行動療法で、望ましくない行動を減らすために行なうことは、次の5つです。
1) 望ましくない行動に「ごほうび」を与えない。(好子を提示しないことによる消去)
2) 望ましくない行動で「いやなこと」をやめない。(嫌子を除去しないことによる消去)
3) 望ましくない行動に「罰」を与える。(嫌子提示による弱化)
4) 望ましくない行動があったら「ごほうび」をやめる。(好子除去による弱化)
5) 望ましくない行動に代わる望ましい行動に「ごほうび」を与える。(代替行動の強化)
専門用語がいろいろ出てきましたが、あえてそれを避けず、ちゃんと説明しようと思います。
なぜなら、パニックをコントロールするには、かなり高いレベルで行動療法を理解していたほうがいいからです。実際にはそんなに複雑なことではないのですが、前回も書いたように、パニックに対する”行動療法的に”正しい対処方法は、普通の親が子どものかんしゃくに対して一般的に対応する方法とはまったく異なります。
例えば、多くの「一般的な」親御さんであれば、子どもが騒ぎ出して最初にとる行動は、子どもを叱る、あるいは注意すること=上記でいえば3)でしょう。そして、「騒いでいるのに放っておく」という対応は、周囲の目や親としてのしつけを考えると選びにくい選択肢だと思います。
しかし、行動療法では、パニックに対する最も基本的な対応は「無視」であり、逆に3)の対応は最後の最後、それしかないという場合を除いて滅多に使いません。
このように、ある意味常識はずれな、行動療法的対処方法を体得するには、いろいろなケースに対する対処方法を1つ1つ覚えていくのではなく、その根っこに共通して存在する、基礎としての行動療法の考え方を理解するほうが、結局は覚えることが少なくてラクなのです。また、基礎が分かっていればどんな状況に対しても応用が利き、正しく対応できるでしょう。
2.強化と消去 -スキナー箱の話-
行動療法では、「強化」と「消去」という考え方が最も重要です。
行動療法の源となった行動主義心理学の古典的な実験として、「スキナー箱」というものがあります。
これは、心理学を学んでいた大学時代、私もやったことがあります。ゴールデンウィークを返上して毎日大学に通い、ラットのフン掃除をしながら実験したのですが、まさに行動療法の基礎が詰まっていて、今思い返しても非常に印象深い実験でした。この経験があるからこそ、今、行動療法そのものの有効性に自信を持つことができるのかもしれません。
その「スキナー箱」ですが、小動物用のおりの一角に、レバーを押すと小さなエサが出る機械を設置したものをいい、ラットを入れて行動を観察します。ラットは最初は何の脈絡もなく動いていますが、そのうち偶然レバーを押し、エサを手に入れます。それを繰り返すうち、徐々にレバーを押す頻度が上がり、最後はあたかも意志を持っているかのように、レバーを押してエサを入手するようになります。
下記のリンクでレバーを押すラットの映像が公開されていました。ラットがあの小さな前足でレバーを懸命に押すのは見物です。
http://psychology.doshisha.ac.jp/aoyama/aostudy.html
さて、この現象を、行動療法の用語を使って整理するとこうなります。
エサという「好子」によって、レバーを押すという「ターゲット行動」が「強化」された。
つまり、「好子」とは、行動療法で噛み砕いて表現されるところの「ごほうび」です。
「強化」というのは、ターゲット行動の直後に好子=ごほうびを与えることによって、その行動が今後起こりやすくなるように働きかけることを指します。「学習した」というのは、強化によりターゲット行動が定着した状態のことを指すと考えることができます。
・・・スキナー箱の実験はまだ続きますが、非常に長くなりそうなので、この辺りで一旦次回に続きます。
パニックの対処法にたどり着くのはかなり先になりそうですが、それだけパニックのコントロールは奥が深いということで、ご了承ください。道草を食っているように見えるかもしれませんが、実はここに書いていることすべてが、最終的にパニックの対処法につながっていきます。
(次回に続きます。)