2009年05月11日

「七田式超右脳教育法で自閉症の子が良くなる!」をあえて読み解く(1)

※このシリーズ記事は、もう1年くらい前に書いて、そのままリリースする時期を逸して塩漬けになっていたものですが、先日この本の著者の七田眞氏が死去したこともあり、これ以上放置しておくと出せない記事になってしまいそうなので、まとめてリリースすることにしました。全6回、よろしくお願いします。

先日、古本屋さんで偶然、おお、これがあの有名?な!という本(良くも悪くも)を見つけて、105円だったので思わず買ってしまいました。


七田式超右脳教育法で自閉症の子が良くなる!
七田 眞
KKロングセラーズ
↑もう絶版になっているようで、古本しか買えないようです。古本なら興味本位で買っても、あちら方面に印税が払われることはありません。

第1章 ダメな子どもなど一人もいない
第2章 なぜ自閉症児・障害児がふえているのか
第3章 母親には子どもを治す力がある
第4章 心の子育てが子どもの異常を解消する
第5章 七田式右脳教育で自閉症児は治る
第6章 早期総合訓練でダウン症児もこんなに変わる
第7章 右脳の力を利用して左脳を育てるプログラム
第8章 毎日の取り組みプログラム
第9章 「食事」と「手当て」で子どもはどんどん変わる
第10章 小児科医・真弓定夫先生に聞く「子どもを元気に育てる方法」


これです。
この本の存在は知っていましたが、発行されてまだ6年(2003年初版)なのに既に入手が難しくなっていること、そもそもあちら方面に印税を払いたくないこと、他の著作をふまえれば本書も基本的には「トンデモ本」であることはほぼ確定だということなどから手を出していませんでしたが、まあ古本で105円なら、この人がどんなことを言っているかを知るのも悪くないだろうと思って買うことにしました。
実際、七田氏・七田式について調べていて当ブログにいらっしゃる方も少なくないようですので、彼と自閉症についての話題を改めて取り上げるのも悪くないとも思いました。

読んでみて、予想どおりだったことと予想に反していたことがありました

予想通りだったことは、本書がやはり相当な「トンデモ本」であった、ということです。
これまでも七田氏の本のトンデモさについては何度か(1, 2)紹介してきていますが、本書は自閉症専門に書いてある(と言いつつ、実はダウン症や他の知的障害も無邪気に混ざっています。七田氏は自閉症とその他の障害との区別があまりついていないか、区別する必然性を感じていないようです。)だけに、その「トンデモ自閉症論」のボリュームの多さは特筆ものです。

例えば、本書が主張する「自閉症の原因」を、一通り見てみましょう(これでもごくごく一部です。あまりにいろいろ出てきて引用しきれません)
自閉症児は砂糖中毒症と言ってもいいくらいです。(中略)砂糖は牛乳と相まって、脳の働きを完全に壊してしまいます。
(51ページ)


脳の神経回路は三歳までにはほとんど完成されます。だから三歳まではテレビを全く見せない方がよいのです。
自閉症児の多くは、生まれてすぐテレビやカセットなどから機械音を多く聞かされて育っています。
聴覚への刺激で一番大切なのは人間の声なのです。機械音で育った赤ちゃんは人間の声に反応しなくなります。機械音を全く聞かせないようにすると人の声に反応するようになります。(中略)加えてテレビの電磁波が赤ちゃんの間脳の働きを壊してしまいます。大脳の中枢である間脳を侵されるので、赤ちゃんが自閉的に育つのです。

(58~59ページ)

上記でカセットの機械音が否定されていますが、本書の後のほうでは、子どもが寝ているときに母親の声を歌を「カセットで」聞かせる方法が推奨されています。
今、水道水を飲んでいると妊婦が流産し、障害児を産む危険率が非常に高くなっていることを知らなくてはいけません。
(61ページ)


心に傷を負っている子どもは、そのために心を閉ざしていて、心を閉ざしているがゆえに、知能も育たないことを知っておく必要があります。
母親のマイナスの思いは、波動となって胎児の間脳に伝わり、それが異常ホルモンを生じさせ、(中略)脳の働きが悪い子にしたりします。
母親が妊娠中、つわりがひどく、こんなに苦しい思いをするくらいなら、もうこの子はいらないなどと思い、愛情をかけるのを忘れて子どもを産むと、(中略)心を閉ざして母親の愛情を受け取らず、(中略)記憶力の悪い子どもに育ちます。

(62ページ)


生後五、六カ月頃まではニコニコしていて喃語(幼児の言葉以前の発声)もよく出た赤ちゃんが、育てやすい子だというので、あまり手をかけず、言葉をかけないで育てた結果、その後急速に自閉的になったという例が、あまりにも多いのです。
(81ページ)


自閉的傾向を持つ子ども、情緒障害児、多動児、微細性脳損傷児、これらの子どもはみな左脳に障害を持っています。
(99ページ)


自閉症児はある場面では、必ずある決まった行動をとります。もしその行動がとれないとパニックを起こします。
(中略)問題は生まれたばかりの赤ちゃんの時に、お母さんが赤ちゃんに対し、いろいろ働きかけをするのを怠ったことに発するのです。

(101ページ)


自閉症も心の病として捉えるべきでなく、脳の働きや言葉に関係深い器官の発達に障害があると考えてよいのです。
脳や話すことに関係がある神経の発達を促せば、症状は消えていきます。

(152ページ)


生まれて約一年の間に自閉症が少ないのは、実はこの時期は体内でビタミンCが作られるからです。
(190ページ)


この時期(そらパパ注:三歳まで)に機械音をたくさん聞かされてレシチンが消耗され、不足すると神経組織の細胞膜は弱まり、加えて活性酸素の攻撃を受けやすくなるので、自閉症になりやすいのです。
(203ページ)


砂糖や牛乳のとり過ぎで、赤ちゃんの頭の細胞は活性酸素の攻撃を受けやすくなっています。
そこで自閉症は活性酸素による神経細胞(ニューロン)の破壊が原因だといわれるのです。

(204ページ)


次に、塩を摂らせることの大切さを知って下さい。(中略)塩不足ではナトリウムの不足した状態になります。この状態が怖いのです。
まず、目が合わなくなります。ナトリウムが不足すれば神経細胞に流れ込むナトリウムイオンの量が不足し、神経も興奮しないし、筋肉も収縮しなくなります。
こうなると自分の意思で自由に目が動かず、目が勝手な行動をします。それが目が合わない原因です。

(206ページ)

うーん・・・結局どれが自閉症の原因なんでしょうか?
ページ番号を見ていただければ分かるとおり、これらは全部、同じ本のほとんど隣り合ったくらいの場所に次々と書き連ねられています。
まさか、思いついたもの・聞きかじったものを思いつくままに並べているだけってことはないと思いますが・・・

言うまでもありませんが、こんなにいろいろ原因を並べれば、どんな子どもでも(健常のお子さんを含めて)どれか1つくらいは必ず該当します。特に、テレビを3歳までまったく見なかったり、ミルクや砂糖をまったく摂らない子ども、つわりの時期にネガティブなことをまったく考えない妊婦なんてのは(子どもの障害のありなしにかかわらず)ほとんど存在しないでしょう。
その一方で、この本の読者はほとんどが自閉症児などの障害児の親でしょうから、当然これを読めば読者はみな「心当たりがある」ことになるわけです。まあこれは単純なトリックですから、冷静に読めばすぐに分かることでしょう。

もちろん、そもそも論として「親の育て方や食事が原因で自閉症になる」という、定説とは大きく異なる前提から議論が始まっているので、どれが原因かといった議論や反論も空しくはあります。まあ、こういう前提に立たないと、『七田式で治る』ことにならないので、彼らにしてみれば当然の出発点だとは思いますが。

また、上記の議論は肉体的・物理的な議論と精神的・超物理的な議論との間を無邪気に行ったり来たりする、心の哲学的には相当に稚拙な議論が展開されている点も指摘しておかなければならないでしょう。
以前書いたように、精神と肉体を分けて考える「心身二元論」の立場をとる場合(もちろん、本書の立場はこれになります)、両者の相互作用がなぜ実現できるのかという哲学上の難問が生まれます。簡単にいえば、肉体と精神が別のものなら、私たちが意思によって体を動かせるということが「念力」でしか説明できなくなる、という議論です。

この問題については本書の答えはシンプルです。
「念力は存在する」という前提にあっさりと立ってしまうわけです。そして、物理的・肉体的世界と超物理的・精神的世界との間を媒介する実在として「波動」、それを仲介する組織として「間脳」を想定しているようです。
右脳とか間脳とかニューロンといった、一見脳科学のキーワードを使った科学的な議論の体裁はとっていますが、先の引用で「波動となって胎児の間脳に伝わり」といった文章が自然に出てくるように、実際に説かれているのは、少なくとも一般的には「疑似科学」とか「トンデモ科学」などと呼ばれているような、むしろオカルト的な議論であることを見逃してはいけないでしょう。

ただ、今回は単なる否定レビューではなく、実はこの後、この本をある程度真面目に「読み解く」試みをやっていきたいと思っています。
それによって、私なりの「七田自閉症論」についての考察としたいと考えているからです。
ボリューム満点でまだまだ続きます(笑)ので、ご期待?ください。

(次回に続きます。)
posted by そらパパ at 22:16
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