2005年12月28日

ラットの実験で学んだこと-「非」集中介入のすすめ

我が家でも、数ヶ月前からようやく行動療法の考え方に基づくフォーマルなトレーニングを、型はめとカードによる単純マッチングから開始しました。経過はまずまず順調で、現在は型はめと選択マッチングと動作模倣、3つ合計で15分程度のトレーニングを行なっています。

これまでも何度か書いてきましたが、このブログでは、一部に言われているような「毎日長時間にわたるトレーニングが必須である」という立場は取っていません。少なくとも、行動療法のトレーニングは短時間でも一定の効果があることは事実ですから、与えるべき課題を厳選し、途中で挫折せず、継続することが大切だと思っています。

実はそれに加えて、「あまり長時間のトレーニングは安易にしないほうがいい」といえる積極的な理由もあるのです。今日はそれについて書きたいと思います。

私は大学時代、心理学を専攻していました。私のいたところは基本的に認知心理学が強くて、そこに行動心理学(ABAや行動療法につながるもの)や脳科学、情報処理心理学などの要素が散りばめられていました。フロイトやユングなどの精神分析や夢分析などにはまったく関心がなく、実験できることだけが心理学の取り扱う領域だ、というカルチャーが厳として存在していました。

その意識を学生にも徹底させるために最初に放り込まれるのが、ラットを使った学習に関する実験です。以前書いたことがあるので詳細は省きますが、その実験内容は行動療法の「ごほうび」を使ったトレーニングそのものです。毎日実験を続けていると、数日でラットはレバーを押したり、迷路を正しく抜けたりしてえさを手に入れることができるようになります。

ところが、私にとって驚きだったのはこれだけではありませんでした。
この実験をやると、かなりの数のラットがストレスにやられてしまうのです。具体的には、体毛が抜け、胃潰瘍になって体がやせ細り、最後は死んでしまいます。(殺すために実験しているわけではないので、倫理的な議論はご容赦ください。)
そのストレスを緩和するため、実験者は毎日実験の前にかなり長い時間ラットをやさしくなでて、愛情?を注がなければなりません。また、排泄物の処理をこまめに行なって、衛生的な環境を維持する必要もあります。
この「マッサージ」と「衛生管理」をしっかり続ける、つまりちゃんと世話を焼いて大切に扱うことによって、ラットが死なせてしまうリスクはかなり小さくなります。逆に、こういった世話をサボると、本当にあっさりとやられてしまうので、ラットを死なせた学生は実験を監督している助手や院生から世話不足だと叱られます。
ただ、一部には最初からストレスに弱いラットもいて、一生懸命世話をしたにもかかわらず死なせてしまうケースもいくつかありました。また、死ぬところまでいかなくても、毛が抜けたりやせ細るラットは少なくなく、体調があまりに悪いときは実験を休止して体調の回復を待ちます。

この事実から、行動療法に取り組むにあたって非常に重要な教訓が得られます。

まず第一に、行動療法によるトレーニング、特に難しい課題を与えるフォーマルトレーニングは、それを受ける側にとって予想以上に大きなストレスになる、ということです。あまりに長時間のフォーマルトレーニングは、結果として、お子さんに致命的なダメージを与えることにもなりかねません。
自閉症児は自分の体調の変化をうまく説明できないことが多いことが、さらにリスクを増大させます。

これは非常に大切な視点で、私が家庭での早期集中介入をあまりおすすめしない理由の1つでもあります。早期集中介入に擁護的な立場から言えば、だから素人は行動療法に手を出すな、専門家に任せろ、ということになるのでしょうが、それは「早期集中介入」は専門家に任せろ、ということであって、行動療法そのものが危険だということではありません。難易度が適度にコントロールされた短時間のトレーニングは安全だと言えます。

ただ、行動療法に取り組んでいると、熱心な親御さんほどトレーニング量を増やしたい要求にかられるのではないでしょうか。特に、予想外にいい成果が出た場合「これならもっとできるかもしれない」とのめり込んでいくケースが考えられます。でもそれは、「危険な誘惑」かもしれないのです。早期集中介入に匹敵するようなトレーニング量を目指すとすれば、やはりそれは専門家が必要な領域だと考えたほうがいいと思います。
(さらに言えば、専門家をつけたとしても、そこまでやる価値があることなのか? 個人的には疑問に思っています。)

そして第二のポイントは、ラットへの愛のマッサージ?がストレスを軽減することから分かるように、トレーニングのストレスをためこませないような、お子さんへの精神面へのケアが絶対に必要だ、ということです。

これは簡単に言えば「愛情を注ぎましょう」ということに尽きます。お子さんの毎日が充実した楽しいものになるような努力を精一杯重ねて、お子さんにとって行動療法のトレーニングが「楽しい毎日の生活の中に、ちょっと大変だけどやらなきゃいけない課題の時間がある」といった位置づけになるように持っていかなければならない、ということです。
別の視点から考えると、お子さんの精神状態が安定し、親の愛情をそれなりに受け止められるようになり、毎日を楽しく過ごしているように見えるようになるまでは、少なくともフォーマルなトレーニングは開始しないほうがいい、ということでもあります。
その段階に至らない状態、つまり子どもにとって、この世界も親の愛情も何も分からない混沌とした精神状態・認知状態であるうちは、まずはその「わけの分からない状態」から脱するための日々の関わりや感覚統合訓練などに集中して取り組むべきだと考えています。
posted by そらパパ at 22:39
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