自閉症児のためのTEACCHハンドブック
(改訂新版 自閉症療育ハンドブック)
著:佐々木正美
学研ヒューマンケアブックス
第1章 TEACCHの基本理念と哲学
第2章 コミュニケーションへの指導と援助
第3章 学習指導の方法・構造化のアイディア
第4章 就労と職場での支援
第5章 余暇活動・社会活動の指導と援助
第6章 高機能自閉症・アスペルガー症候群とTEACCH
第7章 不適応行動への対応
本書は、以前紹介したこともある、「自閉症療育ハンドブック」の改訂新版です。
「改訂」とはいっても、実際には相当なレベルで書き換えが行なわれていますから、佐々木先生が書いた新しいTEACCHの本だ、と言ってもいいのではないかと思います。
まず、見た目の違いとしては、文字組みが縦書きから横書きに変わり、文字がかなり大きくなり、本自体の大きさも一回り大きくなりました。表紙も黄色から白を主体とした明るいものに変わり、いかにも「最近の本」というイメージに刷新されています。
改訂前の旧版も、15年以上前のものだということをほとんど感じさせない、今読んでもほとんど違和感なくTEACCHについて学べる本ですが(この間の自閉症論の展開のスピードを考えると、これは実はかなりすごいことです)、今回、時代に即した改訂が入り、最新のTEACCH入門書として生まれ変わったと言っていいでしょう。
特に、元の本でさすがに「古さ」を感じるようになっていたのが、「TEACCHの実践」の部分でした。
前著はまだ国内に十分な実践例がない時期に書かれたためと思われますが、実践例はほぼすべて海外で取材した内容の報告になっており、また内容も文章が中心でやや概念的・理論的で、読後の印象として、「具体的に自分たちの身の回りで、TEACCHの療育ってどんなことをするんだろう?」というのが今ひとつ分かりにくい側面がありました。
今回は、その部分が全面的に刷新され、学校・家庭・職場、それぞれの環境をどのように「構造化」して自閉症児者が学習・生活・就労しやすくしていくのかが、もちろん「海外の報告」ではなく「国内の実例・実践」という形で、写真も豊富に具体的に紹介されています。
旧版では、この部分は「全体のなかの一部」という感じでしたが、新版ではこの部分がまさに「中心」になっており、TEACCH実践の参考書としても役に立つ内容です。

↑巻頭にはTEACCHの構造化の具体例がカラー写真で掲載されています。

↑トランジションエリアの実践例。こういった実践例も、すべて日本での実践例に変わりました。
それ以外で気がつくのは、高機能自閉症・アスペルガー症候群についての章が新設されていることです。
(とはいえ、本書にも書かれているとおり、TEACCHでは自閉症スペクトラムの人全体に対して、もともと「同じ対応」をとります。高機能だからといってもTEACCH療育の基本は変わらないため、この章で特別に高機能の人向けの特別な療育法をとりあげているというわけではありません。)
上記のように、本書では、「実践」の部分はいい意味で刷新されましたが、その一方で、旧版から佐々木先生が書いていたTEACCHの「思想」の部分は、実は今回の改訂でもほとんど変わっていません。改訂するからといって「思想」が安易にぶれていないのは逆に評価できると思いますが、だからといって内容が古臭いとか保守的だといったことはほとんどなく、逆に、「もともとこんなに過激なことを書いていたのか!」と改めて驚くほど、その内容は「とがって」います。
TEACCHプログラムにおける学校教育は、「特別学級における教育」が主流で、具体的方策は「視覚的構造化」のアイディアによってなされている。(中略)原則はあくまで「特別学級」における「特別教育」である。本格的な統合教育も種々の試みがなされてきたが、入学の最初から実施することは、ごく一部の高機能の子ども以外には、ほとんど成果らしきものを上げることがなかったという。(改訂新版初版43ページ、旧版296ページ)
本来的に彼らは、ノーマライゼーションとか社会性の学習という名目で指導される教育や活動は、決して好んでいないし、よほど用心深く導かないと、苦痛を感じているように思えることも少なくない。(改訂新版初版149ページ・旧版233ページ)
これらの部分について、改訂前の本にも戻ってみたのですが、確かにこういった内容は前著から書かれているんですね。前著を読んでいた頃は、まだ自閉症療育の全容をつかみきれていなかったので、「こんなものかな」と思って読んでいたのですが、いま改めて読んでみると、実に思い切って踏み込んだ表現になっていて驚きます。
まあ、この「思想」の部分については、ややTEACCHないしノースカロライナでの取組みを美化しすぎかな?と感じる部分がないでもありませんから、決して盲信するのではなく、読者のほうが主体性を持って「読み解いて」いくべきものだとは思います。こういう読み方は、本書に限らず(また、自閉症の本に限らず)すべての本に求められることでしょう。
ともあれ、TEACCHの実践に関する記述が増えたとはいっても、やはり本書はどちらかというと佐々木先生が説くTEACCHの「思想」の部分にこそ、読む価値のある本だと思います。そういう意味では、TEACCHの入門書として「1冊目」に読むのではなく、過去にご紹介している下記の本などのより易しい「入門書」を読んだうえで、TEACCHの思想的背景を理解するために読む「2冊目・3冊目の本」として読むべきものだと思います。
そういう位置づけで読むのであれば、極めて優れたTEACCHのハンドブックになっていると思います。
<TEACCH入門書としておすすめの本>
自閉症のすべてがわかる本(レビュー記事)
自閉症の特性理解と支援―TEACCHに学びながら(レビュー記事)
また、本書と並び立つと考えられる、「TEACCHの思想」について掘り下げた本としては、以下のものがあげられます。
<TEACCHの「思想」について掘り下げた本>
本当のTEACCH(レビュー記事)
補足:今回の改訂新版は、かなり純粋に「理念」と「実践」に絞り込まれた内容になっており、旧版に含まれていた「佐々木先生のTEACCHとの出会い」や「統合教育の挫折の経緯」、「診断」あるいは「障害論」などについては大幅にカットされています。
そういう意味では、今後絶版になってしまう可能性が高いと思われる「旧版」も、持っている方は処分しないほうがいいと思いますし、持っていない方は、中古で安く見つけたら手に入れることをおすすめします。
(旧版)講座 自閉症療育ハンドブック―TEACCHプログラムに学ぶ
佐々木正美
学研 障害児教育指導技術双書
その他のブックレビューはこちら。
そらぱぱさんがおっしゃるように、
読みこなし、読み解く本だろうと思います。
読む側の姿勢が問われる、緊張感が湧き上がる面白い本だと思いました。
これからも、ブックレビュー楽しみにしています。
いまはこういったある程度専門性のある本も、字を大きくしてボリュームをしぼって内容も分かりやすくしないと、なかなか売れないそうですね。
確かに洗練されたデザインになって読みやすくなりましたが、改めて旧版を読んでみると、これはこれで重厚でいろいろなことが書いてあって面白いなあ、と改めて思ったりもしました。
ご紹介、ありがとうございます♪
佐々木先生の本は、わかりやすい本が
多いですね。また買ってみようと思い
ました。
ところで、来週にあるのですが、兵庫県
伊丹市で『発達障害に関する交流会』が
あります。毎月、30人ぐらいの保護者が
集まっています。私は、今度視覚支援に
ついての勉強会の発表(講師)をします。
TEACCHや絵カードの作り方について、
そらパパさんのこの素晴らしいブログを
ご紹介させて頂こうと思っています。
ご了承ください。よろしくお願いします。
ブログの情報をいろいろな場面で活用されることは、私としては全然問題ありません。
(ネット上の情報というのはそもそもオープンなものだと思っていますので、ご自由にご活用ください。)
ただ、あくまでも自己責任でお願いします。もちろん可能な限りの調査をして記事は書いていますが、内容についての責任は負いかねます。
ござます。私はただの自閉症児の
保護者です。その私が視覚支援の勉強会の
発表をしますので、そんなにテレビで
発言するような、責任はありませんよ;
『みなさん、参考にして下さいね~。』
ぐらいの発表しかできませんが、しかし、
それでも準備が大変です。がんばります。
そらパパさんはすごいですね。働いていて
講演会までされて、超人としか思えません。
今後とも、よろしくお願いします^^。
ありがとうございます。
もちろん無責任なことを書いているつもりはありませんが、ネットで公開している情報については、一応免責を表明しておかないとリスクがあるから、ということでお願いしました。
講演会というか、私の場合も勉強会ですね。サラリーマンですから、営利でない勉強会に無償で行くかたちのスピーチだけをお受けすることにしています。
こちらこそ、今後ともよろしくお願いします。