2005年11月01日

初めて気づいた日

 多少発達が遅れてるのかな、と最初に感じたのは、生後4か月くらいの頃でした。効果的な刺激をうまく与えて脳の発達を促そう、と考えていた私は、光が点滅しながら左右に動くメリーを与えたり、私の考えに近い子育ての本を探して、そこに書いてある「働きかけ」をやったりしていました。
 その本では、生後3~4か月の段階から、目の前でおもちゃを動かして手を伸ばさせたり、いないいないばあを始めたりといった「働きかけ」を指導していました。私も実際にチャレンジしたのですが、全くうまくいきません。それも、少し練習すれば何とかなるといった雰囲気ではなく、目の前で何かやっても見ようともしない、全然どうにもならない、といった印象でした。
 ただ、この時はそれ以上深く考えず、「この本は高いレベルを求めすぎていて現実的じゃない」と考えて、その本を使わなくなっただけでした。その後も、ちょっと機嫌が悪くなるとすぐに椅子の背もたれに後頭部をガンガンぶつけたり(今思えばパニック)、対象年齢1歳以上のおもちゃはほとんど遊べなかったり、今考えれば思い当たる節はいくつもありましたが、当時は「正常な発達の範囲内」だと漠然と考え気にしていませんでした。
 そんな中、一歳半健診を受けた妻が、娘にことばが出ないことを心配し始めました。私はあまり気にしていなかったのですが、念のため少しインターネットで調べてみようと思いました。

 ネットで調べてみたところ、ことばが遅れる障害としては「自閉症」がもっとも考えられるが、過剰に心配することはない、といった記事が多くありました。さらに、より専門的な方向に掘り下げて調べていくと、一歳半で自閉症の予備診断ができるという「CHAT」に関する記事を発見しました。

http://www.synapse.ne.jp/~shinji/jyajya/ronbun/chat.html

http://www.synapse.ne.jp/~shinji/jyajya/ronbun/chat2.html

 ここに書かれていることを乱暴にまとめると、一歳半の時点で以下の3つをすべて満たす子どもは8割以上の確率で自閉症になる、ということです。

1. PP(ごっこ遊び)ができない
2. PDP(要求の表現ではなく、対象物を他人に見せることを目的とする指さし)がない
3. GM(大人の目線をおいかけ同じ対象物を見ること)ができない

 当時、娘は1歳8か月くらいだったと思いますが、1~3がすべてできませんでした。この瞬間、自分は障害児の父親になるんだ、と覚悟しました。
 女の子が自閉症になる確率はかなり低いと言われている(1000人に1人~数人といわれる自閉症児の、さらに2割弱が女児)のに、なぜうちの子が・・・という思いでした。一方で、大学で心理学を専攻し、卒業後も仕事で心理統計を使ったり、独学で勉強を続けていた自分がこういう立場になったことに対して、何か縁というか運命のようなものも感じました。普段は無神論者ですが、この時ばかりは、「この子がちゃんと育つように、神様がこの子を私たちに「割り当てた」のかもしれない」とも思いました。

 この日は、私にある種の「絶望感」を与えた日であったと同時に、人生に新しい目標ができた日でもありました。子どもの成長に期待していたいろいろなものを当面あきらめなければならなくなった一方で、自分にしかできないことがきっとあり、それをやり遂げなければならない、と感じたのです。
 最初にやらなければならなかったことは、妻にこの事実を伝えることでした。自閉症は「治る」ことが期待できない障害であり、現に子育ての中心にいる妻に対して娘の自閉症のことを伝えるのはとても辛いことでした。やはり妻は相当ショックだったようで、その現実を受け入れ、療育などに前向きに動けるようになるにはかなりの時間が必要でした。
 その後、娘は専門家による診断を受け、自閉傾向と精神発達遅滞が確認され、行政による簡単な療育も始まりました。

 ここから、私たち家族の娘に対する、これまでとは全く違った意味をもった「働きかけ」が始まったのです。

kotobadondon.jpg

ことばどんどん あかちゃんえほん(1)たべもの
ひかりのくに

対象物の身近さや地と図のコントラストなど、「そらまめ式」で考える「望ましい絵本の条件」をほぼ完全に満たした絵本。娘のお気に入りでもあります。
追補:CHATは偽陽性率が低く、偽陰性率が高い検査方法だということです。これは、CHATの基準を満たした場合に自閉症と診断される可能性は高い一方で、基準を満たさなかった場合でも将来自閉症だと診断される可能性は残っている、ということです。つまり、本当にクロのものはクロと出る一方で、グレーのものはシロと出てしまいやすいという検査だということです。娘の場合は3つともできない「クロ」という結果でしたので、ほぼ間違いなく自閉傾向がありそうだ、と判断したわけです。
posted by そらパパ at 23:23| Comment(8) | TrackBack(0) | 娘の話 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
無神論者ですがの下り、大変共感させて頂きました。
私は、息子が私を選んでくれたんだ…という自己暗示に酔うのが大好きです。
こんな無力な私を選び頼ってくれたのだから、
チュータ兼エンジニア兼ボディーガード兼ドライバー兼ファンドレイザとして、
この私のショボい命をフルに使い尽くし、彼が本来手に入れるべきであったものを全て、
享受してもらいたい。

それが私のたった1つの願いです。
Posted by 自閉症児(7歳)の父 at 2008年07月31日 13:55
自閉症児(7歳)の父さん、

コメントありがとうございます。

この記事を書いたのも、もう2年半以上も前になりますが、いまだに、自分の学んできたことと今の境遇を考えると、運命めいたものを感じるときはありますね。

自閉症児をもつ父親として、お互い頑張っていきましょう。
Posted by そらパパ at 2008年07月31日 23:04
ハワイ在住の4歳児の母です。アマゾンのお客様におすすめというメールから先生の本およびこのサイトのことを知りました。本日はじめて見させていただいています。ハワイには自閉児を持つ日本人母が驚くほど多いのですが、自閉症はいつか治る!という言葉を信じ、そして、障害児には理解のあるアメリカに暮らしていることに感謝し、みんな頑張っています。26ヶ月で自閉症と診断されてから、先生と同じステップを踏み、現在に至ります。将来何かご協力できることがあれば、と思い書き込みしています。どうぞ宜しく。
Posted by ハワイの賢太郎(4歳)の母 at 2008年08月27日 14:57
ハワイの賢太郎(4歳)の母さん、はじめまして。

ブログにお越しいただき、またコメントを書き込んでいただき、ありがとうございます。

アメリカは文化的にも、大人が可能な限り具体的に介入して、自閉症を「治していこう」という考えの強い国だと思います。

一方で、子どもの「発達」に大人が介入できる領域はそれほど大きくないのではないか、という考え方を前提に、ではその「限られた介入」をどのように効果的に行なっていけばいいんだろう、という考えかたもあり、当ブログの根底にある考えかたは、実はこちらに近いものです。

どちらがより真実に近い考え方なのか、それはとても難しい問題だと思っています。
ただ確実なことは、どのような立場をとっていても、子どもをしっかりと観察し、療育の効果を確認しつつ、誠意をもって子どもに働きかけていれば、必ず何らかの効果はある、ということです。

親にとっては非常に息の長い取り組みになりますが、途中で息切れすることなく、着実に積み重ねていくことが大切ですね。

もし何か情報等ありましたら、このブログにコメントいただいても結構ですし、ご自身でブログ等を立ち上げて情報発信されるのも意義深いと思います。
お互いに頑張っていきましょう!
Posted by そらパパ at 2008年08月27日 21:51
2~3週間前に、「自閉症の療育」で検索していて、そらパパのブログを見つけ、そのリンクでそらママのブログを知り、読ませていただいております。

今まで虫食い状態であちこち飛びながら読んでおりましたが、今日ブログの最初に戻って、そらパパの、「この子がちゃんと育つように~」の箇所を読みとても感激し、コメントさせていただきました。

私は40年位前に療育相談所に看護婦として勤務した時に初めて「自閉症」を知りました。

その頃は、障害児(このように表記してよいのかどうかわかりませんが)が生まれると、殆どが家庭崩壊に陥っておりましたので、そらパパとそらママを選んできた、そらまめちゃんは、本当に見る目があったと思います。

このブログは同じ問題で悩んでいる方々に勇気と希望と生きる力を与えていると思いますので、その意味では、そらまめ一家の使命のようなものを感じます。

私自体は自閉症児は抱えておりませんが、
私の連れ合いの姉の子が自閉症です。

とはいっても、もう40歳近くになります。

義姉はその子が生まれた時に、この子の将来のために兄妹を産まなければと思ったらしく、この子を筆頭に5人の子供を産みました。

40年前ですので【療育】施設などは無く、自力で対応したようですが、今ではちょっとした会話が出来、作業所にもバスで通勤しています。もう20年くらい続いているのではないでしょうか。

私は30年前からアメリカに住んでおり、
ここ10年位前から「自閉症」がよくメディアに登場しており、日本の療育事情が知りたくて検索していました。

まだ、5~6年は退職できませんが、退職後は、何かお役に立てれることがあればしたいな~と考えております。

ブログにコメントを書き込むのが初めてなので、要領がわからず、メールしている気分で長々と書いてしまい、すみませんでした。





Posted by 感激バーバ at 2009年05月08日 02:41
感激バーバさん、

コメントありがとうございます。
また、妻のブログともどもご覧いただきありがとうございます。
(両方あわせてご覧になると、こちらのブログもまたちょっと違った印象をもって読んでいただけるかな、とも思います。)

このブログも、自閉症の療育という非常に狭いテーマについてたった一人で書き続けている割には、自分でも予想できなかったくらい続いています。
それだけ、療育というのは奥が深く、また多くの方からの応援をいただいてモチベーションを維持できているんだと思っています。

日本の療育事情ということでいえば、住んでいる地域や「タイミング」によって、受けられる支援に非常にばらつきが出る、「ボラタリティの大きい」状態にあるのが最大の問題だろうと思っています。
だからこそ、ネットで記事を読めば誰でも公平に情報が得られて、そのまま誰でも自分で取り組めるような療育についての情報を発信することに意義があるんだ、という思いで、このブログも続けさせていただいているわけです。

今後ともよろしくお願いします!
Posted by そらパパ at 2009年05月08日 23:52
そらパパさん
お忙しい中お返事を頂き有難うございました。「タイミング」って本当に大事ですね。

私も看護婦の時、いろいろな意味で「タイミング」の良し悪しが、生命の分岐点になる場面に遭遇してきました。

そらパパさんが、情報を開示することにより、もたらす恩恵は計り知れないものがあるとおもいます。

また、そらパパとそらママのブログを読むことにより、療育の理論と実践を並行して学 べ、同じ問題を抱えるかたたちにとって、具体的で実行に移しやすい、療育方法なのではないかと思います。

そらパパそらママの、ますますのご健闘をお祈り致しております。









Posted by 感激バーバ at 2009年05月18日 23:24
感激バーバさん、

ご返事ありがとうございます。
このブログで、自分が何をすればいいかをずっと模索してきましたが、最近ようやく、「質の高い療育情報をオープンに共有することで、タイミングとかその他もろもろから生じる療育レベルのボラタリティを最小化すること」が自分にできる一番の役割かな、と思えるようになってきました。

これからもよろしくお願いします。
Posted by そらパパ at 2009年05月20日 22:28
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