自閉症を克服する―行動分析で子どもの人生が変わる
著:リン・カーン ケーゲル、クレア ラゼブニック
日本放送出版協会
目次
1章 診断──最悪の知らせから立ち直る
2章 長い沈黙の終わり──言葉でのコミュニケーションを教える
3章 泣く、攻撃する、自分を傷つける──悪循環を断つ
4章 自己刺激──ヒラヒラさせる、たたく、クルクルまわる、その他の反復行動
5章 社会的なスキル──言葉や遊びを意味のある交友関係につなげる
6章 恐れとこだわりに立ち向かう──子どもを現実の世界に連れ戻す
7章 教育──適切な学習の場を見つけ、環境をさらに整える
8章 家族の生活──普通の暮らしを取り戻す
行動データシート
トイレット・トレーニング・データシート
自閉症というマイナーなカテゴリとしてはけっこう話題になっている本のようです。
「そらまめ式」でも重視している行動療法のアプローチで自閉症を克服する方法を、アメリカ人の母親とセラピストの共著という形で語っています。内容は明らかに自閉症の子を持った(というより、子どもが自閉症であると宣告を受けた)親をターゲットとしていて、第1章は子どもが自閉症だと告げられたショックから立ち直る方法と今後の見通しについて書かれています。
いかにも「ロヴァースの行動療法」的だな、と感じるのは、次の第2章がいきなり言葉のトレーニングになっている点。パニックよりも自己刺激よりも、あるいは親との関係といったあいまいなものよりも、何より最初に言葉を教えるというのが、ある意味、この本全体の「思想」を表していると感じます。
そうなんですよね。この本を読んでいると、UCLAのロヴァースによって開発され、アメリカ西部で広まり、日本にも持ち込まれた(そしてこの本のベースとなっている)「ロヴァース式自閉症行動療法」というのが、思想というか信条というか、そういった価値観的なものからまず始まり、その上に「行動療法」の枠組みをはめ込んだものだ(その逆ではない)、ということを強く感じるのです。言い換えると、テクニックが書いてある本なのに、読んでいるとどうしても教育思想書というか、もっと踏み込んで言えば宗教書というか、そういった本のように感じられてならないのです。
繰り返しになりますが、「行動療法」自体は単なるテクニックであり、イルカに芸を教えたりするのと同様の技法を、ヒトの行動修正や学習促進に活用する方法、枠組みを指します。「ロヴァース的な行動療法」というのはその1つの体系といえ、自閉症の治療に成果を上げている事実は間違いないところですが、行動療法のやり方はこれしかない、ということではないと思います。
この本を読むにあたっては、個別の問題に対応するテクニックの部分と、「療育とは、教育とはこうあるべきだ」「親は・学校はここまでやらなければならない」「自閉症児のこういう行動はだめだ・やめさせなければならない」といった価値観の部分を客観的に切り分けて、前者のみを取捨選択して日々の療育に応用するというのが私のおすすめする読み方です。
そういう意味では、この本は自閉症児に対する行動療法の具体例が満載で、かなり役に立つ本だと思います。ただ、学術書的な雰囲気を避けるためでしょうか、行動療法に関する専門用語の解説が一切ありません。その割には専門用語がけっこう出てくるので、先日ご紹介した「行動分析学入門―ヒトの行動の思いがけない理由」をあわせて読むことをおすすめします。こちらの本は行動療法の一般論を語っていて、当然「ロヴァース的価値観」には染まっていないので、行動療法の本質がどんなものかを知るという意味でもとても役に立ちます。
この本の5章と7章については、上記の「価値観」の側面が色濃く出ていて、テクニックに関する新しい話題はほとんど出てきませんので、個人的には飛ばしていいと思います。読んでしまうと、例えば次のような記述があって、「真面目な療育テクニックの本」として読み進めることを少しためらってしまいます。
(例:子どもを普通学級に入れる「統合教育」に関する話題)
自閉症児を普通学級に入れることに反対する親がいるが、そういう親の子に限って、教室で問題を起こしている。例えば○○のケースでもそうだった。○○の親は統合教育に反対して署名まで集めたが、学校は受け入れ方針を変えなかった。実際に教室に行ってみると、いつも○○が問題を起こしていた。あきれてしまった。
自閉症児が普通学級で適切なサポートを受けられるよう、専門のヘルパーやコンサルタントをつけるべきである。そうでない学校は訴訟を起こされるのが当たり前になっている。
また、社会性に関しては、自分から友人を遊びに誘い、週末はパーティを開催し、学校ではランチを食べながら雑談をするといった、平均的日本人よりもはるかに「社交的」なレベルが目標になっていて、「アメリカの自閉症児は大変だな」と素直に思いました。
ところで、この本の「トイレトレーニング」のパートでは、「一日でおむつがはずせる」という本がそのまま引用されています。
一日でおむつがはずせる
著:N.H.アズリン,R.M.フォックス
角川(主婦の友)
この書名を見てとても懐かしく感じました。私が大学生だったころ、たまたま古本屋で見かけて、その内容が非常にユニークだったので、子育てとかにまったく関わっていないにもかかわらず「直感的に」購入し、その後もなぜか捨てずにいて今でも持っている本です。改めて見てみるとこれは行動療法の本だったんですね。ごく短期間でおむつが外せる理由も今なら納得。どうやら今では絶版のようで、かなり人気のある古本になっている(新書なのに相場が定価超えの1000円以上)ようです。
そらパパさんはすごいなあ~。
パパさんのブログ、リンク貼っていいですが?
いつもブログを読んでいただいてありがとうございます。
もちろんリンクはいつでもどうぞ。大歓迎です!
リンクしたらぜひトラックバックしてください。
どうするのかも実はわかんないぐらいで、
すいません。
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やっぱり、システムがよくわかってないです。
自分の能力を超えてしまってるわ。。。
なんだか、脳みそがかちんこちんになっていて、
なかなかすぐに理解できず。。。すいません。
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ウチも3歳の男の子の自閉児を抱えています。
といっても正式診断はされていません。
市と診断方法でケンカしたのとそのことで
母の私が膨大なストレスをためて
子どもの発達が悪化したからです。
私は法律を勉強していてて、試験を受けるため
専門外の心理の勉強を少しかじったことがあります。「行動療法」「認知心理学」は机の上で
実務的にはなかなかぴんと来なかったのですが
HPで読むとさすが専攻されていたということで
理解が深まりました。
ところで私は自閉と宣告され困っていたところ
この本を読んだところ、前向きな気もちになって
子どもに接していこうとおもいました。
この本でウチの子は2~3語文の要求が
できるようになりました。確かにこの本には
ちょっとした違和感があってそらパパさんが
指摘してくれて納得しました。
ただ育児の現場にいると少なからず
特効薬が欲しくなるので行動療法に走って
しまうのではないでしょうか?
人の一生がかかっているから余計です。
法科も学説の検討の連続でしたが、
現場の裁判は待ってはくれませんからね。
ところで日本はこの分野は20年も30年も
遅れているって本当ですか?
行動療法は自閉症の療育に有効な方法だとは思いますが、万能ではありませんし、また唯一の方法でもないと思います。特に、心とか言葉の「発達・芽ばえ」に関しては、非常に弱いところがあると思いますね。
逆に、自然と出てきた言葉を増やしていくのにはとても適した方法だと思っています。
上記のレビューでも指摘していますが、ロヴァースから続く早期集中介入系の行動療法の本は、どれもある種の「熱狂」のようなものが感じられ、私は読んでいて妙な居心地の悪さを感じます。
さて、日本の療育ですが、私は特に遅れているとは思いません。例えばアメリカと日本を比べて、導入されている「ノウハウ」のレベルにそれほど大きな差があるとは思えません。少なくとも20年30年ということはないですね。
確かにアメリカでは行動療法が非常に盛んなようですが、それは単に、アメリカはもともと行動主義心理学が盛んで研究者が多かったことや、行動療法の持つ科学的かつ実利的なアプローチがアメリカ人の価値観に合っていたというだけで、私は「流行」の一種だと思っています。(あとは、アメリカは中流層以上の人がセラピストを雇ったり、政府がそれを支援したりできるくらい「世界の金持ち」だ、ということも関係していると思います。)
少なくとも、行動療法が盛ん、イコール、進んでいるということは全くないと、私は思います。