴力にしてもいじめにしても、実は多くの場合、社会的な背景があります。しかしスピリチュアリズムは、これらの問題の原因をオーラや霊といったものに求め、それらの超越的存在と交信することで内向きに、自己完結的に解決しようとします。つまり、どんな問題も原因は自分のすぐ近くにあって、ちょっとした「スピリチュアルな」働きかけによって解決可能ですよ、というメッセージが投げかけられるわけです。
こういったアドバイスが「癒し」になりうる背景には、格差社会とも呼ばれるように、どんなに社会に不公平があってもその社会が変わっていくという希望が持てないという「社会への絶望」もあるのだと思います。

そして最後に、私がもっとも感嘆した分析が。
スピリチュアリズムは、超越的存在とか宇宙の偉大な存在といった、我々の社会なんかよりはるかに外側にあるスケールの大きな世界の話をしているように見えます。
ところが実際には、「自分」という内側の世界と、「社会」という外側の世界との摩擦に悩む人間がその中間に作り上げる「中間領域」として存在しているのではないか、というのです。
だとすると、スピリチュアリズムは、実は「超越的存在」といったものではなくて、例えば小さい子どもが社会に出て行く過程でぬいぐるみのような「中間領域」を作って自分を守りながら少しずつ社会に順応していくように、「疲れた大人」が自分自身を社会から守る装置として自分の周りに張り巡らしたシェルターのようなものと理解されます。これは実に鋭い指摘で、読んでいてまったくそのとおりだ、と思いました。

本書は、テレビでも活躍する香山氏にとってもかなり書くのに勇気のいる本だったのではないでしょうか。
この世界の「巨人」である江原氏への批判は慎重に避けられていますが(そのきわどい書き方を楽しむというのが、本書の全く違ったもう1つの楽しみ方かもしれません(笑))、後半では、スピリチュアリズムとオウム真理教は同じ線の上に乗っているものなのではないかという、確かに本質的にはその通りなんだけどそこまで書いちゃっていいのかなあ、という記述まであり、何にせよ相当踏み込んだ内容になっていることは確かです。

ちなみに、なぜこの本を当ブログで紹介したかというと、実はスピリチュアルな自閉症論というのが存在するからです。この辺りの話は近いうちに改めて書きたいと思っています。

※その他のブックレビューはこちら

posted by そらパパ at 20:56
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