2006年04月28日

療育法の「いいとこどり」について

先日読んだ「自閉っ子、深読みしなけりゃうまくいく」に、最近の療育のトレンドとして、ABAやTEACCHなどの「いいとこどり」をすることが広がっている、といった話が肯定的に紹介されていました。

この「いいとこどり」という話、よく言われることですし、私も以前似たようなことを書いたことがあります。
が、こうやって市販書で大々的に書かれているは珍しかったので、少し驚いたのと同時に、本書の影響力を考えると、ちょっと心配な部分を感じました。

「いいとこどり」自体は悪いことではありませんが、いいとこどりできるのはテクニックの部分だけで、療育理念のいいとこどりというのは考えられません

ですから、「いいとこどり」する前提として、療育理念を1つに決める、ということが必要になります。そうしなければ、結果として矛盾するテクニックを寄せ集めてしまう可能性もあります。

今回は、ABAとTEACCHを例にとって、「テクニックのいいとこどり」と「理念を1つに決める」ことがどう関係するかについて考えてみたいと思います。

まずは、ABAとTEACCHの、最も根幹となっている考え方を改めて整理しておくべきでしょう。

ABA
 スキナーの徹底的行動主義心理学がルーツ。
 すべての考え方の出発点として行動主義があり、認知や心などもすべて、行動を分析することから説明されなければならないとする。
 自閉症療育においても、ABAの基本的スタンスは「行動障害を改善する」というもの。

TEACCH
 従来からあった、精神力動的な臨床心理学がルーツ。
 すべての考え方の出発点として、「人は、ばらばらの部品の集まりではない全人的な存在として扱われなければならない」という理念がある。
 自閉症療育における基本的スタンスは「自閉症者のQOL(生活・人生の質)を引き上げる」というもの。


このように、ABAとTEACCHでは療育に対するスタンスは180度といっていいほど違います。
特に大きな違いは、自閉症児に対する人間観です。

ABAでは、自閉症児は「矯正すべき問題行動の集まり」と考えます。
これに対し、TEACCHでは「まだら模様のスキルを持った全人的な存在」と考えます。

この違いが、療育アプローチの違いとしてダイレクトに現れます。

ABAにおける究極の目標は、「見つかった問題行動をすべて矯正すること」になります。言い換えれば「健常者と同じ行動をするようにすること」がゴールとなります。
療育プログラムの進め方としては、遅れが深刻なものほど優先して指導するのが基本です。

これに対して、TEACCHにおける目標は、「自閉症者が幸せで自立した人生を送ること」です。健常者と同じになることがゴールではありません
療育プログラムの進め方も、最も遅れている発達課題ではなく、「芽ばえ反応」と呼ばれる、ある程度発達が見られるものを優先します。そして、伸ばせる能力は伸ばし、そうでないものは不十分でも幸せに生きられるような環境を提供することを、ある意味での「究極の目標」と位置付けています。

端的に言えば、自閉症児を「できるだけ『普通』に近づけよう、それが結局は子どもの幸せだ」と考えれば、「立ち位置」はABAにぐっと近づき、逆に「この子の強み・弱みを尊重しつつ、この子にとっての幸せを探そう」と考えれば、それはTEACCHの立場に近くなると言えます。

これは、どちらが正しいとか間違っているということはありません。「理念なきテクニックの寄せ集め」にならないためには、まず自分の療育理念を決めて、それから療育テクニックの「いいとこどり」をしていく必要がある、ということです。

例えば、統合教育と特殊教育が1つの典型例です。統合教育はABAの志向に近く、特殊教育はTEACCHの立場に近い(やや乱暴ですが)と言えます。
家では構造化にこだわっているのに、就学はどんなに子どもの障害が重くても絶対に統合教育、という考えの人がいたとしたら、よほど合理的な説明がない限り、矛盾したテクニックの寄せ集めになっている可能性が高いと思います。

今回一番書きたかったことは、「何となくよさそうなもの」を集める安易な「いいとこどり」では、こういった微妙なケースで破綻するリスクがある、ということです。始めに理念ありき、なのです。

では、私は?といえば、立ち位置としてはTEACCHの側に近いと思います。
でも、療育テクニックとしての行動療法のパワフルさ(と限界)については確信していますので、有効な「道具」として、どんどん使っていくべきだと思っています。
posted by そらパパ at 22:36
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