2006年10月30日

新しい認知心理学から自閉症を考える(15)

前回からの続きです。
今回は、新しい仮説を使って、「自閉症の三つ組の障害」以外のさまざまな現象を説明したいと思います。

2) 自閉症児に見られるその他の行動

d.呼びかけに反応せず、物音(冷蔵庫を開ける音など)には敏感に反応する
 「冷蔵庫の音を聞いたときにそこにいけばジュースがもらえる」という行動は多義性が低く、得られる報酬も明快で、一般化処理に負担をかけなくてもルール化が可能です。一方、「呼びかけに反応する」というのは、それに伴うシチュエーションも、それによって得られる結果もいつも違うでしょうから、多義性が高く、一般化は容易ではありません。「冷蔵庫は見えていて、動かない」「人の声は見えないし、発せられる場所もいつも違う」というのもポイントです。
 この2つを比べると、自閉症児にとっては「呼びかけに反応する」ことのほうが、はるかに難しい課題なのだと思われます。

e.クレーン行動
 恐らく、「ヒトの存在」ほど、環境の中にあって、「一般化処理」が必要な存在はないでしょう。
 そもそも、頭のてっぺんから胴体から手足の先までを1かたまりの「ヒト」として認識し、さらに、その存在に対してモノとは違うアプローチをとるべきであるということを学習するためには、「犬」を理解するのと同様に、あるいはそれ以上に、環境知覚としての強力な一般化が必要です。それができなければ、大人の「腕」は、それ自体が単独のモノ的な存在として、役に立つ便利な道具として知覚されるでしょう。
 別の言い方をすると、自閉症児が「一般化」できる一番大きな単位が「腕」までだったとすれば、腕をモノとして扱うのが精一杯(それ以上大きな「ヒト」という単位はそもそも「知覚」されない)ということになり、そこで生じてくるのが「クレーン現象」だと思われます。

f.ごっこ遊び、見立ての欠如
 ごっこ遊びや見立てというのは、子どもが発達の過程で自主的に行なう、「一般化されつつあるルールのリハーサル」だと言えるのではないでしょうか。
 例えば、先ほどの「犬」という概念を獲得した子どもは、ぬいぐるみの犬を「生きている犬」であるかのように扱うことで、「犬」ということばと事象のつながりを環境とのフィードバックループの中に意図的に放り込み、その概念をより強固なものにしようとしているのかもしれません。見立てについても同様です。
 つまり、ごっこ遊びや見立てとは、「脳内」に獲得された学習内容を精査・拡張するために、それを「環境」の側に持ち出して「からだ」で関わろうとする試みなのではないか、と思うのです。「環境」に持ち出すときに現物がそこにあるとは限りませんから、別のもので代用するわけです。

 この「代用」というのも、自閉症児にとっては非常に理解しにくい考え方でしょう。たとえば泥だんごを「ごはん」と呼ぶとき、泥だんごは泥であって泥でなく、ごはんであってごはんでないわけです。これもまた自閉症児が著しい困難を示す「非線形分離課題」の一種です。

 そう考えると、自閉症児にごっこ遊びや見立てが生じにくいのは自然なことだと理解できます。
 それは第一には、そのようなリハーサルの対象となる「一般化されたルール」がほとんど獲得されていないためであり、第二には実物を他のもので代用するという「非線形分離課題」が解けないからだと言えます。

 また、少しうがって考えると、自閉症児の場合は環境との相互作用よりも、より近接的で自己内部的、線形分離的な事象に対する学習のほうが先に進むと考えられますから、一部の自己刺激行動や常同行動は、もしかすると健常児のごっこ遊びや見立てと対応関係がある可能性もゼロではないでしょう。

g.自閉症児は行動の汎化が難しい
 これまで延々と書いてきた「一般化障害」というのは、とりもなおさず汎化の障害です。
 仮に何らかの行動を学習したとしても、その学習が「過剰な適応」になっていて他の場面では発現しない、あるいは汎化させようとした途端「ルール化の失敗」が起こって行動そのものが消えてしまうといったことが起こるのだと考えられます。
 また、私たちが「汎化」と呼ぶ行動の多くは、線形分離課題を非線形分離課題に拡張することを含んでいる場合があります。非線形分離課題を解くのが困難な自閉症児にとって、そのような「汎化」は、ほとんど別のことを学習するくらい難しいチャレンジになるのだと思われます。

h.感覚異常(感覚過敏・感覚鈍磨)
 自閉症児には感覚異常が多いことが知られています。
 特に「強すぎる抽象化処理」のモデルで考えると、ある部分の脳細胞が過剰に発達していること、それによって環境からの入力が過剰になっていることが自閉症の原因になっています。このことは、環境から取り込まれる入力が過大になり、その先のプロセスで処理しきれない状態になっていることを意味しています。
 言うまでもなく、「環境からの入力」の中でもっとも中心を占めるものが感覚器からの感覚刺激情報です。
 その感覚刺激情報が「過剰に入りすぎる」ことは、全体として感覚過敏の傾向を強めるでしょうし、その先の一般化処理のオーバーフローによって特定の刺激が「なかったこと」になれば、その刺激に対しては感覚鈍磨になると考えられます。
 また、補足記事で解説した大脳のモデルに則して考えると、自閉症児の脳では、大脳の中で「感覚野」として感覚を処理するために使われている領域が大きい可能性があり、これが結果として感覚の過敏などの異常につながっている可能性もあります。

 いずれにせよ、自閉症児の感覚異常は、抽象化処理と一般化処理のアンバランスから生じる、と考えることができそうです。

[関連文献]
感覚過敏や独特の知覚世界など、アスペルガー症候群の女性が語る自らの体験世界。
 

自閉っ子、こういう風にできてます!
著:ニキリンコ,藤家 寛子
花風社 (レビュー記事

(次回に続きます。)
posted by そらパパ at 22:47
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