8.まとめ
長い期間にわたって、自閉症児のパニックについてさまざまな角度から考えてきました。
パニックを「正しく」理解するうえで第一に重要なことは、パニックを単なる問題行動としてではなく、ある種の「適応行動」、つまり、自閉症児が彼らなりに獲得した、欲求や混乱を解決するための行動だととらえることだと思います。
自閉症児は、そういった状態を伝えようとしても、ことばやジェスチャーといった健常児が容易に使える方法が(何らかの認知上の困難により)うまく使えないと考えられます。そのために、端的に「泣き叫ぶ」という方法、つまりパニックという「問題行動」が「発達」してしまう、と考えられるのです。
だとすれば、以下のようなパニックへの働きかけは、すべて「望ましくない」ということが理解されるでしょう。
1)抑えてしまう
自閉症児にとって唯一の「表現手段」であるパニックを単に抑えてしまうということは、自閉症児の行動レパートリーを著しく制限することとなり、行動そのものをおこさなくなる「学習性無力感」にもつながりかねません。
2)罰する
そもそも、問題行動を罰によって抑えようとすることがあまり効果的でないことは、ABAのさまざまな知見によって明らかになっています。さらに、パニックと言う「攻撃的・発散的」な問題行動を沈静化・収束化させるためには、少なくとも「叱る」という、明らかに「攻撃的・発散的」な反応は適切であるとは言いがたいでしょう。(比較的適切な「罰」については後述します)
3)認めてしまう
パニックは社会的に受け入れがたい「問題行動」であるからこそ問題にしているわけですから、それを認めて強化してしまえば、社会適応力がどんどん落ちていってしまいます。
4)無視する
パニックは無視するだけで消去することは非常に難しいと言われています。なぜなら、パニックには一般的に、子どもにとって解決されるべき欲求や感情がセットになっているため、それらが「解決」されない限り、子どもはパニックを続けざるをえず、その結果、親もつい途中で「折れて」関わってしまうことで、かえって部分強化によってパニックを強固に定着させてしまうことがしばしばです。
だとすれば、どうすればいいのでしょうか?
基本は、「代替行動分化強化」、つまり、パニックに「代わる」適切な(社会に受け入れられる)行動を強化し、パニックしなくても自閉症児の「問題」が解決されるような方法を提供することです。
例えば、絵カードによるコミュニケーション療育「PECS」は、まさにこのような目的に最適な療育法の1つである、といえるでしょう。
さらに、周辺の環境に対応できない混乱によってパニックを起こしているようなケースにも対応できるよう、子どもに「逃げ場所」を用意し、必要に応じて子どもがそこを利用できるように働きかけることも効果的でしょう。ここで「逃げ場所」は必ずしも物理的な場所とは限らず、『指しゃぶり』のような「安心行動」をあえて認める、といったやり方も含まれます。
もちろん、自閉症児のそもそものストレス発生を軽減する工夫も望まれます。
最後に、それでもその場その場のパニックのコントロールが難しい場合、タイムアウト、過剰修正法、レスポンスコストといった、ABAで研究された比較的穏便で使いやすい「罰」を、必要最小限で活用していくことも必要かもしれません。
パニックは、正しい理解と先手先手の対応さえあれば、決して恐れるべきものではありません。
(ただし、あくまでもここでは働きかけによって対応可能なパニックについて取り上げています。素人では対処が難しいような、極端な行動障害については、医師の診断を仰ぎ、薬物療法等も含めた専門的な対応を行なってください。)
支援者達の比較的共通の意見なんですが、『パニック(ヘルパーに対する他害を含む)』『多動』に関しては好きな人が多いです。
それは、パニックも多動も『自己主張』だからです。
一見、ケアのしやすい従順なタイプは本人の意思がつかみ取りにくいんです。
パニックを起こしてくれるぐらいの方が教えやすいんですよね。
昔、多分、そらまめちゃんの公的な療育と同じところのセンターの職員ですが、
私が子供のパニックと多動で滅入っているときに「そのくらいの方が伸びるのよ」と言われましたが、今ではその意味がよく理解できます。
ついでに『他害』と『自傷』なら『他害』を選ぶ人が多いです。
『他害』はコミュニケーションなので、全くの第3者に向くと困るのですが、
ヘルパー等支援者に向くのは比較的歓迎されます。
『自傷』は止めるしかないので。
ただ、親的には究極の選択で『自傷』を選ぶでしょうが。(本当はどっちもイヤです。苦笑)
ウチの子は、派手だったパニックはすっかり落ち着き、
自傷行為もいつの間にかなくなり、今は楽させてもらっています。
私もきっと、自閉症児の親なんていう立場になっていなければ、子どもがパニックしているときにそれをポジティブにとらえるような感じ方はできなかったんじゃないかと思います。
自傷と他害っていうのは究極の選択ですね。でも、確かに、他害は行為が外に向いているので、それに対して働きかけをしやすいはずだ、ということは分かります。自傷は内向きなので、療育者が関われる接点が少なくなりますね。
うちも、やがてさらに認知発達が上がって、パニックが収まるのを期待して2008年を頑張りたいと思います。
今年もよろしくお願いします。
そらパパさんのブログをみて毎日勉強中です。
我が家には娘が2人いるのですが下の子が自閉症です。(現在4歳で知的発達のしょうがいは軽度だと言われていますが実年齢より2歳ほど下くらいのようです。)
ブックレビューをかなり参考にさせていただいていて頑張って色んな本を読んでいますが…難しいなぁと思っています(しかし悲観的ではありません)
さて、近頃発達が進んできたからなのだと思いますがパニックが顕著になってきています。
保育園では多分あまり無いとは思いますが(時々お友達を引っかいたりなどはありました)家では私を叩きひっくり返り蹴られetc…そして私が別の部屋に連れて行きクールダウンさせて指示を入れる…の繰り返しになっています。
するとやはりですが祖母などが娘に対して『わがまま!』と言ったりするのです。
私も勉強不足だったりしたらそんな風に思ったりしたんだと思います。
でも娘の特徴でもあるコミニュケーションしょうがいからの行動だと理解してほしいと思います。
娘の保育園の先生方もイマイチ受け入れに疑問があり…もしかしたら本人は辛いかな?と心配しています。
課題があるからこそ乗り越えたい!と思いますが…難しいなぁ…
また勉強させてください。
よろしくお願いします。
コメントありがとうございます。
パニックが増えてくると、支える親としてもストレスが増えてきますよね。
パニックに過度に構うことなく、クールダウンするのは基本的には正しい対応だと思います。
そのうえで、「なぜそのパニックが起こるのか?」に着目していくことが大切だろうと思います。
そのパニックが起こる原因を突き止めて(これは仮説と検証の繰り返しです)、その原因が何かの欲求なら、その欲求を表現する方法(例えば絵カード等)を提供する、何かの刺激への反応なら、その刺激が与えられないようにする、等々、パニックが起こりにくくする対応を工夫すると、効果があがることも多いと思います。
ブックレビューで、最近ご紹介しているABA系の本なども参考になるかと思います。
これからもよろしくお願いします。