私たちが「問題行動」とか「こだわり行動」としてネガティブにとらえがちな自閉症児の行動の多くは、実は部分最適行動としての「適応状態」であることが多いと考えられます。
これは、このシリーズ記事の最初のほうで書いていた、障害によって現れる行動を「適応」としてとらえる、という考え方の中心になる視点です。
さて、このような「部分最適」の状態にはまって固定化されてしまった自閉症児の行動パターンを変化させ、「全体最適」に移行させるためには、外部からの働きかけが必要になります。
つまり、固定化された「部分最適」の行動パターンを崩し、「全体最適」の行動パターンにたどり着けるように、外部の力(つまり私たちの働きかけ)によって、誘導することが求められるわけです。
この部分の説明で、この「適応という視点」が、単なる受容理論ではないということが理解いただけると思います。
さて、ABAなどで行動変容を起こす場合にもっともしばしば使われる「代替行動分化強化」では、いま固定化されてしまっている「問題行動(実は自閉症児にとっての部分最適行動)」に対してごほうびを与えずに消去しつつ、望ましい行動(全体最適行動)をプロンプト(手助け)して強化していくという手順をとります。
これはまさに、部分最適行動で適応している状態を崩して(丘を一旦下って)、全体最適行動に向かって適応状態を移行させる(山頂に登れるように助ける)ということをやっていることになり、このイメージ図とうまく対応しています。
イメージ上の話になるので少し観念的になってしまいますが、このような「手助け」がどのくらい必要なのかというと、「全体最適」に向かう新しい行動パターンの「適応度」が、かつての固定化された「部分最適」の行動パターンの適応度を上回るところまで、と言えるでしょう。
(そうしないと、元々の「部分最適行動」に戻ってしまう可能性が高い、ということになるでしょう。)
例えば、クレーン行動という「部分最適」行動を、絵カード交換という「全体最適」行動に切り替えようとする場合、我々がまず大急ぎで目指すべき地点とは、クレーン行動でかなえられていた以上の要求が、絵カード交換によってちゃんとかなうようになることです。
そうすれば理論的には、もうその自閉症児の行動パターンは、「クレーン行動」という部分最適には戻らずに、絵カード交換というより適応度の高い行動に自然に(適応過程として)移行することになるはずです。
ところで、ここで鋭い方からは、なぜ「全体最適」となる行動として、常識的な「ことばのやりとり」ではなく「絵カード交換」が設定されているのか? という疑問が出てくるかもしれません。
次回は、この疑問について答えるところから始めたいと思います。
(次回に続きます。)
ちょっと先走った質問ですが・・・。
佐々木正美先生の御本「自閉症のすべてがわかる本」に、構造化の説明があって、健常者の環境との溝を埋めて、その環境へのアクセシビリティを良くする、というようなイメージの図があったと思います。その場合、構造化はどちらかといえば適応度カーブを変えるアプローチのように感じます。それに対し、今回のそらパパさんの記事によると、ABAなどの行動療法では、適応度カーブを変えずに、局所最適解に陥った状態から脱出させるために誘導するアプローチがとられる、と言う風に感じたのですが、これで合ってますか?
はい、この先の議論はまさにJKLpapaさんの書いている前半の話題の方向に向かっていく予定です。(毎回鋭すぎです(笑))
ABAについては、そんな風に考えたことはありませんでしたが、確かにそうかもしれませんね。
まあ、徹底的行動主義的にいうと、上記の「適応度カーブ」の時点で既に「皮膚の内側」なので、こういった概念そのものを排除してしまうという方向性なのかなあ、とも思います。