2006年08月23日

「叱ること」について(5)

自閉症児を「叱る」ときに考慮すべきことを考えるシリーズ記事、今回が最後になります。

これまでに書いてきたポイントを簡単にまとめると、

・叱ることには様々な副作用がある。
・自閉症児を叱ることは、健常児と比べ、特にデリケートな問題になる。
・叱る前に、叱らないで問題を解決する方法を考える。
・こういった問題を考えるとき、ABA(行動療法)の考え方が参考になる。


といったところでしょうか。

最後に残った話題は、こういった工夫をもってしても、やはりどうしても「叱る」必要があるときの対応の仕方についてです。
具体的には、その場ですぐに禁止しなければならない危険な行動や、行動自体が強化子になってしまうような自己刺激行動などがこれにあたるでしょう。

やむを得ず「叱る」ときには、できるだけ、このシリーズ記事の最初で説明したような、さまざまな副作用が問題を複雑にしないように、次のような点に留意する必要があるでしょう。

1.叱るのは問題行動の直後のみ、時間がたってしまったら絶対に叱らない。
 罰が有効なのは行動の最中、あるいは行動の直後の数秒だけだと考えるべきです。このルールを守れば、仮にことばが通じない子どもであっても、問題行動と「叱られた」ことの関係を学習できるはずです。
 外で問題を起こして駆けつけたときや、子どもの問題行動に後から気づいたときなど、叱りたい気持ちが強くなるでしょうが、言葉が通じるお子さんの場合であっても冷静に言って聞かせるだけとし(言葉が通じない場合は何もしない)、普段の生活の中で、前回ご説明したような「叱らずに問題を改善する」アプローチを試みるべきなのです。
 
2.「叱る」ときには、必ず代替行動を提示、強化する。
 これは、前回、「消去と代替行動」の項目で説明したのと同じです。
 叱るだけでは、その行動によって得るはずだった強化子を得られなくなるため、子どものストレスが増し、罰に対して攻撃的な反応(パニック)をする傾向も強まるでしょう。
 例えば好奇心からくる危険な行動を叱るなら、同じような好奇心が満たせて危険でない行動に誘導してあげたり、特定の自己刺激行動を叱るなら(そもそも、これは本当に必要な場合に限るべきでしょうが)、別のより目的的な行動に誘導し、さらにそれを強化するといった配慮をする必要があるでしょう。
 あくまで「罰」だけでなく、あわせて「代替行動」を意識して作っていくことがとても重要です。

3.普段やってもいいことを特別な状況でのみ叱ることは原則としてしない。どうしても必要な場合はその場で代替行動を提示する。
 例えば、普段手づかみで食べることを許しているのに、レストランでだけ手づかみを叱るといったことは子どもを混乱させます。家でも手づかみを禁止するか、レストランでも手づかみを認めるのが適切な対応でしょう。
 「特別ルール」が避けられないケース、例えば普段遊んでいるおもちゃを、友達が来て遊んでいるときに奪ってしまうような場合は、奪ったおもちゃを返すのとあわせて、他のおもちゃのところに誘導してそちらで遊ぶことを教えるといった、「その場で代替行動を提示してみせる」ことが有効ではないかと思います。

4.叱るのは短く簡潔に。
 ことばの通じないこどもの場合、説明はまったくいりません。叱るときの短いフレーズ(我が家では「メッ!」)を1種類に決めて、常にそれを言うと同時に問題行動をすばやくやめさせます。最終的には、フレーズを言うだけで子どもが自発的にやっていることをやめるようになることを目指します。
 ある程度通じる子どもの場合も、簡潔かつできれば肯定文で一言伝えるだけにします。(「騒いではいけません」ではなく「静かにします」「座ります」など)

5. 罰は常に与え、しかも最初からある程度強く与える。
 これは条件付け実験の知見から言われていることですが、罰を与えると決めたら、その問題行動に対してはその罰を常に与えることが必要です。与えたり与えなかったりでは、「何に対して罰が与えられているか」が分からなくなります。
 また、これは勇気のいることですが、与える罰は弱すぎてはいけないそうです。弱い罰から徐々に強くしていくと、強い罰も効かなくなります。罰を有効に働かせるためには、最初から適度に強い罰(後で強める必要のない強さ)を与えなければならないのです。

6.問題行動を憎んで?子どもを憎まず。
 一度叱ったら、その後は普通に子どもに接します。叱ることによって起こる恐怖反応が、親の存在そのものに「汎化」され、親の回避、脱走などにつながることを防ぐためです。
 ただし、叱った直後に過剰にかまってしまうと、問題行動に対する「ごほうび」になる恐れもあるので、あくまで「いつもどおり」が大切です。叱った後にごほうびを与える、というパターンは、罰の与え方としては最悪だといわれています。

7.脱走するより一緒にいた方が「メリットがある」環境を作る。
 これは、脱走癖を作らない、あるいは身についてしまった脱走癖をコントロールするために必要な考えです。
 子どもが脱走するのは、脱走したほうが子どもにとって自由なことができる、楽しい経験ができる、怖い目に会わないといった「メリット」がある環境になっているからだと考えられます。これを何とかして、家などの「いるべき場所」にちゃんといたほうがメリットがあるという環境に変えていくことが、この問題を根本的に解決する第一歩になるはずです。
 例えば外に出たがる子どもに対しては、ただ外出を抑えるのではなく、決まった時間に散歩に連れて行ったり、家の中により楽しい刺激を用意することで、子どもにとって「脱走するよりしない方が楽しい」と思える環境を作ることを目指します。
 ここでも、「罰(叱ること)には必ず代替行動の提示・強化を伴わせる」というルールが活かされていることが分かります。


・・・もちろん、我が家でも、ここまで配慮の行き届いた「叱りかた」が実際にできているのか?といえば、大きな疑問符がつきます(^^;)。
でも、少なくとも、こういったことを意識して叱るか、そうでないかという違いは、年単位でみたときに、極めて大きな違いを生み出すことは間違いありません。

自分で書いたことを自分自身でもかみ締めて、自分の子どもにもより上手に接していきたいと思います。

追補:今回の「叱り方」を書くにあたっては、次の本も参考にしました。
 ABAの基礎となる、より実験心理学的な学習心理学を学ぶにはとてもいい本で、私も学ぶところがたくさんありました。値段もお手ごろでなかなかおすすめです。


学習の心理―行動のメカニズムを探る
実森 正子
サイエンス社
posted by そらパパ at 21:15
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