とにかくTPOに関係なく大騒ぎして、容易には止められないことから、家族が外出に及び腰になったり、家庭内での大きなストレスになったりします。
パニックのような問題行動を減少させるには、行動療法がベストの選択肢です。
行動療法的なアプローチを学ぶことで、自閉症児のパニックへの対処法は、恐らく180度変わります。覚えればその日からでも役に立つと思いますので、ぜひ参考にしてください。
行動療法については次回以降の回で詳しく書いていきたいと思いますが、非常に乱暴に説明すると、「やって欲しいことにはごほうびを与え、やって欲しくないことにはごほうびを与えないことによって、行動をコントロールする方法」のことをいいます。
この「行動をコントロールする」というところが実は微妙に重要で(笑)、行動療法で制御できるのは、「できること」に限られると考えたほうがいいと思います。
「できる」というのは、その行動をやろうと思えばできる、そこまで脳なり運動能力なりが潜在的に発達している、という意味で、例えばカタコトをしゃべっている赤ちゃんに物の名前を教えるのは、潜在的にことばを話すことが「できる」状態になっているので有効だと言えますが、犬に人間のことばをしゃべらせようとするのは明らかに「できる」ことではなく、無駄なことです。
このように、「潜在的にできるようになっている」ということを、「そらまめ式」では「レディネスがある」と表現することにします。これは、TEACCHでの「めばえ反応」に通ずる考えです。
ある課題について、行動療法でトレーニングを開始すべきかどうかを判断するシンプルな方法は、その課題に対するレディネスがあるか、つまり、その課題がその子にとって、「潜在的にはできてもおかしくない」状態になっているかどうか、ここにあります。
指差しもなく、要求もはっきりしない子どもにことばのトレーニングを行なっても、まったく意味がないか、極めて効率が悪いかのどちらかでしょう。それより前に、要求を表現することを教えたり、離れたものを操作する(目の前にないものに意識を巡らせることは、機能的な観点からことばの発達に必須の要件だと考えられます。)ことを教えることが、遠回りのようで結局は近道だと考えます。この辺りが、現在主流となっている早期集中介入型の行動療法に対して、私が違和感を感じる部分の1つです。
さて、話を元に戻しますが、行動療法で新しいことを教える際には、その課題に対するレディネスの有無を判断する必要があり、場合によっては直接的な行動療法が有効でない場合がありますが、「望ましくない行動をやめさせる」ことは、間違いなくできます。なぜなら、今やっている行動を「やらない」ということは、必ず「できる」ことだからです。もちろん、てんかんなどの発作のように、止めることが「できない」行動は別ですが、自閉症児のパニックは発作のようなものではなく、コントロールにより減らすことが「できる」行動です。そして実は、行動療法は障害児の問題行動の減少という分野で花開き、現在にいたるまで行動療法が最も大きな成果を上げている領域の1つなのです。
(次回に続きます。)
参考書籍(最初の2つは再掲です。)
行動分析学入門―ヒトの行動の思いがけない理由
著:杉山 尚子
集英社新書
行動療法の基本的考え方を、色眼鏡なしにコンパクトにまとめていておすすめです。
→青色部分りょうさんのコメントにより11/17加筆修正。ありがとうございます。また、用語については上記の本と同じ表現に合わせることにしました。
自閉症を克服する―行動分析で子どもの人生が変わる
著:リン・カーン ケーゲル、クレア ラゼブニック
日本放送出版協会
行動療法で自閉症を治そう(そうは書いていませんが、ほとんどそれに近い表現を使っています)というアメリカの本です。自閉症のさまざまな問題に具体的にどう対処すればいいかという実例が豊富で参考になります。ただ、自閉症への行動療法はこうあるべき、といった価値観の部分がやや強すぎるので、テクニックの部分と価値観の部分をうまく切り分けて読んだほうが賢明だと思います。
詳細なレビューはこちら。
自閉症へのABA入門―親と教師のためのガイド
著:シーラ リッチマン
東京書籍
自閉症むけの行動療法の具体的なプログラムを知りたい、というニーズに応える本。自閉症児専用の行動療法のカリキュラムが具体的に載っている本は、日本語で市販されているものとしては、恐らくこれしかないと思います。
少ないページで全体を網羅しているので、分かりやすい反面、欲を言えば少し掘り下げが足りなくて、もっと細かいノウハウが知りたい!と感じてしまうかも。それでも、持っていて損はない本です。「強化」「消去」「プロンプト」といった、行動療法の基本的考え方もうまく整理されています。
① 強化には二つあります:正の強化(好子出現による強化)・負の強化(嫌子消失による強化)
→ 行動の頻度を高めるものが強化で、強化には刺激の出現によるものと刺激の消失によるものとがあります。 正の強化と負の強化、いづれも行動の頻度が高まります。
② 弱化(罰)には二つあります:正の弱化(嫌子出現による弱化)・負の弱化(好子消失による弱化)
→ 行動の頻度を低めるものが弱化で、弱化には刺激の出現によるものと刺激の消失によるものとがあります。 正の弱化と負の弱化、いづれも行動の頻度が低まります。
※例
正の強化(好子出現による強化)
→ ほしいものがもらえたりほめられて繰り返す、手応えが得られるので続ける、さびしい時に怒られてでもかまってもらうことを選ぶ等々。
負の強化(嫌子消失による強化)
→ 怒られなくても済む、恐いめや嫌なめにあわなくて済むようにする等々
文献
・ 小野浩一(2005)行動の基礎‐豊かな人間理解のために‐. 培風館.
・ 杉山尚子ら(1998)行動分析学入門. 産業図書.
コメントをいただいて、あれ、おかしいな、何か間違えたかな・・・と思って調べてみて、実は思いっきり用語を取り違えていたことに気づきました。てっきり、負の強化=罰によって行動を減少させること、と思い込んでいました。嫌子消失によって行動が強化されることは、「(嫌子消失による)正の強化」だと理解していたんですね。つまり、強化←→弱化のところに行動増大←→減少のベクトルがあるのではなく、正の←→負の、というところにそのベクトルがあると勘違いしていたわけです。
次回からその辺りを書こうと思っていたので、恥をかかずにすみました。ありがとうございます。
「抱っこ法」の回にも一部同様の間違いがあったので直しておきました。
また、用語を正しい定義で再整理してみたところ、やはり「好子」や「嫌子」といった新しい用語を使ったほうが、結局は分かりやすいということに気づいたので、今後の表記は「行動分析学入門」等に準じた用語を使おうと思います。
せっかくなので、りょうさんにご紹介いただいた本をアマゾンでチェックしてみました。培風館のほうは最新刊でもあるし読んでみたいですね。
後先が入れ替わりましたが、今後ともどうぞよろしくお願い致します。 ご挨拶もしないままで、失礼致しました。 読ませていただき、“日々の生活がそのまま療育”というコンセプト、オリジナルのアイデアグッズに本当に感銘を受けています。
日々療育に専心されている方がたくさんいらっしゃる中で、素人が「療育プログラム」を名乗るのは非常におこがましいと分かりつつ、それでも自分にしか作れない「カタチ」があるのではないか、と思いながら記事を書かせていただいています。
オリジナルグッズについても、アイデアがいろいろある中で、自分にできるものを少しずつカタチにしていきたいと思っています。
トラックバック、特に問題ないですよ。
トラックバックに関して厳しめのことを書いているのは、アフィリエイトだけが目的のスパムサイトから、「自閉症」といったキーワードだけを拾ったトラックバックがしょっちゅう来るからです。
今回の場合はそういうものではないと判断しますし、関連性もありますので、特に問題ないと思います。