2009年06月11日

言葉よりずっと大切なもの-自閉症と闘いぬいた母の手記(立ち読みレビュー)

先日ちょっと触れた本ですが、いろんな意味で「頭の痛い」内容です。


言葉よりずっと大切なもの-自閉症と闘いぬいた母の手記
著:ジェニー・マッカーシー
WAVE出版

久しぶりにこのセリフを。

こ れ は ひ ど い

この本の内容を一言でいえば、自閉症児の母親の手記という形をとった「サプリメント系療法の推奨本」です。
著者はいろいろな療育法を試みるわけですけど、最終的な結論としては「GFCFダイエットとサプリメントによるイースト菌の排出で自閉症児がよくなった」ということになっているようです。

なので、簡単にまとめてしまえば、「ああ、よくある代替療法のエピソード本ね」で終わってしまうわけですけど、それ以外にもいろいろ考えさせられるところがありました(なので、立ち読みレビューを書いてみようと思ったわけです)。

実は先ほど「GFCF・サプリ療法の本だ」と書きましたけど、ほんの少し立ち読みしただけだと、そう見えないかもしれません。むしろ、第一印象としては「ABAの早期集中介入を推奨する本」に見える可能性のほうが高いのではないでしょうか。
実際、この本の売上の一部は、UCLA?の自閉症療育プログラムかなにかに寄付されるそうです。

著者は、ABAの早期集中介入を強く支持しながら、同時に、GFCFダイエットやサプリメント療法に熱を上げている、そういう人なのです。それだけではなく、お決まりのワクチン悪玉説、水銀キレーションも登場し、「ワクチンのせいで自閉症になった」とも示唆しています。
そして、本のサブタイトルに「自閉症と闘いぬいた母の手記(原副題は「A Mother's Journey in Healing Autism」)」とあり、本文の中では繰り返し「窓を開く」という表現が出てくることでも分かるとおり、本書は、自閉症を闘うべき「モンスター」とみなし、それを倒せば「窓が開き」「その奥に隠れていた本来の子どもが帰ってくる」と考えるような、ある種の典型的なスタンスをとっています。

ですから、著者はいろいろな療法にチャレンジしてはいますが、あるがままの子どもを受け入れて環境を整備するような方向のものには目もくれず、逆に子どもを具体的に改変して、現状と違うものに作り変えていくような、そういうものには科学的妥当性のチェックなしにのめりこんでいきます
そういった中で著者の「おめがね」にかなったのが、ABAであり、GFCFダイエットやサプリメント療法であり、キレーションだ、というわけです。
そして、「親は、子どものためにあらゆる手を尽くす(やっていることがずいぶん偏っていて、私には全然そうは見えないのですが)のが素晴らしいんだ」という精神論で終わります。(かのクリスタル・チルドレン説も登場しますよ)

なんかこの話の展開、ものすごい既視感があるなあ、と思ったら、あの有名な「我が子よ、声を聞かせて」でした。あの本の著者も、ABAの早期集中介入と同じくらい熱心に「抱っこ法」と「薬物療法」にハマり、自閉症をモンスター扱いして徹底的に倒そうとしているわけで、こういう強烈な「統制感の幻想(万能感の錯覚)」的なものは、もしかするとある種のアメリカ人のメンタリティなのかもしれないなあ、と思ったりもします。(別の関連記事

ABAっていうのは、「科学的な人」をひきつけているように見えて、実は「統制感の幻想を持ちたい人」(科学的かどうかなんてどうでもいい)をひきつけているケースも多々ある、ということを、改めて感じます。特に「早期集中介入」的なものは、そういうケースが少なくないのかもしれません。
でも、この世の中の相当部分は、実際には「どうにもならない(uncontrollable)こと」であり、それを「どうにもならない」という状態のままで受け入れ、そこに足場を作って、いまいる場所を直視する、その上で、できる(controllable)ことに地道に取り組むという覚悟、それも、自閉症児をもつ親御さんに必要な「強さ」だと、私は思います。(この本ではそういう「地に足のついた」親は非難の対象になっていて、「何でもやみくもに手を出す」ことが強く推奨されていますが)

ちなみにこの本の著者のジェニー・マッカーシーは、この本よりもっと露骨な代替療法の本も書いているようです。
http://www.amazon.com/dp/0525951032/

また、こんな記事もありました。
http://d.hatena.ne.jp/uneyama/20090202
世界最大の自閉症チャリティ団体(Autism Speaks)の取締役Alison Singerが自閉症の原因がワクチンかどうかを巡る見解の相違により辞任。(中略)さらに彼女は自分の息子がワクチンのせいで自閉症になってしかも治ったと主張する女優Jenny McCarthyを批判している。私たちは女優の言うことではなく専門家の話を聞くべきだ。

それはさておき、ちょっと看過できないのは、本書のあとがきを、「自閉っ子、こういう風にできてます!」で有名な花風社の浅見氏が書いていて、しかもその内容が本書の内容や著者の取り組みを明確に支持するものだということです。
「医者は自閉症は治らないというけれども、それでも諦めずに自閉症は治るということを信じた母親が、最終的にGFCFダイエット等に独力でたどりついて、そのおかげで大きく改善した」みたいなことをあとがきで書いているんですが、これじゃすっかり正統医療否定・代替医療推進のメッセージですよね。

うーん、浅見氏といえばそれなりに影響力もある人なのに、こんなあとがきを書いて「広告塔」になっちゃっていいのかなあ。

どうも、「続・自閉っ子、こういう風にできてます!」や「続々」での感覚統合「理論」へのこだわりといい、浅見氏は、療育的働きかけが「科学的かどうか」ということはあまり重視しない方なのかな、という印象です。

ちなみに、GFCFダイエットについての統制実験の結果等については下記が参考になります。統計的に有意な結果が出ていないようですし、子どもの骨を弱くする副作用があるともされているようです。
http://www.synapse.ne.jp/shinji/jyajya/abstract2006/elder3-23.html
http://en.wikipedia.org/wiki/Gluten-free,_casein-free_diet

※代替療法、医療まがい行為についての私の考えかたについては、こちらの記事も参照ください。

※その他のブックレビューはこちら
posted by そらパパ at 21:36
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