2006年06月03日

はだしの天使(ブックレビュー)

光とともに・・・」ほど有名ではありませんが、現在でも連載の続いている自閉症児の子育てまんが。



はだしの天使―自閉症児をみつめ考える実体験コミック
著:さがわ れん
ぶんか社

既に成人している自閉症者の母親にインタビューした内容に基づいて、プロの漫画家が描いたまんがということで、基本的な方向性は「光とともに・・・」にけっこう近いと思います。
「光とともに・・・」と決定的に違うのは、あちらのまんがは既にモデルの子どもの年齢を追い越しているらしく、現在のストーリーがフィクションになっているのに対し、こちらは既に成人している自閉症者の子どもの頃のお話ということで、ずーっとノンフィクションであるということと、時代設定が少し古い(15~20年くらい前?)ということでしょう。

実は、読んでいる途中まではレビューを書くことにかなり消極的でした。
でも、3巻まで読んで少し考えが変わったので、書くことにしました。

ストーリーはシンプルで、自分の子どもが自閉症だと知った母親が、さまざまな悩みや苦労を乗り越えながら子どもを育てるという「子育てまんが」です。

ただ、このまんがは「どう読むべきか」がとても難しい本だと思います。それが、当初「レビューを書かないつもりでいた」理由です。

第一に、とにかくこのまんがのお母さんは周囲の情報や状況に翻弄され続けます。
夫の無理解や近所の冷たい目といった典型的なネガティブエピソードはもちろん、さらには障害児の親の間での衝突、療育施設との衝突、政治や宗教への勧誘といった要素がてんこ盛りで、ストーリーの大部分でそういった周囲との衝突の中で翻弄される母親が描かれます。

翻弄されている姿は共感は呼ぶかもしれませんが、それを見て自閉症について理解するとか、新しいことを知るということにはつながりにくいですね。そういう意味で「このまんがから何を得るのか?」というのが「評価が難しい」理由の第一です。

さらに評価が難しいのが、このまんがが、統合教育は善であり、特殊教育は悪であるという結論に徐々に気づいていくというストーリー構成をとっているように見える点です。

このまんがでは、子どもを健常児の中においたり「普通の環境」に入れたときには大きな成長や適応を示すのに対して、療育施設などでは機械的な訓練ばかりで成長が停滞し、さらには意地悪な療育者から親までもがイジメを受けます。
さらに、「子どもを隔離せずに普通の社会の中で育てることが大切なのです」と力説する「先生」が登場し、まんがのお母さんはこの先生の主張に心酔していきます。
そして、3巻の最後では、療育施設に決別し、普通の幼稚園に入園させようと決意するところまでが描かれています。それまでイジメを受けながらも続けてきた療育施設に別れを告げるお母さんは、吹っ切れて「精神的に強くなった」イメージで描かれます。

特殊教育にも問題があり、統合教育にもいいところがあるのは事実です。
でも逆に、特殊教育だから行き届くところもあり、統合教育にはさまざまな困難が伴うのも事実です。少なくとも一般論としては、どちらが正しくてどちらが間違っている、と言えるような状況にはない、と私は思っています。

特殊教育(療育)においては訓練的要素が多くなり、子どもが喜ばないこともやらなければならない場合があるわけですから、それと「好きなことで遊ぶ」という状況を単純に比較して「特殊教育は子どもが楽しくなさそう、普通の環境では子どもが活き活きしている」と判断するのは、実はとても危険なのではないかと思います。

このまんがが「評価が難しい」最大の点は、いかにもレディコミ的な「分かりやすい」善悪の切り分けによって、「統合教育は善、特殊教育は悪」という単純化されたイメージを読者に刷り込んでしまいかねない、という点にあります。

そんなわけで、私も2巻くらいまでで読むのをやめようかと思ったのですが、何とか3巻まで読んだところ、3巻あたりから少し面白い問題意識が語られ始めていることに気づきました。

その1つは、「統合教育のほうが伸びる」という観点ではなく「伸びなくても『普通』の中にいたほうがいい」という立場が語られ始めている点です。
健常児の中にいて「ヘンなヤツ」と笑われていても、「そんなヤツいたな」と記憶に留められ、「ヘンな人」として社会の記憶に留められていたほうが、将来、何かあったときに手を貸してもらえるかもしれない。「障害者の世界」に隔離されてしまったら、そういった社会から縁が切れてしまうのではないか?
これは確かにちょっと鋭い指摘です。

そしてもう1つは、プロの療育者の限界に対する目です。
このまんがは、療育施設がずいぶん悪者に描かれていて、それを肯定することはためらわれるのですが、「プロ」の療育者が持ってしまいがちなある種の傲慢さや世間知らずな面、親ではないことからくる子どもとの避けられない「距離感」などが率直に描かれています。
これは、それが悪いということでなく、構造的にそういう限界があるんだよ、ということを気づかせてくれるという意味で重要な指摘だと思います。最近、そういった問題意識に関する本を読んでいることもあり、興味深く読みました。(これは、突き詰めていくと、実は親の療育こそがプロの療育よりもはるかに有効なのかもしれない、という可能性に行き当たる考え方でもあります)

療育の「プロ」という存在に、何をどこまで期待するのか。全否定することも盲信することも適切でないと思います。このまんがは「否定」のほうに傾きすぎているように感じるので、やはり「読み方」としては難しいのですが、うまく読めば重要な「気づき」を与えてくれる展開になってきていると感じます。

※その他のブックレビューはこちら
posted by そらパパ at 08:52
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