2010年03月08日

ライブ・自閉症の認知システム (10)

このシリーズ記事は、先日、石川にて行なわせていただいた講演の内容を、ダイジェストかつ再構成してお届けするものです。


Slide 11 : 環境との相互作用モデル:自閉症の場合(図)


Slide 12 : 一般化障害仮説

さて、それでは、このモデルを自閉症にあてはめると一体どうなるのか、今後はそれを見てみましょう。
自閉症の人は、このモデルのなかで、「一般化処理」の部分の能力が、「抽出処理」と比較して弱くなってしまっているのではないか、と私は考えています
先ほどもいくつか例をあげてご説明しましたが、こう考えると、さまざまな自閉症の問題を、うまくまとめて説明できるんじゃないかと思っているのです。

これまでも出てきましたが、「一般化処理」というのは、抽出処理によって脳のなかに入ってきた個別の経験を再構成して、将来に役立つ一般的なルールや典型的なパターンを学習するという情報処理です。
それによって私たちは、「ことば」を獲得したり、ものをうまく操作したり、周囲の人に「こころ」を感じたり、コミュニケーションのやりかたを学んだり、世界を安定したものとして認識したりすることができます。外の世界、環境とうまくかかわるために欠かせないのが、この一般化処理というプロセスなのです。
そして、子どもの「発達」というのは、突き詰めて考えると、この「一般化処理」というプロセスを活用して、まわりの環境、まわりにいる人とかかわるためのルールを学習していくことだ、と言ってもいいんじゃないかと考えているわけですね。

ところが、その部分が、自閉症の場合は弱いと考えられるわけです。
そうすると、当然、いまお話したような、ありとあらゆる「環境とのかかわり」がうまくいかなくなってしまいます。
どれだけ経験を重ねても、そこから未来に役立つ知識がなかなか学習できませんから、環境に対してうまく働きかけることができなくなります。

もう少し詳しくお話ししますと、一般化処理が弱いということは、相対的にみて抽出処理が強すぎるということですよね。
図を見てください。

抽出処理によって外から入ってきた情報は、どんどん一般化処理に送られていきますが、ここが弱いと、すぐに「あふれて」しまいます。
一般化処理というのは、外界とのかかわりかたのルールを学ぶことですが、学ぶということは、すなわちその学んだことをルールとして蓄えておくということでもあると考えられます。
で、ここに処理能力を超えた大量の情報が流れ込んでくると、せっかく苦労して覚えたわずかなルールの上にも大量の情報が上書きされてしまって、一度ルールが消えてしまうと考えられます。この現象を「オーバーフロー」と呼びます。

ここで、あなたは川岸で遊んでいる子どもで、上流から流れてくる木の枝を拾って城を作っているというシーンを想像してみてください。
川岸の面積が十分に広くて、川の流れが落ち着いていれば、とても大きな城が作れるでしょう。
でも、川岸が非常に狭くて、しかも川の水が濁流のように流れてくれば、木の枝を拾うこともままなりませんし、大きな城を作るどころか、せっかく作りかけたお城もすぐに流されてしまいます。
ここで、「城」というのが一般化されたルールのことで、城を作ることはそのルールを学んでいくこと、川岸の広さが一般化処理能力、川の流れが抽出処理からの情報の流れだと考えていただければ、この図に書かれている「オーバーフロー」という現象をイメージしていただけると思います。

自閉症の子どもに何かを教えるときに、まず簡単な場面での対応を教えて、その後でより複雑な場面にも対応できるように汎化学習させようとすると、最初に覚えたことまで忘れてもとの木阿弥に戻ってしまうことがあります。これは、一般化処理がオーバーフローしてしまったせいだと考えることができますね。

また、ある程度知的能力が高い自閉症のお子さんの場合、赤ちゃんのころに少しだけことばを覚えるけれども、その後、ことばと対象の関係がこわれて、ことばが消えていってしまうという「折れ線現象」というものが起こるケースがありますが、それもこの「一般化処理のオーバーフロー」でうまく説明ができます。

小さいお子さんがことばを覚え始めるとき、まだ知っていることばが少ないあいだは何とか一般化処理がもちこたえて、ことばのルールを覚えることができるかもしれません。つまり、「小さな城」だったら作ることができるわけです。
ところが、覚えるべきことばが増えていくことによって逆に、これはとても不幸なことですが、どこかで一般化処理がオーバーフローしてしまって、もともと覚えていたことばもろとも「川の流れに流されてしまって」壊れていってしまうというのが、「折れ線現象」なんだろうと考えられるわけです。

つまり、自閉症というものをこのモデルで考えると、こんな風になります。

(1) まず、一般化処理が弱いために、抽出処理から流れ込んでくる情報を処理しきれずに、一般化処理が機能不全に陥ります。
(2) そのために、外の環境とかかわるためのルールや、ことばや概念を学習するために欠かせない典型パターンの知識の獲得がうまくいかなくなります。
(3) そうすると、環境への働きかけのためのノウハウがたまっていきませんから、働きかけそのものが少なく、貧しいものになります。
(4) そして、その働きかけに対する環境からの反応を取り入れて、ルールとして学習することも難しくなる、というわけです。


そうすると、先ほどもご説明した、環境から学んでいくためのフィードバック・サイクルがうまく回らずに止まってしまうことになるわけですね。
フィードバック・サイクルは、私たちの活動できる環境、つまりニッチを拡大するための原動力でもありますから、それがうまく回らなければ、ニッチは拡大しません。
結果として、活動の範囲や幅が非常に狭くなり、同じことを延々とくり返すような活動しかできなくなってしまうわけです。

このモデルのなかの「道具」についても触れておきましょう。
道具というのは、使いこなせるようになってしまえば「からだ」の一部というか「拡張されたからだ」の一部になりますが、そうなる前は、まだ「からだ」よりも外側、つまり「環境」のなかに留まっています。

最初はまだ自分の「からだ」にとって「ヨソモノ」である道具を、自分のからだの一部、知性の一部として使いこなせるようになるためには、やはりこれも、フィードバック・サイクルをまわすことによる環境との相互作用学習が必要になるのです。
何だか、にわとりと卵みたいな話ですけど、自閉症の人はこのサイクルが回りにくいわけですから、当然、「道具」を使いこなすことが難しくなります。
その、使いこなすのが難しい道具の最たるものが、「ことば」、特に音声言語だといえるでしょう。

このように、自閉症の人は認知システムのなかの「抽出処理」の能力に対して、相対的に「一般化処理」の力が弱いために、いろいろな問題が起こってくるんじゃないか、これが、私が考えている自閉症についての考えかたで、一般化障害仮説と呼んでいます。
証明されているわけではないので「仮説」と呼んでいますが、実際には心理学の世界で「理論」と呼ばれているものでも、他の科学の理論のような意味で証明されているものってあまりないですし、例えばフロイトの主張したこととかは、まったく証明ができない「仮説」ですけれども、普通に「精神分析『理論』」と呼ばれていたりしますから、まあ本音では「一般化障害理論」と呼んでもいいかな、とは思っています。

(次回に続きます。)
posted by そらパパ at 21:36
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