それは、「一覧」で書いた項目の「逆」を考えてみることです。
a. パニックを起こさないと欲しいものが手に入らない。
b. パニックを起こさないと構ってもらえない。
c. パニックを起こさないと注目されない。
d. パニックを起こさないとやりたくないことを回避できない。
e. パニックを起こさないといやな場所から逃げられない。
子どもにとって、こういう環境を作ってしまっていないでしょうか?
自閉症の子どもはコミュニケーションが下手で、思ったことをうまく伝えられないことが多いと思います。そんな子どもが、唯一、確実に周囲に対して「自分は何かやってほしいことがあるんだ!」というメッセージを伝えられる手段がパニックだ、という側面があります。元来、自閉症の子どもはパニックが強化されやすいのです。つまり、こういうことです。
1) パニック以外の表現→うまく伝わらない→ごほうびがもらえない→消去されやすい
2) パニック→よく伝わる→ごほうびがもらえる→強化されやすい
※パニックが強化される二重構造イメージ図
行動前の状況(A) | 行動(B) | 行動の結果(C) | ||
要求がある | パニック以外の要求行動 | 要求がかなわない | ||
↓かなわない要求がどんどん供給される | ||||
行動前の状況(A) | 行動(B) | 行動の結果(C) | ||
かなわない要求がある | パニック | 要求がかなう |
パニックを本当に減らしていくためには、この環境を積極的に変える、つまり、「パニックを起こさなくていい、起こそうという気になりにくい環境」を作っていくことが必要です。これは、「かなわない要求がある」という、パニックの原因を取り除く効果がありますので、ABC分析でいう、A(行動前の状況)をコントロールしていることにもなります。
1) パニックが起こる前の環境をコントロールする。
パニック以外の表現に対して一生懸命応えることで、パニック以外の表現手段を強化する。
これにより、パニックでなければ表現できない要求を減らし、結果としてパニックを減らす。
2) パニックが起こった後の結果をコントロールする。
パニックによって要求することを消去する。
「パニックでは要求は伝わらない」という環境を作り、絶対にパニックを強化しない。
2) の方法だけではただの対処療法になってしまい、子どもにとっては「どんな方法を使っても要求がかなえられない」という非常にストレスフルな状況になってしまいます。それが結果として「無力感の学習」につながってしまい、要求そのものをしなくなるという恐れもあります。1) の対処と組み合わせて初めて、2) の対処も活きてくるのです。より大切なのは、抜本治療に相当する1)なのです。
※パニックが強化されにくい構造イメージ図
行動前の状況(A) | 行動(B) | 行動の結果(C) | ||
要求がある | パニック以外の要求行動 | 要求がかなう | ||
↓かなわない要求が少なくなる | ||||
行動前の状況(A) | 行動(B) | 行動の結果(C) | ||
かなわない要求がある | パニック | 要求がかなわない |
では、具体的に1)の環境改善のために必要なことは何でしょうか? 簡単に書くとこうなります。
a. パニック以外の要求手段に応えてやる。
b. パニックを起こさないときにこそ構ってやる。注目してやる。
ところが、こうやって書くと簡単そうですが、考えていくと意外と難しく、一朝一夕にはできないことだということが分かってきます。
というのも、特に発達の遅れが大きいお子さんの場合、
a. パニック以外の要求手段をどう伸ばしてやるのか?
b. 構ってやろうとすると嫌がって逃げたりする場合はどうするのか?
という問題を先に解決しなければならないからです。
結局のところ、上記a.の問題を解決するためには地道な日々の関わりあいの中で子どもの要求表現の力を伸ばすことが、b.を解決するためには、感覚統合を含めた、親に対する基本的愛情や皮膚感覚の発達をうながすことが、それぞれ必要です。別の考え方をすれば、発達障害によって起こっている問題を抜本的に解決するには、子どもの発達レベルを引き上げていくしかない、という当たり前の結論に到達するわけです。
(次回に続きます。)
「ABC分析」については以下の記事で解説しています。ご覧ください。
http://soramame-shiki.seesaa.net/article/9482951.html
簡単に言えば「ある行動の前後で、何が変わったか?」を考える、ただそれだけのことです。
「殿堂入りおすすめ本」の「行動分析学入門」をお読みいただければ、よりよく分かると思います。