ちょっと間が空きましたが、パニックに対処するための行動療法の考え方の続きです。
ここで改めて、ここまでに出てきた用語を整理しておきたいと思います。
好子..........「ごほうび」のこと
強化..........「ごほうび」を与える等でターゲット行動を増やすこと
消去..........強化しないことによってターゲット行動を減らすこと
消去抵抗......消去しようとしてもしばらくターゲット行動が残ること
消去バースト..消去の過程で一時的にターゲット行動が活性化すること
連続強化......毎回ごほうびを与える強化方法のこと
部分強化......時々ごほうびを与える強化方法のこと
さて、「罰」です。
罰とは、「いやなもの」を提示すること、もしくは「ごほうび」を取り上げることによって、ターゲット行動が起こりにくくなるように働きかけることで、行動療法では「弱化」ともいいます。叩いたり叱ったり、というのはそれを提示することが罰になるものですが、こういったものを行動療法では「嫌子」といいます。(なお、多少厳密性には欠けますが、今後「罰を与える」という表現を、「嫌子を提示する」あるいは「嫌子による弱化」の意味でも使いたいと思います。)
罰は、消去とはまったく違います。これまで書いているスキナー箱を例にとって、「レバーを押す」という行動を止めさせるために、消去を使う場合と罰を使う場合でどう違うかを比較してみます。
消去........レバーを押してもエサが出ないようにする。
罰(嫌子)..レバーを押すと電流が流れるようにする。(エサは出る)
どちらがいいでしょうか?
ポイントは、嫌子による罰の場合、レバーを押すとエサが出る、という構造自体に変化がない点にあります。この結果起こる問題点としては、
・電流がイヤでも、エサを手に入れるためにレバーを押しつづける。
・電流を流すのをやめた途端に、またレバーを押す行動が復活してしまう。
といったことが考えられます。これは、一般的な用語におきかえると、
・強化の源となっている「ごほうび」を上回るような強力な罰が必要になる。
・罰をやめた途端に、元の行動が復活してしまう。
さらに、パニックにおきかえて考えてみると、パニックを罰でコントロールしようとするとこういうことになります。
・パニックを強化しているもの(隠れたごほうび)を上回る強力な罰が必要になる。
・罰をやめた途端に、パニックが復活する。
罰は、与えるにしてもできれば軽いものに留めたいですし、問題が解決したらすぐにでも中止したいものです。しかし、上記のような問題があるために、実際には、相当厳しい罰を与えなければ効果がないことが多いばかりか、いつまでたっても中止できないことが多くなると考えられます。つまり、本質的な意味で全然解決にならない、というわけです。
行動療法で一般的に罰が使われないのは、倫理的な理由からというよりむしろ、このように行動を制御する方法として効果的でないからです。
ではなぜ、多くの人は消去ではなく罰を使ってしまうのでしょうか? この点については実践編で改めて考えたいと思いますが、
・罰はその場では即効性があるのに対し、消去は消去抵抗やバーストがあり即効性がないから。
・罰はABC分析をやらなくても実行できる。適切な消去のためにはABC分析が必要。
このように、親にとって罰のほうが「分かりやすい」というメリットがあるからだと思われます。罰のほうが「効いたような気になる」という側面もあるかもしれません。でも実際には「罰は効きにくい」のです。
(次回に続きます。)
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既にブログをリンクしている島宗先生の過去のレポートに、行動分析学からみたTEACCHプログラムというのを発見しました。私が娘の療育で目指していることは、ほとんどここに既に書いてありますね。これに加えて、課題の設定に認知心理学的アプローチを採用する、というのが、私が「そらまめ式」と呼んで、目指しているものなのかな、と思います。