2006年08月06日

壊れた脳 生存する知(ブックレビュー)

以前からずっと気になっていましたが、古本屋さんで安く発見したのでようやく読むことができました。


壊れた脳 生存する知 (単行本)
山田 規畝子
講談社

序章 壊れた脳の中、教えます
第1章 私は奇想天外な世界の住人
第2章 脳に潜んでいた病気の芽
第3章 病気を科学してみたら
第4章 あわや植物人間
第5章 世界はどこもバリアだらけ
第6章 普通の暮らしが最高のリハビリ

はっきり言って、この本、とんでもないです。
何度も何度も脳卒中になって、そのたびにより深刻な脳障害を起こしていく「わが身」を客観的に自ら書き記した体験記なのです。

脳卒中によって、当たり前のようなことができなくなる「高次脳機能障害」の後遺症と闘い、回復してきたと思ったらまた脳出血が起こって前よりもっとひどい脳障害が出て・・・という、想像を絶する人生を、あくまで淡々と客観的に書き綴っていく様は、文章が冷静であればあるほど、鬼気迫るものとして読者に強烈なメッセージを伝えてきます。

著者は医師であり、自らの「脳」を見つめる目も極めて科学的です。
こんな風に、「脳卒中の後遺症と闘っている人がどんなことを感じ、どんな困難を抱えているのか」を自ら語った本というのは極めて珍しいと言え、「自閉症の人が自らを語った本」と同様に、脳に障害がある状態とはどのようなものであるかを知るための貴重な情報でもあると思います。

ところで、この本にも、自閉症児の療育に重要なヒントを与える記述がありました
 私の左半身は、やり方によっては触っただけでも痛い。(中略)
 子どもが左膝に乗ってくるのも絶叫ものだ。部屋に散らばったおもちゃ、とくにブロックなどを踏んだときの痛みは、まさに目から火。心臓が縮み上がり、しばらく口がきけない。
 このほかには、温かさと冷たさが、痛みに変わる。凍ったものや五十度くらいのものが要注意だ。障害が出てからレトルト食品のお世話になる機会が増えたが、湯煎して温めた食品の封を切ろうと、左手で持ち上げたとき激痛が走る。

(初版159-160ページ)

これは、本の中で最後の大出血のあとの後遺症の1つとして、左半身の感覚過敏が出るようになった、という記述です。

この記述を見ると、これを思い出さずにはいられません。
雨は痛いじゃないですか。当たると。(24ページ)
私は雨は痛くないですよ。でも扇風機の風が痛いです。(28ページ)

これは、「自閉っ子、こういう風にできてます!」の中のフレーズです。

自閉症児に感覚異常(特に感覚過敏)が多い、というのは最近では定説になってきていますが、この「感覚異常」というのが、脳の器質的損傷と密接に関連している可能性が高いということを、本書(壊れた脳・・・)の引用部分が示しています。

つまり、「感覚異常」と「自閉症という障害」の関係は、「自閉っ子・・・」でニキ・リンコさんなどが主張しているような「感覚異常が主たる障害で、自閉症の多くの症状はそこから生じる二次的障害なのではないか」というもの(感覚異常=原因、自閉症障害=結果)というよりはむしろ、自閉症特有の脳損傷のパターンがあって、その損傷が副次的に感覚異常を合併して引き起こしている(自閉症障害=原因、感覚異常=結果)というものであるという可能性を示唆していると思われるのです。

特に、本書の場合、「かつては感覚異常がなかった著者が、脳卒中によって感覚異常が出るようになった」ということを書いている点が非常に重要です。
感覚異常を訴える自閉症者の記述は、「感覚異常がない」という状態を経験していないために、本当にその感覚異常が(異常がない状態と比べて)どのようなものであるのかが正確に表現されているかどうかは、構造的に検証不能です。
ところが、本書の著者は「感覚正常」と「感覚異常」をちゃんと比べたうえで、「こんな風に感覚異常がある」ということを書ける立場にいます。これは強いです。

そんなわけで、「自閉症療育ブログ」という当ブログの性格上、変な角度からの読み方を紹介してしまいましたが、こんなことを考えなくても、本書はただ読むだけで本当に感動的です。
親が自閉症の子どもの療育に取り組む、というのも、ある意味運命的に与えられた「試練」であり、時には「大変だなあ」と思うときもあると思いますが(私もです)、本書を読めば、その程度の苦労とは比較にならない過酷な運命と闘っている著者の勇気に励まされることは間違いないと思います。

※その他のブックレビューはこちら
posted by そらパパ at 21:00
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