前回の後半部分で、部分強化と連続強化、そして消去抵抗や消去バーストといった話をしました。ターゲット行動を学習した後では、その行動に対し毎回ごほうびを与える「連続強化」よりも、時々しかごほうびを与えない「部分強化」のほうが、その行動がより強く定着し、消去しようとしても消去抵抗や消去バーストが強くなる傾向がある、という話でした。
この部分強化の話というのは、身につまされるというか、納得感がありますよね。
下世話な例えですが、誘ったら毎回デートできていた(連続強化)女性がある時を境に全く誘いに乗ってこなくなった(消去)ら、きっと気持ちが冷めたんだと比較的早めにあきらめられるでしょうが、もともと5回とか10回に1回しか会ってくれない(部分強化)女性が会うのをやめた(消去)としても、「そのうちまた会ってくれるんじゃないか」とずるずると誘いつづけてしまいそう(消去抵抗)です。あるいは、逆に会えないからこそ気持ちが燃え上がったりする(消去バースト)こともありそうですね。
こう考えてみると、恋のかけひきというのは要は部分強化をどう使いこなすかだ、とも言え、遊び人で交際相手がたくさんいるような人が大抵異性に冷たいように見えるのは、実はそれが最も相手を惹きつけるからなのかもしれません。
さて、ここで1冊の本を紹介します。
THE RULES―理想の男性と結婚するための35の法則
著:エレン ファイン,シェリー シュナイダー
ワニ文庫
なぜルールズが?と、本を知っている人ほど思うかもしれません。この本は、積極的に男性にアプローチしないことによって、理想の男性と結婚するという女性むけの恋愛のハウツー本です。アメリカで一部女性に熱烈な支持を受け、日本に輸入されて以降も、熱狂的な支持者を生み続けている、ある意味バケモノ本です。(冗談だと思うのなら、Googleで「ルールズ」と入力して確認してみてください。)
「35の法則」と副題がついているように、いろいろなルールが厳格に決められているのですが、行動療法的に一言で言ってしまえば、「限りなく消去に近い部分強化で、相手にバーストを起こさせなさい」というメッセージが繰り返し述べられている、と言えるでしょう。
バーストを起こした男性は、そのバーストは強化されますが、その後はまた消去のサイクルに入ってしまうので、またバーストする、強化される、消去に入る、この繰り返しで、バーストだけが選択的に強化されることによって、いつもバーストしている「あなたのことをいつも思っていて、熱烈に愛してくれる理想の男性」のできあがりです。バーストが学習されてしまうわけです。
もちろん、ほとんど消去に近いことをやっているわけですから、本当に消去されてしまう(疎遠になる)男性もたくさんいると思いますが、そういう男性は「運命の男性ではない」と一蹴です。
※前回の「パニックを中途半端に部分強化してしまうとどんどんパニックが激しく頑固なものになる」という話と、本質的にまったく同じだということに注目してください。同じ理屈で「男性のアプローチを無視したりしなかったりして部分強化すると、どんどんアプローチが激しく熱烈なものになる」のです。
この本を支持している「信者さんたち」のウェブサイト等で書かれているコメントをよく読むと、ルールズ実践前は決まって、自分は相手に連続強化をしているのに相手には部分強化あるいは消去されて、結果的につまらない男性にバーストしているタイプの女性です。ルールズを実践することで、それまで知らなかった、部分強化と消去を使って相手をバーストさせるテクニックを学び、これまで縁のなかったタイプの男性をゲットできるようになったのかもしれません。
そういう視点で読むと非常に面白い本です。
p.s.お気に入りリンクに鳴門教育大学(来年から法政大学)島宗先生のブログ「自然と人間を行動分析学で科学する」を追加しました。
でも、面白いとか、ちょっとクールなコメントに
独身女性の苦しみがおわかりにはなっていないように思いました。ルールズを実践するのは、自閉症の子供を治すと同じほどに難しい、バーストしているタイプの女性ではなくて99%以上の女性が、
ルールズと逆行動にでがちです。うまく幸せな結婚まで結びつけるのは、つけたいのは
後々の結婚生活にまで影響を及ぼすからです。
女性側の苦労の配慮に欠けていて少し残念です。
コメントありがとうございます。
この記事は「行動療法(応用行動分析、ABA)」という、自閉症児の療育に使うテクニックの理解を深めるために、より身近な「恋愛」に関連する話題としてルールズを取り上げたものです。
「ルールズ」が、道徳とか思想というよりはテクニック集だ、ということには同意いただけるでしょうか? それがこの記事のそもそもの出発点になっています。この点に反感を感じられたのだとすれば、文章全体にもネガティブな印象をもたれるでしょうから、そうだとすればおわびします。
この記事は、「テクニック集だ」という出発点に立ち、その「テクニック」が、行動療法の理論からユニークに説明できますよ、ということを書いています。ですので、「面白い」というのは、こんな風に「ルールズ現象」を見るという視点について言っているつもりです。
ちなみに、たま~に「ごほうび」が出るという環境を作ると、熱狂的に燃え上がる人が出てくるというのは行動分析学の世界では常識で、これを最も積極的に利用しているのがパチンコなどのギャンブルです。ルールズが教えるテクニックも、原理としてはこれと同じだと考えています。
つまり、この記事はルールズ否定ではなく、ルールズ実践は効果が「ある」だろう、という推測を、行動療法の視点から客観的に(まりえさんのご指摘でいえば、クールに)書いているという側面もあるということを申し添えたいと思います。
どうしたら沢山レバーおしてくれますか?
いろいろ試してますが、今のところ惨敗
コメントありがとうございます。
状況がよく分からないので明確にお答えできませんが、恐らく大学などで指導を受けながら実験されているのでしょうから、指導担当の方に相談するのが一番早いと思います。
部分強化というのは、連続強化と消去の間ですから、基本的には連続強化よりも反応頻度は下がります。
ただし部分強化スケジュールの種類によっては、むしろ反応頻度が上がる場合もあったと記憶しています。
この辺りは、行動分析学や学習心理学の教科書に詳しく載っていると思いますので、そちらもあわせてあたられるのがいいと思います。