2005年11月24日

自閉症児のパニックと行動療法(6)

パニックに関連した行動療法の考え方、今回が一応最終回です。

6.嫌子の除去による強化

またまたスキナー箱に戻ります。(今回は思考実験です。)
今度はラットに電流を流して、レバーを押せば電流が止まる(エサは出ない)、という状況を作ったとします。
このような状況でも、ラットはすぐにレバーを押すことを学習するでしょう。しかしこれは、エサによる強化とはちょっと違います。

・エサによる強化.....ターゲット行動に対し「ごほうび」(好子)が与えられる
・電流が止まることによる強化....ターゲット行動に対し「いやなこと」(嫌子)が取り除かれる


つまり、ラットの立場から言えば「ごほうびがもらえる」こと以外に、「いやなことから逃げられる」というのも、行動を学習するエネルギーになる、ということなのです。

これをパニックにおきかえると、パニックを強化・定着させている「ごほうび」には、パニックするといいことがある(要求がかなえられる)、ということ以外に、パニックするといやなことから逃げられる、というものが存在するということです。
以下のようなものが、パニックに関して、「嫌子の除去による強化」の仕組みが働いていると考えられる例です。

1) 課題をさせようとすると、パニックを起こして逃げる
  (パニックによって、課題という「いやなこと」から逃げています)
2) お店などに行って飽きてくると、パニックを起こして親を店から出させる
  (これは以前、「ABC分析」の例としてあげました)
3) 授業中にパニックを起こして、教室から追い出される
  (教室にいたくない生徒にとっては、追い出されることは「嫌子の除去」です)

こういった行動を強化せず、消去するためには、「パニックを起こしても嫌なことから逃げられない」という状況を作り出す、つまりパニックを起こしても無視して今やっていることをそのまま続ける、という対応が必要です。

これに関してはちょっと補足があります。

1つは、「子どもに求めている課題」が難しすぎないか?その課題が必要か?という問題です。

課題が難しすぎれば、子どもから見ると、「そもそも努力してもできない」というものになってしまうため、モチベーション(やる気)も上がらないでしょうし、どうせできないならパニックして何か他のものを得よう、という行動をむしろ学習してしまうでしょう。

ここでいう「課題」とは、机に座って作業をさせるとか、そういったものに限りません。

例えば、上記の例にある「店で退屈になってもおとなしくしている」というのも、立派な課題です。おとなしくしている時間が10分なら大丈夫でも、30分ではムリ、ということも十分にありえます。だとすれば、店にいる時間を10分以内にするか、それが無理なら10分ごとにごほうびを与える方法を考えるなど、課題を達成可能なものに変更すれば改善が期待できます。

つまり、嫌子の除去によってパニックが強化されている場合は、「嫌子を除去しない(無視して続ける)」という選択肢以外に、そもそも嫌子を提示しないという選択肢もありうる、ということです。これはABC分析でいうとCではなくAをコントロールすることであり、「課題が易しくなるように環境をコントロールする」という言い方に変えれば、TEACCHの構造化にもつながる考え方です。

もう1つは、この「嫌子除去による強化」が、親にとってパニックへの対処を難しくしているという事実をしっかり認識する重要性についてです。
パニックは無視すべきだと分かっていてもなぜついつい構ってしまうのか? これは、構ったり要求をかなえてやることによってパニックが収まる=親にとっての嫌子が除去される、からです。

子どものパニックには2つの側面があって、それぞれをABC分析すると、子どもにとっては、

1.要求がかなえられていない(A)
2.パニックする(B)
3.要求がかなえられる(C)←好子の提示による強化

という形でパニックが強化されている一方、親にとっては、

1.パニックで困っている(A)←パニックが嫌子になっている
2.子どもの要求をかなえてやる(B)
3.パニックで困っていない(C)←嫌子の除去による強化

という構造があり、この悪循環にはまってしまうと、子どもにとってはパニックすることが、親にとってはパニックされたら要求をかなえてやることが、それぞれどんどん強化され定着していってしまいます。子どもだけでなく、親も、このような行動分析的な枠組みの中でコントロールされているのです。

・・・以上、とても長くなってしまいましたが、パニックをコントロールするために使う行動療法の考え方を説明してきました。既にパニックへの対応もかなり含まれていますが、プログラム的に整理した対処方法についても、後日また改めて書きたいと思います。

最後に、今日の記事で新たに登場した用語を簡単に整理しておきます。

嫌子....いやなこと。これを提示することは「罰」になる
弱化....ターゲット行動を減らすこと
嫌子の除去による強化....「イヤなこと」から逃げられることによって強化すること

posted by そらパパ at 23:06| Comment(0) | TrackBack(1) | 理論・知見 | 更新情報をチェックする
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