このトレーニングは私が考案して妻に実行してもらっていたものですが、ブログにもあったとおり、みかんが欲しいというモチベーションよりも、面倒なトレーニングから逃げたいというモチベーションのほうが勝ってしまったようで、娘がみかんを欲しがらなくなってしまうという結果になってしまいました。とても残念ですが、トレーニングは中止せざるを得ませんでした。
今回、みかんトレーニングをやってみよう、と思った理由はいくつかありました。
・課題トレーニングを開始したことで、「何か「期待されていること」をやると、ごほうびがもらえる」という「気づき」ができ、模倣トレーニングの素地ができてきたと思われたこと。
・クレーンだけでなく手差しが混じるようになってきて、わずかながら間接的・抽象的な要求表現が見られるようになってきたこと。
・「ぞうさん」を1曲最後まで模倣するなど、かなり長い発音単位まで記憶・再生できる力がついたと考えられること。
・絵本を指差して親に名前を言わせ、その口を見ながら口パクをするという遊びをしていること。あと、口パクに発声がついてくれば単語が言えるというレベルにいると考えられること。
・せっかく歌コピーをしたり口パクをしたりしている「言語活動」を、何らかの形で強化してやりたい(そうしないとまた消えてしまう)と感じたこと。
・みかんは娘が大好きな食べ物で、毎日同じ時間に必ず欲しがるものなので、トレーニングに向いていると思ったこと。
・たまたま読んでいた「自閉症を克服する―行動分析で子どもの人生が変わる
楽観的な期待としては、(課題トレーニングがそうだったように)2,3日で娘が「やるべきこと」に気づき、1週間もすると普通に「みかん」と言えるようになる可能性もあるんじゃないか、と思っていました。妻からの報告で、1日目は1時間半、2日目は30分で言った、という話を聞いていて、この「楽観的な期待」のとおりになるかも、と楽しみにしていました。
ただ、その後の最初の週末に、私も入って実際にトレーニングをやってみると、状況は決していいものではありませんでした。最も困難だったのは、娘がことばを発しているのかパニックで叫んでいるのか区別できない、ということでした。
娘はパニックのとき、「イヤー」とか「ウワー」といった「音」を発します。また、娘は、恐らくまだKの発音ができません(先の「ぞうさん」も、多くの子音が欠けた、独特な「声」でコピーしています)。
ですので、娘が「みかん」というとすれば、「ミアン」、Mの子音もあまりはっきりしないのでそれもないとすれば「イアン」、「ン」を「ン」として発音するのは意外と難しいので、それも外すと「イア」となり、続けていえば「イヤ」とも聞こえます。
つまり、娘が泣きながら「イヤー」とか「アー」とか言っている場合に、ただパニックで叫んでいるだけなのか、頑張って「みかん」と言おうとしているのかが分からないという事態に陥ってしまったのです。
行動療法的にいえば、トレーニングしようとしている対象の反応を我々が判別できない、つまり強化しようとしている行動が、「強化する」という行動の弁別刺激にならないという笑い話のような状態になってしまったわけです。
妻は、そういった状況のなかで、何とか「みかん」と聞こえる発声に対してみかんを与えていたわけですが、結果的には、これが適切な強化になっていたかどうか、つまり、娘が「みかん」と言おうとしたときは強化され、ただ叫んでいたときは強化されないというプログラムになっていたかどうかは分かりません。結果的に娘が混乱して、みかんを捨ててまでトレーニングを忌避したことを考えると、そうではなかった可能性のほうが高いでしょう。
もちろんこれは妻が悪いわけではなく、私が設定したトレーニングプログラムが適切ではなかったということです。
結局、みかんトレーニングは一旦中止せざるを得なくなりましたが、少なくとも現時点での娘は、要求をクレーン以外の間接的な表現手段によって表現するレディネスを獲得しつつあるのは間違いないので、とりあえず「ことばを言わせる」ところからは一歩引いて、写真カードを使った要求表現のトレーニングに切り替えてみることにしました。
最初は、みかんをあげる直前にみかんのカードだけを渡して、それと交換にみかんを渡す、それだけから始めています。この課題の最終目標は、複数のカードから自分が食べたいものを選んで、それを自ら進んで親に渡しにくる、という行動を学習することです。今回もうまくいくかどうかは分かりませんが、いつもこんな感じで、試行錯誤しながら娘の療育に取り組んでいます。
ことばのトレーニングも一旦お休みですが、ことばへの興味は、例のオリジナルDVDを見せることでなんとか維持できないだろうか、と淡い期待をもっています。
トレーニングといえば、うちもこれをいつかやらないといけないですね・・・
自閉症、発達障害児のためのトイレットトレーニング
著:マリア ウィーラー
二瓶社
行動療法にもとづく、自閉症児のためのトイレトレーニングテキスト。問題がトイレトレーニングだけに絞ってあるので、事例集や具体的なプログラムなど、内容は非常に充実している。名著といわれる「一日でおむつがはずせる