自閉症の人の自立をめざして―ノースカロライナにおけるTEACCHプログラムに学ぶ
著:梅永 雄二
北樹出版
第1章 ノースカロライナ州の自閉症サポートとTEACCHプログラム
第2章 診断・評価
第3章 就学前支援
第4章 学校コンサルテーション
第5章 就労支援
第6章 居住支援
第7章 余暇支援
第8章 研修
第9章 その他
第10章 自閉症の人の支援に関するノースカロライナに学ぶ点
この本ですが、ある特定のニーズに対しては完璧といっていい内容になっていると思います。
それは、「ノースカロライナ州で実施されているTEACCHって、実際にどんなものなんだろう?」ということを知りたい、というニーズです。
本書の特徴をごく簡単にいえば、「非常によくできた、『ノースカロライナ州におけるTEACCH』の視察レポート」です。
写真もたくさん掲載されていますし、療育に携わる大学の先生の視点からTEACCHの取り組みの姿が偏りなく既述されていますし、何より日本語で読めます(本当に視察に行ったら通訳はいるせよ英語で聞くことになりますから・・・)。
一方、それ以外の部分、特に本書を「TEACCHの入門書」、あるいは「具体的な療育法のガイドブック」のように読もうとすると、期待を裏切られると思います。
目次にある1つ1つの章は、それぞれ大体10ページ程度しかありません。そこに、具体的な施設名や個人名が入った形で、具体的な取り組みが写真入りで記述されているので、イメージはしやすいもののボリューム感には欠けます。
そのため、「TEACCHの入門書」というには知識が断片的なものになってしまい、TEACCHの理念や取り組みの全体像、診断や課題遂行などに関するさまざまな技術的な側面の解説などを詳細に知りたいと思うと物足りないでしょう。
そういった部分については、例えばこちらやこちら、あるいはこちらやこちらといった本を先に読むことをおすすめしたいと思います。
また、運営面からの掘り下げ、例えば「収益性はどうなのか、運営コストの構造と規模はどうなのか」「他の療育技法との折り合いはどうつけているのか」といった部分も強くはないです。(そういった問題意識に対しては、内山先生の「本当のTEACCH」という本が応えてくれています。)
とはいえ、先に書いたように「ノースカロライナ州のTEACCHを具体的に見たい、知りたい」というニーズに対しては、本書ほどぴったりの本はありません。
一般の親御さんでも参加できる、「ノースカロライナ州へのTEACCH視察旅行」というツアーの企画が毎年行なわれているようですが、私も実はこれに参加しようかどうか迷ったことがあります。
結局、時間と費用(通常の観光旅行と比べるとかなり割高だった記憶があります)の問題から参加には踏み切れませんでしたが、この本は、そのときに感じていたニーズ、つまり、「行政が、現実性のある範囲でベストの努力をして自閉症の問題に取り組んだ場合(つまりこれが、ノースカロライナ州のケースだと思うわけです)の、自閉症へのサポート体制とはどのくらいのものでありえるのか?」という問いに対しては、ほぼ完全に答えてくれていると言っていいと思います。
そのサポート体制の「中身」は、さすがと感じられるものもありますし、限界を感じる部分もあります。また、やはり富める国アメリカだからこそできる、お金のかかるサービスだという印象も(残念ではありますが)強いですね。
でも、いずれにせよ、そういういい面も悪い面も含めての「ノースカロライナ州のTEACCH」を、今までにない分かりやすさではっきりと示してくれているという点に、本書の最大の魅力、意義があると思います。
私たちはつい、「ノースカロライナ州のTEACCHはとにかくすごいらしい」といった無批判な評価をしてしまったり、逆に「日本ではTEACCHなんてできない」といった後ろ向きな態度をとってしまいがちですが、これらはいずれも、詳細が分からない中で、ノースカロライナ州のTEACCHを多少なりとも「伝説化」してしまっているところに問題があると思います。
本書を読めば、ノースカロライナ州で行なわれていることも、個々の内容としては特段「独創的」と言えるようなものではないことが分かります。「独創的」なのは、そこにTEACCHの哲学という明確な思想的柱を通して、統一感のある広範な行政サービスを提供できているところにあるのでしょう。
私たちが学ぶべきは、そのフォーマット(思想的柱を通して、統一感のある幅広い働きかけを行なう)であって、「ノースカロライナ州のコピーの作り方」ではないはずです。言い換えれば、ノースカロライナ州で行なわれていることを通じて、私たち親は「家庭でのTEACCH」の取り組みについて考えることができますし、地域や施設で働く専門家の方は、「自分たちの影響の輪のなかでできるTEACCH」を考えることができるのだ、と思うのです。
本書は、即効的、実利的なものを求める方にはまったく向きません。
でも、表面的な事実から、頭を働かせて本質に向かうだけのエネルギーをもっている方には、非常に面白いTEACCH本になることでしょう。そして言うまでもありませんが、本書はそのように読むべきです。
TEACCHの入門書を含む、その他のブックレビューはこちら。
TEACCH関連の実践についての本は、このブログでも殿堂入りしている「自閉症のすべてがわかる本」がよいと思いますが、TEACCHの思想・哲学などがよくわかるのはショップラー先生やメジホフ先生が書かれた邦訳「TEACCHとは何か-自閉症スペクトラム障害の人へのトータルアプローチ」(服巻智子、服巻繁訳)が一番詳しいと思います。ただ、この邦訳、読みにくい!服巻先生方には悪いですが、訳がひどすぎます。なので、近々、原著の「The TEACCH Approch to Autism spectrum disorders」に挑戦しようと思っています。そらまめパパは英語に堪能でいらっしゃるので、すでにご存知でしょうか?ご存知なければ、ぜひ、ご一読を。
「TEACCHとは何か-自閉症スペクトラム障害の人へのトータルアプローチ」は私も持ってます。でも、確かに読みにくくて、途中まで読んで積んでありますね・・・。
当ブログのレビューも、やはり「紹介して、記事に触れた方に『読んでいただく』」ことを目的にしていますので、読みにくい本は、なかなか紹介しづらいです。
私は、日本語訳のある本は、原著は読まないです。さすがに、どんなに悪訳でも、英語で読むよりは日本語で読んだほうが速く読めますので・・・。
でも、もしJKLpapaさんが原著を読まれて、読みやすくていい英文だったとしたら、TEACCH系の本の原著は読んだことがないので、ちょっとチャレンジしてもいいかな、とは思います。(^^)
拙著をお読みいただき、ありがとうございます。
勉強をすることは、自閉症の療育にとってはとても大切なことです。
特に、ABAについては、拙著にも概要をまとめてありますし、当ブログでも取り上げていますが、やはり信頼の置ける本を読むことは絶対に必要だと思います。
http://soramame-shiki.seesaa.net/article/21537451.html
このページなどをご参考に、入門書からはじめることをおすすめします。
叩くこととことばの問題との関係ですが、なおさんのおっしゃるとおり、先に叩くことをコントロールしたほうがいいと思います。
ことばが出る時期は、ほとんどコントロールできません。いつになるか分からないことを待つよりは、今すぐできることからとりかかるのがいいと思います。
ことばがなくても指示を通す方法こそが、ABAということになります。
(ちなみに、問題行動をABAでコントロールする基本は、消去ではなく「代替行動分化強化」です。「パニックを考える」シリーズ記事等を参照してください。)
これからもよろしくお願いします。
お忙しい中 お返事くださいまして ありがとうございます。 「パニックを考える」シリーズ記事を じっくり読ませていただいて 対応を考えたいと 思います。 あと、リンクにある、おかあさんのための感覚統合療法の中の かやの先生のHPの中に “行為障害” で お友達を叩くのは 力のコントロールが 出来ないため 叩いているように みえる、 と ありました。 お友達には 興味があるようなので “そぉーっと触る” 事も 教えていこうと 思います。 そぉーっと触るくらいなら 小さいうちは 許してもらえるのでは・・・ と 思います。 片付けや おもちゃで 遊ぶときも そーっと触るように 教えていこうと思います。
そらパパ様の ブログに 出会い 救われました。 情報は たくさんありますが 何から どうすればいいのか 悩んでいる頃に 出会ったので 感謝の気持ちで いっぱいです。 本当に ありがとうございました。
こちらこそ よろしくお願い致します。
かやの先生のHPは、感覚統合の実践部分はおすすめですが、それ以外の、特に理論面については、感覚統合そのものが持っている理論的な弱さをやはり同じように抱えているように思います。
http://soramame-shiki.seesaa.net/article/25582009.html
書かれているようなケースでの「たたく」というのは、友達の関心を自分に向けるためにやっていることが多いのではないかと思います。(このように理解することが、つまり「ABC分析」です。)
だとすると、「代替行動分化強化」が有効ということになり、「たたく」以外の行動で、友達の注目を自分に向けられる方法を工夫して、それをABA的に強化していき、逆に友達を「たたいた」場合は、無視して注目しないようにする、といった働きかけが効果があるように思われます。
↑ABA的に考えるというのは、具体的に言うとこんな感じです。参考にしてください。
ポイントは、「新しい問題が起こるたびに、新しい概念を導入したりしない」ということです。ABAなら、どんな問題行動でも徹底して、ABC分析→代替行動分化強化という同じやり方で対応できる(はず)です。