2007年12月13日

爆笑問題のニッポンの教養 哲学ということ(ブックレビュー)

面白かった!


NHK 爆笑問題のニッポンの教養 7 哲学ということ
著:太田 光、田中 裕二、野矢 茂樹
講談社

爆笑問題のニッポンの教養」という番組をご存知ですか?
これはNHKで毎週火曜日の23時からやっている番組ですが、お笑い芸人の「爆笑問題」が、大学教授のところを訪問して、その教授の研究についてまじめに討論するという、見た目よりもはるかに硬派な番組です。

その番組の内容が新書になったのがこのシリーズですが、今回取り上げたのは、東京大学の哲学の教授である野矢茂樹氏と爆笑問題が、哲学のテーマでガチンコでぶつかり合うという内容のものです。

実は、野矢先生の本については、以前も当ブログで取り上げたことがあります

それは、同じく新書の「哲学の謎」という本です。

この本のレビューでも書いたのですが、自閉症について本気で考えるのなら、私たちがとらわれている既成観念を振り払い、できるだけ頭を「すっぴん」の状態にした上で、徹底的に頭を絞って、誰もとおったことがないような険しい思考の「道」を歩いていかなければならない、と考えています。

そのためにぜひとも手に入れたい「道具」が哲学で、野矢先生の「哲学の謎」は、そういった私の哲学へのニーズに本当にぴったりとはまった素晴らしい入門書でした。(それ以来、野矢先生のファンです。)

そんな野矢先生は、キャンパスを訪れた爆笑問題の2人に、こんな問いをポンと投げかけます。

田中さん 大田さん
「心って何?」と
聞かれたら
何と答えますか
         のや

(初版12ページ 野矢先生の手書きメモより)


実は、本書は最後まで、この問いに答えを出すための、爆笑問題の2人と野矢先生との「激論」のみで構成されています

哲学者の名前も、哲学用語もほとんどまったく出てきません。
ただ3人が、ものすごく簡単なことばで議論しているだけ。
しかも、どう見ても台本なんてない状態でいきなり議論を始めてるから、もちろん爆笑問題の言っていることはかなりハチャメチャだし、実は野矢先生のほうの議論も時々同じ場所をぐるぐる回ったり、進むべき方向が微妙にずれたりといったことも起こっている感じがします。

でも、読んでいただければ実感していただけると思いますが、ここで展開されているのは、紛れもなく、とても濃密な哲学の議論です。
爆笑問題(特に太田さん)の言っていることも、ことばとしては相当に拙いのですが、実は意外にも(失礼)一貫した骨太の主張が含まれていて、前半では野矢先生に押されっぱなしですが、後半になるとかなり盛り返して、まさにガチンコの議論のぶつかり合いが楽しめます。
田中 じゃあ心は多少あるってこと? 気持ちいいな、みたいな。

野矢 面白い質問だね。難しくてよくわかりません(笑)。

(初版96ページ)

本書を読みながら、「確かにそうだ!」と感じたり「なんで野矢先生はこんな風に言っているんだろう?」と疑問に思ったり、「自分ならこう考えるけど」と頭をひねったりすることは、まさに哲学の扉をくぐることに直結すると思いますし、そういった日常生活からは超越したことにアタマを働かせるという経験をすることは、私たちが、私たち自身の切実なテーマについて、哲学的に考えるための、本当に重要な第一歩になると思います

哲学なんて難しそう、という人にこそ読んでもらいたいと思います。
そして、本書を読んで「野矢先生の哲学」に魅了されたなら、ぜひ次は「哲学の謎」に進むことをおすすめします。

ところで、爆笑問題はけっこうアクの強い芸人なので、名前を聞いただけで拒絶反応を示す方も少なくないと思いますが、もしかするとそういう方にこそ、本書は楽しめるかもしれません。

最初から大口を叩いている太田さんが、どんどんと野矢先生にやり込められていって追い詰められていく前半の展開では、正義の味方が悪役?をやっつけるような「爽快感」を感じられますし、その後、このまま言い負かされてしまうのか?と思ったところで意外な盛り返しにつながる部分では、純粋な知的好奇心の満足に加えて、爆笑問題の2人を見る目が少し変わってくるんじゃないかな?と思います。(少なくとも、私は変わりました。)

最後に、この本で出される「心とは何か?」という問いに対する答えと多少関連しますが、私も当ブログで、「心とは何か?」という問いに対する答えを書いたことがあります
この私の「答え」と、本書の中で示される「答え」とは、似ている部分もあり、違う部分もあったりして、それも私自身、興味深かったですね。

※その他のブックレビューはこちら
posted by そらパパ at 23:48| Comment(0) | TrackBack(0) | 雑記 | 更新情報をチェックする
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