2008年09月08日

おかあさん☆おとうさんのための行動科学(ブックレビュー)

まさに「待望の1冊」です。



おかあさん☆おとうさんのための行動科学
著:石田 淳
フォレスト出版

はじめに
PART1 行動科学ってなんだろう?
 人の行動に着目した科学、それが「行動科学」
 「きちんとあいさつしなさい」は、言ってもムダ
 計測は本当に大事
 「ゴール」の重要性
 「ほめる」ことの意味
 長続きしないのは、どうして?
 できる子・できない子の違いとは?
PART2 「とっておきのスキル」編
 苦手を克服する技術
 行動科学の「叱り方」
 「やり方」の教え方
 「続け方」のコツ1 「増やしたい行動」「減らしたい行動」
 「続け方」のコツ2 環境を整える
 ポイントカードが「できる子」をつくる?
 おとうさんを育児参加させる法
行動科学と学習
おわりに

この本、書店で見かけた瞬間にレジに持っていってしまいました。

というのも、本書の著者である石田氏には、「短期間で組織が変わる 行動科学マネジメント」を読んで以降、ずっと注目していたからです。それは、彼が行動科学(ABA)を武器にしてセミナーや企業のコンサルティングを行なっている「行動科学コンサルタント」を名乗っていて、「アカデミックではない方面の人が、本格的なABAを語るという、日本では稀な例」だからです。

ご存知のとおり、ABA(応用行動分析)は、自閉症児の療育に絶対に欠かせない技術で、子どもが自閉症だと知った親御さんがまっさきに学ぶべき知識のひとつです。
ところが、そのような方のための「はじめてのABA」に相当するような本が、いままでなかなかありませんでした。

ABAの正当な入門書としては、当ブログでも殿堂入りしている「行動分析学入門」がありますが、これは大学の研究者が書いたものなので、理論面をかっちり学ぶにはまたとない本なのですが、「やさしい実践の本」とはちょっと違います(ですから、本来は「やさしい本」の次に読む、2冊目の本としてすすめられる本です。)

一方、実践寄りのABA入門書としては、「みんなの自立支援を目指すやさしい応用行動分析学」が好著ですが、ABAの理論面が弱いので、「ABAそのものを知る」という点では若干力不足です。

そんな中で、石田氏が、いかにも易しそうな「ABAで子どものしつけ」という本を書いたことを知り、これは、自閉症児の親のための「やさしいABA」として活用できるんじゃないか、と期待を込めて読みました。
そして、本書はその期待に十分に応えてくれると確信しました。

この本の意図するところは、「はじめに」を読むだけで十分に伝わってきます。そして、それはABAを知っている人間からみると、思わずニヤリとするようなものばかりです。
 あなたは知らなかっただけです。
 子どもにしつけを教えるときには、とっておきの「教え方」があることを。
 この本で紹介する「とっておきの教え方」、それは「行動科学」という考えに基づいたものです。

(初版3ページ)

 重要なことは「行動に着目する」ということ。これだけです。
「子どもの性格を変えてやろう」
 だとか、
「精神を鍛えよう」
 ということは、この本では一切触れていません。

(初版6ページ)

ところで、この「はじめに」では、石田氏が日本の自閉症児の療育にABAが幅広く活用されていることに触れていて、いきなり驚かされます。
 行動科学は、本場アメリカでは、教育の世界では当たり前に行われているものです。
 日本では、障害者教育、自閉症児の教育のスキルとして入ってきました。

(初版4ページ)

「おわりに」を読むと、実は石田氏は自閉症児の「早期集中介入」の権威である中野良顯氏とかかわりがあるようですので、自閉症療育に詳しいのも納得です。

そして、PART1では「ABAの考えかた」が、PART2では「ABA的な子育ての実践法」が、これまでにない「易しさ」で語られていきます。
「行動」っていうのは、「具体的に、何をすればいいのか?」がわかるものです。実際に何をしたらいいかを考えてしまうものは、行動とはいえません。
 子どもに何かをさせるとき、他人に指示をするとき、人は、自分が思っている以上に曖昧な言葉を使うことが多いのです。
 たとえば子どもに「きちんとあいさつをしなさい!」と言ったとしても、具体的に、どんなあいさつが「きちんとしたあいさつ」なのかがわからなければ、あいさつのしようもなくなってしまいます。
(中略)こんなふうに言えばいいんです。
「必ず相手の顔を見て/ニコニコしながら/大きな声で/『こんにちは』って言おうね」

(初版25、27ページ)

こんな感じで、ずっと子どものしつけと教育のことが書いてあるかと思うと、なぜか最後には「お父さんを家事に参加させるためのABA」が書いてあって、思わず笑ってしまいました。(スモールステップで簡単な家事を用意してあげて、やったらすぐにほめてあげましょう、と書いてあります(笑))

それにしても、以前レビューした「短期間で組織が変わる 行動科学マネジメント」でも書いたのですが、石田氏は相変わらずトークンエコノミー(本書では「ポイントカード」)が好きですね。
確かにトークンエコノミーは一般には有効な方法だろうとは思いますが、ABAのなかではそれなりに「高度な応用」だと言えますので、本書でABAを初めて学ぶ方は、まずは「ほめ方・叱り方・望ましい行動への誘導法」といった、本書のPART1に含まれるような、より基礎的な取り組みから始めて、ある程度ABA的働きかけに慣れてから「ポイントカード」に進んだほうがいいかもしれません

ちなみにこの本、ボリュームはかなり少なめです。
目次を含めても141ページ、余白がたっぷりあるレイアウトなので、単行本サイズですが文字が印刷してある領域は文庫本サイズくらいです。読書が速い人なら、確実に1時間以内で読めるでしょう。
内容的にも、ABAの全体を広く浅くカバーしたものですので、少なくともABAを「知っている」と自認している方にとっては、新しい情報は乏しいと思います。

でも、それがいいのです

本書には、「むずかしいこと」は書いてありません。
ABAには精神論がなく、すべてが目に見える世界のなかで割り切って説明されますから、おそらく本書は「一般的な子育ての本」よりも易しいとさえいえます。石田氏の語り口も絶妙で、あちこちで「なるほど」とうなずきながら、一気に読めてしまうのも魅力です。(ただし、PART2の「続け方のコツ」のところだけは、記述が混乱気味でややこしくなっている気はします。)

それでいて、そこにはABAのエッセンスがぎっしりと詰め込まれています。
本書で内容をABAの用語で整理すると、強化、罰、消去、代替行動分化強化、系統的脱感作、学習性無力感、シェイピング、トークンエコノミーなどが含まれ、「主要なABAの概念」は網羅されています。本書を読めば、ABAの「基本的な考えかた」と「基本的な実践法」がマスターできます

もちろん、自閉症児、発達障害児の療育にも本書の知識は応用できるでしょう。
ことばが通じる高機能のお子さんなら本書のやりかたの多くがそのまま使えるでしょうし、そうでない場合も、本書を出発点に「子どもへの接しかた」を変え、さらに自閉症児に特化したABAの本(例えばこれ)に入っていくことで、効果的なABA療育を始められるでしょう。

そして、他のABAの本を読む場合も、本書で「ABAの基本的な考えかた」を学んでおけば、専門用語に臆することなく、スムーズに読み進めていけるはずです。

「ABAって良さそうなんだけど、難しそうで手が出ない」と思っている方には、本書が最高の道案内役になってくれることは間違いありません
また、母親が「療育に参加してくれないお父さん」に読ませるのにも、父親が「本を読んで理論を学んだりすることに興味がないお母さん」に読ませるのにも、ベストチョイスの1冊だと思います。

ABAに関心がある・知りたいと思う、すべての親御さんにおすすめできます。(もちろん、この本を読んで、それで「終わり」ではなく、こちらの本などにぜひ進んでいっていただきたいとは思います。)
ともあれ、「はじめてのABA」という新境地を開いてくれた本書を、久しぶりに、当ブログ「殿堂入り」に認定したいと思います

※その他のブックレビューはこちら

おまけ:石田氏はもうすぐ新書も出すようですね。こちらも個人的には楽しみです。(また「トークンエコノミー」がたくさん出てきそうですが(笑))

上司のための戦略的ほめ方・叱り方
宝島社新書
2008/9/9発売予定

さらに追記:石田さん、波動とかには手を出さないほうがいいですよ(^^;)。(ただ、この「ABAでダイエット」という本、「なか見検索」で見ると相当面白そうですが。)
posted by そらパパ at 20:47
"おかあさん☆おとうさんのための行動科学(ブックレビュー)"へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。
子どもが自閉症かもしれない!どうしよう!という親御さんへのアドバイスはこちら
孫が自閉症らしい、どうしたら?という祖父母の方へのアドバイスはこちら

fortop.gif当ブログの全体像を知るには、こちらをご覧ください。
←時間の構造化に役立つ電子タイマー製作キットです。
PECS等に使える絵カード用テンプレートを公開しています。
自閉症関連のブックレビューも多数掲載しています。

花風社・浅見淳子社長との経緯についてはこちらでまとめています。

×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。