2008年02月06日

燃費グッズの事件からオカルトを考える

こんな事件が目に止まりました。

http://www.asahi.com/business/update/0206/TKY200802050413.html

自動車冷却水添加剤、「燃費向上」根拠なし 公取委判断
2008年02月06日03時10分

 自動車のラジエーターに入れるだけで走行燃費が向上するなどの効果をうたった自動車用冷却水添加剤が景品表示法違反(優良誤認)にあたるとして、公正取引委員会は近く、メーカーと販売会社に対し、排除命令を出す方針を固め、事前通知した。表示した効果について、合理的な根拠がないと判断したとみられる。メーカーは「燃費向上の効能を示すデータはある」と反論している。
 関係者によると、排除命令を受けるのは、自動車の冷却水に混ぜて使う添加剤「起爆水」を製造する福岡県の「すばるメディア」と、大阪府の販売会社「ピエラス」。
 ネット上のショッピングサイトなどでも販売されており、効果について「排ガスを浄化し、燃焼効率を上げる」「燃料消費量がガソリン車で3~30%程度減る」などと説明している。
 公取委は、実験データなどの科学的な根拠が不十分だったとして、不当表示と判断したようだ。
 メーカー側は「商品にはエンジンの熱や電磁波を反射する元素結晶体を入れている。利用者からも効果を示す報告があり、実験データもある」と反論。「裁判になっても争う」と話している。一方で「なぜ結晶体が燃費を向上させるのか、解明されていない理論も残っている」とも話している。
 公取委幹部は「購入した人は、効果が出たかどうか確認するため、普段よりも気をつかって運転する。効果があると感じるのは乗り方が違うからであって、商品は『お守り』的な役割しか果たしていない」と話す。


なぜこの記事をこのブログで取り上げたのかというと、ここで書かれている内容が、「オカルト商品(サービス)」というものの本質をうまく突いていて、それは自閉症における多くの民間療法、代替療法にもあてはまるものだからです。

燃費改善グッズについて、車を運転する人はご存じないかもしれませんので簡単に触れておくと、そのグッズを車に装着することで、燃費が良くなる(つまり、ガソリン消費が減る)と称するカー用品のことです。

具体的にどんなものがあるかというと、ガソリンやオイルに添加する添加剤から、配管などに巻きつける磁石、車に貼るシール、ガソリンタンクに(固形物を)投入するものなどさまざまです。今回のグッズのように、冷却系に働きかけるものもあるようですね。
値段もピンキリで、数百円から数万円くらいまであります。

ここで断言しますが、燃費改善グッズのほぼすべては、理論的にインチキであると推論できます。これは、試さなくても分かります。

なぜでしょうか?

なぜなら、もし本当に数百円から数万円ではっきりとした燃費改善効果があるなら、とっくに自動車メーカーが採用しているはずだからです。
新車の設計において、燃費改善のためにかけられている開発コストや製造コストは相当なものになるでしょう。さらに、燃費がいいというのはそれだけで大きなセールスポイントになりますから、多少値段が高くてもユーザーはそういう車を買ってくれます。

だとすれば、その程度のコストで、本当に燃費改善効果のあるグッズがあれば、とっくに自動車メーカーの標準装備になっていなければおかしいという理屈になります。

さて、そうなると不思議に思われるのが、どんな燃費改善グッズでも、「燃費がこんなに改善した」というユーザーからの声がたくさん集まるという事実です。

実はこれも簡単な理屈です。

燃費なんていうものは、常に変動するものです。10%や20%の変動なんて、車のコンディションや運転の仕方、渋滞などによって簡単に変わります。
言ってみれば、さいころの目と同じようなものなのです。

だとすれば、例えばあるグッズを1000人の人が使って、そのうち50人の人が、その後の燃費が例えば1か月以上ずっとそれ以前よりも改善したとしても、それは偶然の産物として十分説明できてしまうのです。(なぜなら、グッズ使用後の燃費を、グッズ使用前に対して「いい」「悪い」の2択だとして、ガソリンを毎週1回入れるとすれば、4回連続して「いい」になる確率は、単純に50%の4乗=6.25%、1000人×6.25%=62.5人だから)

そして、「お客様の声」としては、この50人を中心として集まってくる、というわけです。それ以外の、あまり燃費が良くならなかったりかえって悪化した950人の声は上がってこないのです。

このロジックで、今回の記事の「真相」はほとんど読み解けてしまうといっていいでしょう。記事の最後で公取はちょっとピントが外れた指摘をしていると思います(そういう要素もあるでしょうが)。

・・・さて、前振りが長くなったので簡単に書いてしまいますが、自閉症の民間療法や代替療法などにおける「自閉症が治る、劇的に良くなる」といった宣伝文句の多くは、だいたいはこの「燃費改善グッズ」と同じ視点で読み解けばからくりが分かってしまいます。

こういった宣伝における「良くなった」という実績のほとんどは、(燃費改善グッズと同じく)全体の母集団をみていません。
その療法をやってみて、(仮にその療法自体にまったく効果がなくても)ちょうどそのときに偶然子どもが大きく発達して、成果があったように感じられた人だけが、その療法を続けていくのです。
ですから、その母集団にアンケートをとって、「○○%の人に大きな効果!」といっても、そもそもほとんど意味をなしていない、ということになるわけです。
(実は、私立の学校と公立の学校を比べて「私立のほうがいい」という話も、部分的にこのロジックが成り立っているケースがありえます。私立の場合、通ってみたけど良くなかったという生徒は離れていってしまいますから、残っている生徒は本当の意味では「母集団全体」を反映しておらず、その学校でうまくいった生徒だけが残っていくという傾向があると考えられるわけです。)

療育を科学的、客観的にとらえて実践していくこと、あるいは周囲の変な声に振り回されないことのためには、こういった考え方もとても大切だ、ということでエッセイ風に書いてみました。
posted by そらパパ at 22:58| Comment(5) | TrackBack(0) | 理論・知見 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
お久しぶりです。最近コメントしていませんが毎週拝見しております。
自閉症児のいわゆる自閉的行動が一般に加齢とともに改善することを考慮すれば、自閉症児の民間療法に関する改善データはさらに信頼性を失いますね。加齢とともに(自閉的行動が)改善することを強調しすぎるのも功罪あるかとは思いますが、早期に介入しないと全く伸びないかのような説明や改善はすべて(特定方法による)介入によるものと断定するような勧誘には眉をひそめる思いです。
Posted by おちみ at 2008年02月08日 03:37
そらパパさま、

ブログ相当気に入ってしまいました。
うちの子もPECSでがんばっております。
できればBlogのリンクをお願いしたいのですが、よろしいでしょうか?
Posted by えっくんママ at 2008年02月09日 14:29
こちらのブログ(↓)でも燃費改善グッズをネタにした記事があり思わずニンマリしてしまいたした。
http://d.hatena.ne.jp/NATROM/20080208#p1

終わりの方で陰謀論について述べられていますが、自閉症ワクチン原因説においても、ワクチンと自閉症の関連を否定する医師や米国政府は、ワクチンを製造している製薬会社と結託しているからだという説を信じている人がいるようですね。
Posted by ntk at 2008年02月09日 16:43
皆さん、コメントありがとうございます。
マルチレスにて失礼します。

おちみさん、

それを書くとさらに話がややこしくなるので書かなかったのですが、もちろんそれもあります。
これは健常児でもある(むしろこの効果だけ見れば健常児のほうが大きい)ことで、だからこそ、いい加減な(実は何の効果もない)教育法であっても、「その指導で伸びる子がいる」という理由で長く生き残ったりしてしまうわけでしょうね。


えっくんママさん、

当ブログはリンクフリーですので、リンクはご自由に張っていただいてかまいません。よろしくお願いします。


ntkさん、

最初から最後までほとんど同じ議論になっていて、思わず笑ってしまいました。(^^;)

自動車メーカーが、怪しげな燃費改善グッズを一応試してみることがあるのと同様に、あやしげな民間療法でも、専門家はそれなりにチェックしているものです。「自閉症が本当に治る」医学的手法があったとすれば、どんな研究者だって血眼で研究するでしょう。(自閉症を治す薬や手術を開発できたら、おそらくノーベル医学賞がもらえるのではないでしょうか。)
Posted by そらパパ at 2008年02月09日 23:40
インフルエンザワクチンも、いまだに受ける人いますしね~。
Posted by gestaltgeseltz at 2008年02月11日 23:10
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