2011年01月24日

「子育ての工夫」としてのABA入門 (4)

さて、これまでのシリーズ記事で、ABAの一番重要なポイントは、私たちに「内面モデル」とは異なる人の行動の理解のしかた、働きかけのポイントを教えてくれるところにある、という話をしてきました。
専門家によるトレーニングではない、「家庭の療育」「工夫のある子育て」としてのABAでは、この「新しい考えかた、見方を意識して、少しだけ子育てのやり方を変える」というところこそが最も大切なんじゃないか、そう思っています。

ここからは、実際の子育ての場面で、「ABA的な見方、考えかた」がどんな風に活かされるのか、それはよくある「内面モデル」とはどんな風に違うのか、そういったことを考えながら、具体的なABAのテクニック的なこともその中に織り交ぜる形でご紹介していきたいと思います。

ここで例として、目の前で突然パニックを始めたお子さんがいると想定します。何とかしなければなりません。

ここで、「この子は何を考えているんだろう」というところから問題の解決を図ろうとするなら、これは完全に「内面モデル」の考えかたです
つまり、「いまこの子が考えていること=内面の動き」が、パニックという「行動」を引き起こしている、という構造を前提にものごとを考えていることになるからです。

では、「この子は何に困っているんだろう」あるいは「この子は何を伝えようとしているんだろう」ではどうでしょうか?
この視点は、そんなに悪くありません。ABA的思考法に慣れた後なら、こういう視点から問題を探っていっても迷うことは少ないでしょう。

でも、そうでない(まだABA的思考法に慣れていない)場合は、この問題設定もあまりよくありません。
なぜなら、このレベルだと、まだ簡単に内面モデルに移行してしまう可能性が残っているからです。
例えば、「何を困っているんだろう」「何を伝えたいんだろう」という問題設定は、「子どもが内面から発するメッセージを何とかして探ろう」という方向性に、簡単に変わってしまいがちです。そうすると「内面モデル」になってしまって、「目に見えないものを推測する」という困難なルートに乗ってしまいます。

では、ここで設定すべき「ABA的に適切な問題設定」とは、どんなものでしょうか?

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2011年01月17日

「子育ての工夫」としてのABA入門 (3)

さて、ABAは、自閉症児への働きかけではうまく機能しないことの多い「内面モデル」に代わる、新しいものの考えかたを提供してくれるという話を前回書きましたが、その「新しい考えかた」とはどんなものでしょうか。

まず、とても簡単に書きます。
ABAの考えかたとは、「内面モデルを使わずに行動を理解する」というものです。

でもこれでは、最初に書いたことを言い換えただけでよく分かりませんね。もう少しだけ噛み砕いてみます。
ABAの考えかたとは、「行動と、それに伴う状況の変化(だけ)から、人の行動を理解する」というものです。

さて、前回の記事で、「内面モデル」の考えかたをどう説明したでしょうか。思い出してみてください。
そうですね、内面モデルとは、「人の内面の状況や変化によって人の行動を理解する」というものでした。

つまり、こういうことです。

内面モデルでは、「内面の変化」が原因、「行動(の変化)」が結果、という考えかたです。
ABAの考えかたは、「環境の変化」が原因、「行動(の変化)」が結果、という考えかたです。


これは、特にABAについてはちょっと乱暴なまとめかたです。もう少し正確にいうなら、「行動の前後での環境の変化が、その後の行動の傾向を変化させる原因となる」といった感じになります。でもここでは、「内面ではなくて環境の変化を見るんだ」という「視点の変化」が重要なので、あえてシンプルに書いています。

どうでしょう。あまり違わないように思えるでしょうか。
行動の原因だととらえるものが「内面」であろうが「環境」であろうが、何かの原因があってその結果が行動(の変化)だ、という考えかたの「構造」は似ているから、結局やることはあまり変わらないんじゃないだろうか、と感じられるでしょうか?

でも、そんなことはありません。この「視点の違い」こそが、「内面モデル」ではできなかったたくさんのことを可能にしてくれる、とても大きな力を発揮するのです。

ここで改めて聞きます。

「内面って、見えますか?」

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2011年01月10日

「子育ての工夫」としてのABA入門 (2)

さて、いよいよ「家庭での療育のための、子育てのちょっとした工夫としての」ABAについてですが、そもそも、ABAが他の療育法と決定的に違う部分というのは、どこにあるのでしょうか?

それは、子どもに限らず、ヒト全般を見る=観察するときの「見るべきポイント」を常識的な位置からシフトさせる=ずらす、という点にあります。

私たちは、他人を観察するとき、何よりまず「内面の動き」を第一に考え、内面の状態とその変化が、行動となって現われているという風に考える傾向があります。
このような、「人はいろいろなことを考えたり感じたりする『内面』があって、行動というのはその内面の動きが現われたものである。だから、人と接するときには、その人がどんなことを考え、感じているのか、あるいはどんな信念を持っているのか(つまり「内面の動き」)をそのときそのときで推測し、その『内面』に働きかけるのがいい」という考えかた、人との接し方を、ここでは「内面モデル」と呼ぶことにします。

こういった「内面モデル」は、日常生活のなかで人間関係を円滑に処理するためには有用であることが多いでしょう。
だからこそ私たちはそういう考えかたを身に着けているわけです。
ですが、社会とのかかわり方それ自体に困難を抱える自閉症のお子さんとかかわるときや、特に難しいビジネス上での人材活用・交渉ごとにおいては、あまり役に立たないことが多いと言えます。

なぜでしょうか?

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2011年01月06日

「名誉健常者」という概念とその議論

新年早々、とてもエキサイティングな議論と出会いました。

http://togetter.com/li/86254
発達障害当事者と「名誉健常者」というロールモデルについて

http://togetter.com/li/88947
発達障害と「名誉健常者」ロールモデルについての補足的な議論


こちらのTogetter(Twitterでの議論をまとめたもの)を、ぜひご一読ください。

私が発達障害への支援について感じていた(でもうまく言語化できなかった)もやもやした思いを、「名誉健常者」ということばが見事に可視化してくれました

※ちなみに、この「名誉健常者」というタームを適切に理解するためには、「名誉白人」というかつての国際問題を知っておく必要があります。こちらをご覧ください。

※1月13日追記:さらに関連するTogetterをもう1つ作成したので、上記に書き足しました。
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2011年01月03日

「子育ての工夫」としてのABA入門 (1)

当ブログにお越しくださっている皆さん、

あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

さて、今年最初のエントリは、久しぶりに新しいシリーズ記事でいきたいと思います。
これまであまりまとめてこなかった、自閉症療育のためのABAについての、比較的短めのシリーズ記事になります。どうぞよろしくお願いします。



当ブログでは、自閉症療育についてのオープンな(誰かがパテントを持っていて公開することに制限があるようなものでない)情報を広く共有することと、「インチキにだまされない」ための考えかた、すなわち療育にかかわるリテラシーについての話題を主に取り上げています。

そんななかで、これまで、「絵カード療育」と、それに関連する領域としてのTEACCHの構造化に関する話題、そして「リテラシー」の話題については比較的基礎的な部分も含めて記事で取り上げる機会がありました。例えば、以下のシリーズ記事です。

そらまめ式絵カード療育

3た論法から療育リテラシーを考える

それと比較すると、ABAについては、これまで散発的な記事が多かったように思います。例えば、

幼児期の療育を考える(28)以降

あたりでしょうか。

なぜかというと、これは一つには私の「家庭療育におけるABA」の位置づけが影響しています。
ABAのベースとなっている「行動分析」は、非常にストイック、もっといえば「マニアック」な心理学で難解でもあるのですが、それを家庭の療育に活用するという意味での「ABA」は、テクニックとしては比較的シンプルなものだ、と私は考えています。

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2010年10月11日

応用行動分析学から学ぶ子ども観察力&支援力養成ガイド(ブックレビュー)

ケーススタディが非常に豊富なABC分析の本。ABA療育のサブマニュアルとして、かなり使えます。


応用行動分析学から学ぶ子ども観察力&支援力養成ガイド―発達障害のある子の行動問題を読み解く!
平澤 紀子
学研 ヒューマンケアブックス

はじめに
第1章 子どもに合わせた支援を考えるために
 子どもに合わせると言いつつ
 子どもを見て支援を考える
第2章 子どもの行動を見て、支援を考える方法
 パニックの原因は、不安やストレス?
 なぜ、そのように行動するのか?
 子どもの行動を観察する
 ABCから支援を考える
 支援を行い、見届ける
 支援を更新する
第3章 ケースから学ぶ
 友だちとのかかわりのなかで行う支援―友だちをたたいてしまうタロウ君(幼稚園年中クラス)
 あてはめから子どもや状況に合わせる支援へ―授業中に騒ぐミチオ君(小学校1年生)
 勘や経験から根拠に基づいた支援へ―強いこだわり行動を示すタカシ君(特別支援学校小学部1年生)
 個人への対応を学級全体に広げる支援-授業場面でおしゃべるをするハナコさん(小学校3年生)
 家族と一緒に考える家庭生活での支援-母親の言うことを聞かないヒロコさん(特別支援学校小学部3年生)
 叱責による強い指導から教育的ニーズに届く支援へ-好きなことはするが、嫌いなことはしないナオト君(小学校6年生)
 友だちに働きかけて子どもの環境を変える支援-友だちに大声で注意するヨシオ君(小学校6年生)
 共通理解に基づいた複数の教師による支援-友だちや教師に暴言を言うアキラ君(中学校1年生)
 子どもの将来を見据えた地域とつながる支援-現地実習で教育的ニーズが見えてきたカズオ君(特別支援学校高等部2年生)
参考文献
おわりに


学校の先生むけのABAの入門レベルのマニュアルです。
ABAの理論的なところはほとんど飛ばして、いきなりABC分析を使った「行動問題の解決」の進め方を解説し、一気に本格的なケーススタディに入っていくという、けっこう大胆な構成になっています。
ですので、A5サイズで120ページあまりと非常にコンパクトで薄い本でありながら、あまり「内容の薄い本」という印象はなく、むしろ「多彩な事例が読める、役立つ情報が易しく解説された内容の濃い本」に仕上がっていると思います。

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2010年09月20日

3た論法から療育リテラシーを考える(7)

インチキ療法にだまされないための基礎的な論理武装としての「療育リテラシー」について、「3た論法」という観点からまとめているシリーズ記事の、第7回にして(ようやく)最終回です。

「3た論法」とは、以下のような「理屈」で、ある療育法の有効性を主張する、誤った論理構成パターンのことを指します。

「ナントカ療育を試した・良くなった・ナントカ療法は効く!」

以下が、これまでご紹介した「3た論法」にまつわる問題点です。

(1)そもそも「3た論法」は、因果関係を示しているものではないこと、

(2)「脱落効果」によるサンプリングの偏りが、効果のない療育法を効果があるように見誤らせることがあること、

(3)有効性があるという「結果」は公表され、そうでない結果は公表されないことで効果が過大に評価される「発表バイアス」があること、

(4)悪い状態を「基準点」にすると、その後は自然に「より良くなる」可能性が高くなるという「平均への回帰」があること、

(5)発達の一方向性と離散性により、自然な発達にみられる「できるようになる」瞬間を、療育の効果と見誤りやすいこと、

(6)「効く」という先入観をもって観察すると、観察結果自体が歪んでしまうという「観察者バイアス」があること、

(7)「なんにでも効く」と言っておくことで、あらゆる「良くなった」ことを効能だと理屈づけてしまう「あとづけの効能選択」の問題。


今日ご紹介するのは、これまでご紹介した「本当は効果がないのに効果があったように見える」ものとは異なり、「実際に効果がある(しかし、その療法自体の効能=特異的効果とは呼べない)」ものです。

(8)プラセボ効果

この名前は有名ですね。

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2010年08月30日

3た論法から療育リテラシーを考える(6)

インチキ療法にだまされないための基礎的な論理武装としての「療育リテラシー」について、「3た論法」という観点からまとめているシリーズ記事の、第6回です。

「3た論法」とは、以下のような「理屈」で、ある療育法の有効性を主張する、誤った論理構成パターンのことを指します。

「ナントカ療育を試した・良くなった・ナントカ療法は効く!」

以下が、これまでご紹介した「3た論法」にまつわる問題点です。

(1)そもそも「3た論法」は、因果関係を示しているものではないこと、

(2)「脱落効果」によるサンプリングの偏りが、効果のない療育法を効果があるように見誤らせることがあること、

(3)有効性があるという「結果」は公表され、そうでない結果は公表されないことで効果が過大に評価される「発表バイアス」があること、

(4)悪い状態を「基準点」にすると、その後は自然に「より良くなる」可能性が高くなるという「平均への回帰」があること、

(5)発達の一方向性と離散性により、自然な発達にみられる「できるようになる」瞬間を、療育の効果と見誤りやすいこと。


だんだん疲れてきました(笑)。
残りは少し急ぎ足で書いていくことにします。


(6)観察者バイアス

「この療法でよくなるはずだ」という先入観をもって「観察」すると、実態以上に「よくなっている」かのように見えてしまうという心理的効果のことを、「観察者バイアス」と呼びます。

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2010年08月23日

3た論法から療育リテラシーを考える(5)

インチキ療法にだまされないための基礎的な論理武装としての「療育リテラシー」について、「3た論法」という観点からまとめているシリーズ記事の、第5回です。

「3た論法」とは、以下のような「理屈」で、ある療育法の有効性を主張する、誤った論理構成パターンのことを指します。

「ナントカ療育を試した・良くなった・ナントカ療法は効く!」

「3た論法」の問題点として、これまでの記事で、

(1)そもそも「3た論法」は、因果関係を示しているものではないこと、

(2)「脱落効果」によるサンプリングの偏りが、効果のない療育法を効果があるように見誤らせることがあること、

(3)有効性があるという「結果」は公表され、そうでない結果は公表されないことで効果が過大に評価される「発表バイアス」があること、

(4)悪い状態を「基準点」にすると、その後は自然に「より良くなる」可能性が高くなるという「平均への回帰」があること、


などを紹介してきました。

ずいぶん増えてきましたね。
これほどかように、療育などが「効いた!」と断定的に主張することは難しく、安易に言ってはいけない(逆にいえば、安易にそのような主張をする「療法」に対しては眉につばをつけて接しなければならない)ということなのだ、と言えます。

で、実はまだ「終わり」ではありません。
自閉症療育における「3た療法」のなかで、「効いた!」という判断を誤らせる「要素」は、まだまだあります。

その中でも、自閉症(ないし多くの発達障害)における大きな要因としてあるのが、

(5)発達の一方向性と離散性

です。

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2010年08月16日

論理病をなおす!―処方箋としての詭弁(ブックレビュー)

抜群の面白さ。クリティカル・シンキング力養成の副読本として。


論理病をなおす!―処方箋としての詭弁
著:香西 秀信
ちくま新書

序章 馬鹿だから詭弁に騙されるのではない
第1章 詭弁なしではいられない
第2章 曖昧さには罠がいっぱい―多義あるいは曖昧の詭弁
第3章 弱い敵を作り出す―藁人形攻撃
第4章 論より人が気に喰わない―人に訴える議論
第5章 一を教えて十を誤らせる―性急な一般化
あとがきにかえて―語学の達人に学べるか?

本書は、レトリック(修辞学、文章の表現技法)を専門とする国語学者である香西氏による、「詭弁」についての本です。

詭弁というのは、論理的にはおかしなことを、あたかも正当な論理であるかのように表現し主張することで、議論を自らに有利に展開しようとする「アンフェアな議論の手法」のことを指します。例えば以下の例も詭弁の一種です。

先生「学生にとって、勉学は何より大切だ」
生徒「学生は勉強さえやっていればいいというのはおかしい」


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2010年08月09日

3た論法から療育リテラシーを考える(4)

インチキ療法にだまされないための基礎的な論理武装としての「療育リテラシー」について、「3た論法」という観点からまとめているシリーズ記事の、第4回です。

「3た論法」とは、以下のような「理屈」で、ある療育法の有効性を主張する、誤った論理構成パターンのことを指します。

「ナントカ療育を試した・良くなった・ナントカ療法は効く!」

前回までで、

(1)そもそも「3た論法」は、因果関係を示しているものではないこと、

(2)「脱落効果」によるサンプリングの偏りが、効果のない療育法を効果があるように見誤らせることがあること、

(3)有効性があるという「結果」は公表され、そうでない結果は公表されないことで効果が過大に評価される「発表バイアス」があること、


についてご説明しました。今回はその続きになります。

実際には効果のない「療法」に効果があるように錯覚するトリックの1つとして、

(4)平均への回帰

というのもあります。

以下の「3た論法」をご覧ください。

「頭が痛い・サプリを飲んだ・頭痛が消えた!」
「下痢気味だ・おなかマッサージをした・下痢が治った!」
「最近パニックが多い・なんとか療法を試した・パニックが減った!」


実は、この3つの「3た論法」は、構造的に非常によく似ているところがあります。それを今回お話ししようと思います。

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2010年08月02日

3た論法から療育リテラシーを考える(3)

インチキ療法にだまされないための基礎的な論理武装としての「療育リテラシー」について、「3た論法」という観点からまとめているシリーズ記事の、第3回です。

「3た論法」とは、以下のような「理屈」で、ある療育法の有効性を主張する、誤った論理構成パターンのことを指します。

「ナントカ療育を試した・良くなった・ナントカ療法は効く!」

前回は、

(1)そもそも「3た論法」は、因果関係を示しているものではないこと、

(2)「脱落効果」によるサンプリングの偏りが、効果のない療育法を効果があるように見誤らせることがあること、


から、「3た論法」では、たとえ具体的な数値を事前・事後で比較して「良くなっている」ことを示したとしても、それがその療法の有効性を示すものにはならないということをお話ししました。

今回からは、「3た論法」のうち、真ん中の「良くなった」という「効果の判断」そのものを誤らせるような、いくつかの計測上あるいは心理的な効果・影響についてまとめていきたいと思います。
これらの効果・影響によって、本来は「効果がないもの」を、あたかも「効果がある」ように「計測」してしまうことがあるのです。

まずその1つめとしてあげられるのが、

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2010年07月19日

3た論法から療育リテラシーを考える(2)

インチキ療法にだまされないための基礎的な論理武装としての「療育リテラシー」について、「3た論法」という観点からまとめているシリーズ記事の、第2回です。

「3た論法」とは、以下のような「理屈」である療育法の有効性を主張する、誤った論理構成パターンのことを指します。

「ナントカ療育を試した・良くなった・ナントカ療法は効く!」

前回は、

(1)そもそも「3た論法」は、因果関係を示しているものではないこと

をご説明しました。
私たちの認知は、時系列に並んだある事象と別の事象とのあいだに「因果関係」を見出そうという非常に強い傾向があるので、特定の療育法の効果とは無関係な「自然な変化・発達」であっても、その療育法の「効果」であるように錯覚してしまうことがある、ということを書きました。

「3た論法」による結論を誤らせる理由は他にもあります。
「3た論法」のもう1つの大きな問題、それは、こういった形で何らかの療育法の効能を主張する人間が、一般的には「その療育法を多くの人に提供している人物・組織」であるがゆえに起こる、

(2)脱落効果

です。

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2010年07月12日

3た論法から療育リテラシーを考える(1)

当ブログでは、個々の療育技法を学ぶことよりももっと重要なこととして、療育にまつわるさまざまな主張を科学的に整理・検証するためのものごとの考えかた=「療育リテラシー」というテーマを継続的に取り扱っています。

「療育リテラシー」とは、療育についての「科学的・批判的思考法=クリティカル・シンキング」なのですが、要は、いかに自分のお子さんにとって意義のある療育を適切に選択するか(そうでないものは適切に除外するか)を判断する基本的な考えかたであり、もっとはっきり言ってしまえば、俗にいうインチキ療法にだまされない思考法を指します。

療育リテラシーは、「初めて療育にチャレンジする親御さん」が、「たくさんの親御さんを手玉にとってきた、百戦錬磨のインチキ療法業者」にだまされないために必要な「論理武装」です。
療育においては、そもそもこのように、親御さんと「インチキ療法業者」との間に情報格差が存在し、親御さんの方が不利な立場にあります。なので、その「不利な状況」からくる判断の誤りを避け、適切な療法を適切に選ぶために、個々の療法よりもより重要なこととして、当ブログでは繰り返し取り上げているわけです。

今回は、その療育リテラシーのなかでも特に重要な「もっともらしい『この療育は効く!』という主張を批判的に検証するためのベースとなる知識」について、「3た論法」批判という観点からまとめていきたいと思います。

「3た論法」とは、ある医療的、あるいは教育的その他の働きかけの効果の有無について、「治療した→治った→治療効果があった」という論理で「効果がある」と主張する論法を言います。
療育の文脈でこれをもう少し分かりやすく書くと、こういう感じになります。

「ナントカ療育を試した・良くなった・ナントカ療法は効く!」

ここで、「良くなった」のところは、穏やかになった・下痢が治ったといった定性的なもの(数値で測らないもの)に限らず、ちゃんと事前・事後で計測して「発語数が増えた」「パニックの回数が減った」「睡眠時間が伸びた」といったように定量的に示したもの(数値で測られたもの)も含まれます。
とにかく、何か療育法をやって「良くなった」という結果が出たからその療育法には効果があったんだ、という主張を、ここでは「3た論法」と呼びます。

「3た論法」という用語は知らなくても、上記のような「効く!」という主張は、ネットでも日常でも当たり前のように見かけることと思います。

一見、この「3た論法」は正当な主張であるように見えます。
特に、ちゃんと計測して、事前・事後で「改善した」という結果が数値で示されているような報告については、「エビデンスもある=EBM的に証明された」とさえ考えてしまうかもしれません。
だからこそ、私たちはこういった「効く!」という主張に心動かされ、そこに登場する劇的改善エピソードから目が離せなくなり、さらに数値まで出ていることで信用してしまって、お金を払ってそのナントカ療法を試してみよう(試さないと損するかも)、と不安にかられたりしてしまいがちです。

でも、ちょっと待ってください。

続きがあります・・・
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2010年07月09日

シリーズ記事の予告について

今日は、代替療法がらみで、大変悲しいニュースを見かけました。

「ビタミンK与えず乳児死亡」母親が助産師提訴
http://kyushu.yomiuri.co.jp/news/national/20100709-OYS1T00214.htm


特定の代替療法(ホメオパシーである可能性が高いと考えられます)の「教え」に沿って、本来新生児に与えるべきK2シロップを与えなかったために、その子どもがビタミンK欠乏症で死亡してしまった、という事件です。

この記事に対しては、ネットでも非常に大きな反響が起こっています。
http://b.hatena.ne.jp/entry/kyushu.yomiuri.co.jp/news/national/20100709-OYS1T00214.htm

親が、通常医療を否定し、忌避するような不適切な代替医療を選択して「しまった」ために、生まれてきた命が犠牲になってしまう、それほどに、「インチキな代替療法」というのは有害なのです
(最大の問題は、上にも書いたように、「通常医療を否定・忌避し、『通常医療の代わりにうちの代替医療をやりなさい』というメッセージが発せられるところにあります。)

そしてこのような構図は、残念ながら自閉症療育においてもはびこっています。
今回の事件を見て、私も含め「障害をもったお子さんの親」は、医療の世界と同じように、「不適切な代替療育法」とそうでないものをしっかりと見極め、賢明な選択、優先順位付けをしていくことがとても大切なのだ、と改めて感じました。

その「不適切な代替療育法を見極める目」を含む、療育についての考え方のことを、当ブログでは「療育リテラシー」と呼んでいます。

今回の「K2シロップ事件」を1つの機会と考え、来週の月曜日より、久しぶりにシリーズ記事でこの「療育リテラシー」を本格的に取り上げてみようと思います
タイトル(予定)は、「3た論法から療育リテラシーを考える」です。

今回のシリーズ記事が、わずかでも療育選び、優先順位付けについて、皆さんにヒントをご提供できるものになれば、嬉しく思います。
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2010年06月28日

発達障害のある人と楽しく学習―好みを生かした指導(ブックレビュー)

ユニークなABA本。「重度の人」に焦点を当てている点が画期的です。



発達障害のある人と楽しく学習―好みを生かした指導
著:デニス・レイド、キャロライン・グリーン
監訳:園山 繁樹
二瓶社

第I部 序論
 第1章 「好みを生かした指導」とは何か?
 第2章 障害のある人の指導を楽しくするエビデンスに基づくアプローチ
第II部 指導を楽しくする前提条件
 第3章 指導が効果的であることを保証する
 第4章 実用的なスキルを増やす指導
第III部 指導を楽しくする秘訣
 第5章 教師と学習者のよい関係を築く
 第6章 指導セッションを学習者にとって楽しくなるように構成する――「好みを生かした先行事象・行動。結果事象」モデル
 第7章 指導プログラムに選択機会を組み込む
 第8章 正の強化子と好きなもの
 第9章 指導のタイミング・指導セッションをいつ行うか
第IV部 楽しい指導を続ける秘訣
 第10章 教師も楽しく指導するために
 第11章 効果的で楽しい指導をサポートするための管理責任者の責任
第V部 まとめと問題解決
 第12章 好みを生かした指導のチェックリスト
 第13章 好みを生かした指導についてのよくある質問

この本、タイトルからは微妙に内容が想像しにくいですが(私も、出版社が「二瓶社」だから、「ああ、きっと行動分析の本だな」と分かったのですが、そうでなければ、この妙な訳語調のタイトルでは本を手に取らなかったかもしれません)、簡単にいうと、「退屈で面白くないといわれる、ABAのフォーマルトレーニング(机に向かって課題をやらせるようなトレーニング)を、『楽しんで実施してもらう』ためのアプローチをまとめた本」です。

この本の原題は、こうなっています。

Preference-Based Teaching: Helping people with developmental disabilities enjoy learning without problem behavior

サブタイトルのところをざっくり訳すと、「発達障害のある人が、問題行動を起こさずに楽しんで学習できるよう支援する」となります。
ちょっと面白いのは、「問題行動を解決するためにABAを使う」という話ではなくて、「ABAの指導の場面で問題行動が起こらないようにする」ということを言っている、という点です。
確かに、ABAのトレーニングをやろうとしたとき(あるいはやっている最中)に、子どもが嫌がって、「問題行動」を起こしてしまう、ということは普通にあります。
そういった問題に対して、ABAの文脈では一般に、「ABAでは強化のメカニズムを使うんだから、ABAのトレーニングは楽しくて当然、もしそうでないなら、それは指導者の力量不足」といった整理になってしまうことが多いのですが、本書は、「必ずしもそうではない。特に学習者が『重度の障害をもっている』場合は、ABAのトレーニングは楽しくないことも多く、楽しくするための工夫が必要だ」と考えます。

言い換えるなら、上記の「指導者の力量」、あるいは「強化子の見極め」「指導者と学習者とのいい関係(ラポール)作り」といった、ABA本であってもなかなか言語化されにくい領域について、「エビデンスに基づく方法論」をできるだけあてはめ、どのようにすれば「学習者と指導者の間にいい関係が生まれ、学習者が楽しくトレーニングに取り組むことができ、結果としてトレーニングの成果を最大化できるのか」に答えを出そうとしている、ともいえるでしょう。

さて、いまちょっと触れましたが、この本の最大の特徴の1つは、「重度障害の人に特に焦点を当てて書かれている」という点にあります。

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2010年05月31日

ライブ・自閉症の認知システム (13)

このシリーズ記事は、先日、石川にて行なわせていただいた講演の内容を、ダイジェストかつ再構成してお届けするものです。

…かなり長くなりましたが、ここまでが、私が考える「自閉症の認知システム」という話題についてのお話でした。
恐らく、ほとんどの方にとっては、今まで聞いたことがないような話だったんじゃないかと思いますので、クイズ形式で簡単におさらいをしておこうと思います。


Slide 16 : ここまでのおさらい

続きがあります・・・
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2010年05月24日

ライブ・自閉症の認知システム (12)

このシリーズ記事は、先日、石川にて行なわせていただいた講演の内容を、ダイジェストかつ再構成してお届けするものです。

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Slide 13 : 自閉症への働きかけモデル(図)

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Slide 14 : 自閉症への働きかけモデル:キーワード(1)

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Slide 15 : 自閉症への働きかけモデル:キーワード(2)

前回のお話の続きです。

繰り返しになりますけど、自閉症の療育というのは、自閉症の人と環境との「接点」に対して働きかけることです。
支援する側の人が働きかけることによって、自閉症の人が環境とうまくかかわることができて、この図でいうフィードバック・サイクルがうまく回るようになって、そして道具を使いこなせるようになって、そしてニッチが広がって人生が豊かになっていく、そういう働きかけ、そういう営みだと思います。

続きがあります・・・
posted by そらパパ at 21:22| Comment(3) | TrackBack(0) | 理論・知見 | 更新情報をチェックする

2010年05月17日

ライブ・自閉症の認知システム (11)

このシリーズ記事は、先日、石川にて行なわせていただいた講演の内容を、ダイジェストかつ再構成してお届けするものです。

さて、それでは、自閉症の認知システムの問題をこのモデルから理解したところで、じゃあどう働きかけていったらいいのか、ということについても、このモデルから考えていきたいと思います。

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Slide 13 : 自閉症への働きかけモデル(図)

続きがあります・・・
posted by そらパパ at 21:49| Comment(2) | TrackBack(0) | 理論・知見 | 更新情報をチェックする

2010年04月26日

発達障害のある子の「行動問題」解決ケーススタディ―やさしく学べる応用行動分析(ブックレビュー)

易しくも本格的にも読める、魅力的なABAの療育ガイドです。


※左がAmazon、右が楽天Books

発達障害のある子の「行動問題」解決ケーススタディ―やさしく学べる応用行動分析
編著:小笠原 恵
中央法規

第1章 人が行う行動の理由を探る
  事例:妹の髪の毛を引っ張ってしまうかんちゃん
第2章 生活を豊かにするアプローチ
 第1節 上手なきっかけのつくり方
  事例:友だちを叩いてしまうかずくん
  事例:状況にかまわず、ゲームのセリフを言ってしまうひろくん
 第2節 行動の理由に適合した対応方法
  事例:体操の時間中友だちの足を引っ掛けたり、床に寝そべってしまうりょうくん
  事例:自傷・他害行動のあるゆうちゃん
  事例:職員に汚言を言ってしまうのりさん
 第3節 行動問題を起こさない環境のつくり方
  事例:教室の電気を消してしまうゆまちゃん
  事例:携帯電話にこだわりをもつこゆちゃん
 第4節 自分の行動のマネジメント
  事例:授業中の空書や手をヒラヒラさせる行動が目立つのりくん
  事例:一方的におしゃべりをするまさくん
  事例:無断外出をしてしまうしげるさん
 第5節 子どもをやる気にさせる手立て
  事例:ワークシステムの順番が守れないこうちゃん
  事例:宿題をしないつよしくん
第3章 包括的なアプローチ
  事例:動きの停止や儀式的な行動がみられる高山さん
  事例:やけ食いがみられるかいくん
  事例:性器いじりをするさだおくん

当ブログ殿堂入りの「家庭で無理なく楽しくできる生活・学習課題46」の著者である井上雅彦先生の推薦のついた、ABA療育本の新刊です。


↑オビにて井上先生の推薦文がつけられています。

最近、ABAに関してTwitterで議論をしていて、気づいたことがありました。
それは、ABAによる療育は「行動を増やす、減らす」というシンプルな視点で見ている限りではとてもすっきりしたものなのに、「発達を促す、知能を上げる」といった「一段上の」視点をもった途端に見通しが悪く混沌としたものになる、ということです。

例えば、サーカスの動物がABAで多彩な芸を覚えたとして、それを「発達した、知能が上がった」と考える方はあまりいないと思います。単に「できることが増えた、行動レパートリーを学習した」だけ、ととらえる人が多数派でしょう。これを、「訓練で動物が発達した、知能も上げた」と声高に主張する人がいたら、まあ率直に言ってちょっと違和感を感じるんじゃないかと思います。

じゃあ、自閉症の子どもがABAで模倣ができるようになったり、いすに座って課題ができるようになったり、こちらの指示が通るようになったら?


続きがあります・・・
posted by そらパパ at 21:30| Comment(12) | TrackBack(0) | 理論・知見 | 更新情報をチェックする
子どもが自閉症かもしれない!どうしよう!という親御さんへのアドバイスはこちら
孫が自閉症らしい、どうしたら?という祖父母の方へのアドバイスはこちら

fortop.gif当ブログの全体像を知るには、こちらをご覧ください。
←時間の構造化に役立つ電子タイマー製作キットです。
PECS等に使える絵カード用テンプレートを公開しています。
自閉症関連のブックレビューも多数掲載しています。

花風社・浅見淳子社長との経緯についてはこちらでまとめています。

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