2008年08月04日

「水よりもお湯の方が早く氷になる」実験の話題

科学というものに対する態度が問われる話題なんじゃないかと思います。

http://www.j-cast.com/2008/08/01024523.html
「水よりお湯早く凍る」論争沸騰 日本雪氷学会で本格議論へ
NHKの番組が紹介した「水よりもお湯の方が早く氷になる」実験を巡り、ネット上の議論が盛り上がっている。早大の大槻義彦名誉教授はブログで、水の方が早く凍る実験結果を示し、NHKを再び批判。物理学者らの間でも関心が高まり、日本雪氷学会で研究者らが本格的に議論することになった。

この話題は、NHKの番組「ためしてガッテン」で、「水よりもお湯のほうが早く氷になる(ことがある)」という実験結果を示したのに対して、オカルトと言えば噛みついて否定することで有名な早大の大槻教授(いまはもう名誉教授のようですね)が、「そんなバカなことがあるものか」と批判した、という話題です。

ただ、いつもはオカルトと戦っている大槻教授ですが、今回の相手は、オカルトではなく科学者(この「ためしてガッテン」の実験は、北大低温科学研究所の前野紀一名誉教授が監修しているそうです)です。そして、大槻教授の批判に対して、しっかり科学的に再反論している点が、いつものオカルト批判とは異なった展開だと言えるでしょう。

この議論は、一見謎めいていて、オカルト的なものがありそうに見える(実際、そのように受け止めている人もいるように見受けられます)が、実はこれは単に「古典的科学対複雑系の科学」という対立の構図が浮かび上がっているに過ぎないように、私には思われます。

つまり、お湯を氷にするよりも水を氷にする方が奪うべき熱量が多いから、水よりお湯のほうが早く凍るなんてことはありえない、という風に、議論を「熱量」の1要素だけに絞り込んで(還元して)、その中で合理的な説明をすることで「科学的真理」を得られる、と考えるのが、「古典的科学観」になり、大槻教授はこちらの立場です。

一方、「お湯や水を凍らせる」という行為は、単に奪う熱量の大小の問題ではなく、気化や対流、そしてさらに冷凍室の温度設定(とその微妙な変化)など、さまざまな現象の相互作用の結果なのであって、その現象を細かい単位に細分化(還元)してしまうと実際に起こることは予測できなくなってしまう。その相互作用のバランス次第では、「水よりお湯が早く凍る」ということも起こりうる(ただし、それを単純な計算式などで示すことはできない)、と考えるのが、「複雑系の科学の科学観」であり、前野名誉教授はこちらの立場だということになります。

私は、今回の議論の真偽を厳密に判定するだけの知識は持ち合わせていませんが、この2つの立場のどちらを原則的に支持するかということであれば、明確に後者(複雑系の科学の科学観)になります
大槻教授のように、「科学の単純化されたモデルであらゆる現象は説明できる」という立場は、さすがにもう古すぎるのではないか、と思います。

さて、ここでこの話題と自閉症療育とのつながりについて、2点ほど書きたいと思います。

まず1つめですが、「科学にも限界があり、最新の科学をもってしても容易に分からないことがある」という認識をもったときに、そこから一足飛びに「だから、科学で証明できない神秘的な現象も大いにありうる」という結論になってしまってはいけない、ということです。
「科学の限界」といっても、何も分からないということではなくて、なぜ限界があるのか、どんな問題を解くのが難しいのかはたいてい分かっています。そして、その「難しさ」に挑戦しようとする「新しい科学」も生まれてきています。それが、現代物理学であったり、「複雑系の科学」であったりするわけです。

自閉症の怪しげな代替療法などでは、「科学的に解明されていない」という批判を、上記のような理屈でかわすケースがよく見られますが、それは「科学の限界」の実態をねじ曲げた主張です。

現時点における科学に限界があるのは事実ですが、それは、オカルトの存在を簡単に許すようなタイプの「限界」ではない、ということは知っておく必要があると思います。

次に2つめの関連ですが、ここで登場した「複雑系の科学」というのは、脳神経ネットワークやヒトの発達などとも密接に関係しており、自閉症について考えるときにも極めて重要な方法論だと私は考えています。
このあたりについての私の考えかた、複雑系の科学と自閉症との関係などについては、私の1冊めの本「自閉症-『せかい』と『からだ』をつなぐ新しい理解と療育」で詳しく書いていますので、興味のある方はぜひ参照してください。

複雑系の科学、というと、何か遠い世界のこととか、少し知っている方ならコンピュータマニアのお遊びだとかいったイメージがつきまといがちなのですが、実は天気予報や景気の動向、交通渋滞など、非常に身近なものとつながっています。
今回も「冷凍庫で氷を作る」なんていう、極めて日常的で結果も観単に予想できそうな現象が、実は、
「コンピューターシミュレーションでも解明できないような難しい現象が、単純な形で現れているからです。物理の専門家はいかに難しい問題であるかをよく知っていて、プロジェクトを組まないと分からないものなのです」。
そして、東大で9月24~27日に開かれる日本雪氷学会の研究大会で、関心ある研究者を集めて科学的に議論したい考えを明らかにした。

なんていう、トップクラスの研究者がプロジェクトを組んで研究するくらい難しいトピックだったりする
ところが、「複雑系の科学」の面白さなのだと思います。

そして、自閉症の理解にも、この「複雑系の科学」の考え方が大切だと、私は考えているわけです。
posted by そらパパ at 21:23
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