2005年12月21日

心を生み出す脳のシステム(ブックレビュー)

久しぶりにエキサイティングな読書体験をしました。


心を生みだす脳のシステム―「私」というミステリー
著:茂木 健一郎
NHKブックス

1 脳内現象としての「私」
  脳の中に鏡があった
  「私」とはクオリアの塊である
  言葉の意味が立ち上がるとき
2 世界を把握する方法
  身体感覚のダイナミズム
  アフォーダンスとは何か
3 「私」という視点が生まれるとき
  鏡の中の「私」
  なぜ、他人の心が読みとれるのか
4 主観と客観はどう統合されるのか
  「私」の背後に隠されたもの
  脳の中の時間、心の中の時間
  新たなるシステム論へ向けて

この本、タイトルには「自閉症」とはまったく書いてありませんが、偶然中を見ると、自閉症の話題に大きなスペースが割かれていることが分かり、思わず買ってしまいましたが、その期待に十分応える内容でした。

本書は、脳科学・認知心理学の一般向け啓蒙書という位置づけですが、取り上げられている題材が私の関心のストライクゾーンのど真ん中です。

読み始めると、いきなり最初の編で、以前別の本で読んで関心を持った人の行動に反応するミラーニューロンの話題から始まり、ぐっと引き込まれます。
さらに第3編の「鏡の中の『私』」では、動物が鏡に映った自分の姿を見て自己意識を持てるかどうかを追求するという話題が取り上げられていて、私が鏡による療育を思いついたときに漠然と考えていたことがはっきりと書いてありますし、続く「なぜ、他人の心が読み取れるのか」では、自閉症児の脳のシステムにどのような障害が生じているのかについて、およそ25ページにわたって、最近話題の「心の理論」をベースに考察が加えられています

結果として、「意識」や「心」をキーワードとして、現代の脳科学・認知科学のある分野の知見の全体像がうまく概観でき、頭の中が整理される内容となっています。そしてさらに意味のあることは、自閉症が抱える脳システム上の問題についての議論が(もちろん仮説としてですが)こういった「全体像」の中に位置づけられ説明されているという点です。

私の知る限り、「脳科学・認知科学」と「自閉症」の両方がこのように有機的に関連づけられ、詳細に解説されている啓蒙書というのは、ちょっと他にはないと思います。

私自身、まがりなりにも大学で認知心理学を学んできて、その文脈の中で自閉症を理解しようと努力しているわけですが、その考え方が全体としてどんな意味をもつのか、どのような方向に向かえばいいのか、この本を読んで改めて整理することができ、またいろいろなヒントを得ることができました。

自閉症の療育における、認知科学・脳科学の知識の重要性については、まだまだ十分に理解されていないように思っています。もともと、「療育」という方法論自体が、どちらかというと実験心理学ではなく臨床心理学の世界から発展してきたという歴史も原因の1つかもしれません。
とはいえ、より効果的な療育、少なくとも行動療法(ABA)に関心を持ち療育に取り入れていこうと考えたとき、脳や認知についての知識があるのとないのとでは取り組みの内容がまったく変わってくるのではないかと思います。

そして、認知科学的なアプローチで自閉症児の問題とその療育の可能性について考えるとき、ただ単に自閉症児の問題だけを取り上げても、問題の本質に近づけないように思います。なぜなら、私たちは脳や認知というものに対して、ある種の絶対的な信頼感を常識として持ってしまっているので、それがうまく動作しない状態というのをなかなか想像できないからです。
そういった「常識」を一度壊して、認知や脳のシステムに対する考え方を相対化することができて初めて、認知科学が自閉症に対してどう関わってくるのかを正しく捕らえることができます。
そのためには、認知科学全体、特に「心」に関わるような高次脳機能に関する認知科学についての幅広い基礎知識をもつことがとても重要だと思います。

そのような観点で考えると、本書は、自閉症の療育にかかわる人の脳科学・認知科学の入門書として最適だと思います。非常におすすめです。
ですので、この本も、私のおすすめする必読書として、殿堂入りさせたいと思います

補足:
 この本は「心」や「意識」を主題として扱っているわけですが、個人的には、「心」というものを必要以上に手の届かない崇高なもの、高尚なもの、ヒトをヒトたらしめる貴重なもの、と素朴に信じすぎていて、それが問題をややこしくしている面も少し感じます。
 自閉症の療育からは離れていってしまいますが、この本の考え方自体を「相対化」するためには、以下のような本も読んでみるといいと思います。下記の本は、心や意識といったものをもっと単純な、コンピュータで簡単にシミュレーションできるようなものだと割り切ってしまう考え方に立っています。実は、私の大学時代の専攻は、下の本に出てくるような、ニューラルネットワーク、自己組織化といったジャンルになりますので、これらの本の論旨にも非常に共感できるものがあります。



脳はなぜ「心」を作ったのか―「私」の謎を解く受動意識仮説
著:前野 隆司
筑摩書房




創発―蟻・脳・都市・ソフトウェアの自己組織化ネットワーク
スティーブン ジョンソン
ソフトバンククリエイティブ

まだ読みかけなので、読了後機会があれば、もう少し詳しく紹介できるかもしれません。

※その他のブックレビューはこちら
posted by そらパパ at 23:25
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