4)-c. レスポンスコスト
レスポンスコストというのは、トークンエコノミーという行動コントロールの枠組みの中で実施される「罰」のことです。ですので、レスポンスコストという罰を実施するためには、トークンエコノミーのシステムが適切に導入されている必要があります。
トークンエコノミーというのは、簡単にいえば「ポイント交換システム」だといえます。
例えば、子どもが何か「いいこと」をしたときに、専用の台紙に「よくできましたシール」を貼るようにして、そのシールが何枚か集まるとごほうびがもらえる、そして子どもがそのシールをもらうために頑張っている、といった状態は、ある種のトークンエコノミーシステムが機能していると言えるでしょう。
ここで、「よくできましたシール」のように、後で「ごほうび」と交換できる「しるし」のことを「トークン(代用貨幣)」と呼びます。
このシステムは、少し考えればわかるとおり、私たちの日常の貨幣経済にもダイレクトに通じるものです。(私たちも、働いて給料をもらってお金を貯め、欲しいものを買います。)
なお、ABAでいうトークンエコノミーは、一般的な「よくできましたシール」のようなものよりはもう少し厳密なもので、事前に「トークンに何を使うか(シールか、ハナマルか、チップか、棒グラフか、etc. 子どもがそれを見て理解でき、喜ぶものがいいわけです)」、「トークンいくつと何を交換可能とするか」「交換できるタイミングはいつか(任意のタイミングか、1日/1週間に1回といった『交換タイム』を設けるか、etc.)」といったことを事前に決めてから実施します。また、トークンとごほうび(強化子)の交換表は、訓練の進捗にあわせて変更していき、トークンによって行動をシェイピングしていくことを目指すことが多いと言われています。
そして、トークンエコノミーが子どもに定着し、トークンを得ることが子どもにとって十分な強化子(二次的強化子)になってしまえば、今度は望ましくない行動をしたときに、すでに得られたトークンを一定の量だけ没収するという「罰」を設定することも可能となります。
このように、トークンを没収するという罰のことを「レスポンスコスト」と呼びます。
例えば、授業中にパニックで騒いだ場合にはトークンを1個、さらに他傷してしまった場合は5個没収する、といったルールを「事前に」設定しておき、子どもにも伝えておいたうえで実施することが考えられます。
レスポンスコストは、我々の社会で言えば罰金に相当します。レスポンスコストも過剰修正法と同様、罰のなかでは比較的穏健に導入可能なものですが、パニック対策として適用する場合は、子どもがパニックの最中であっても「トークンが没収される」という認知的にやや高度な事象を理解できることが求められますので、誰に対してでも実施できる罰ではないかもしれません。
1つ大切なことは、上記で太字にしていますが、レスポンスコストのルール(どんなことをしたときに何個トークンを没収するか)は「事前に」設定しておかなければならない、ということです。
つまり、子どもが何か悪いことをしたときに、急に思い立っていきなりトークンを没収してはいけないし、何個没収するかが、そのときの療育者の気分によって変化してはいけないということです。
これは、私たちにとっての「罰金」のシステムを考えれば理解できると思います。いつ罰金を取られるか分からず、またその罰金の額がいくらか、取られるまで分からないようでは、安心してお金を稼ぐこともできませんし、そもそも、罰のシステムが「よく分からなく」なってしまうので、罰の効果が薄れてしまうというわけです。
(次回に続きます。)
レスポンスコストはABAの世界の中でもかなり上級編というか、後のほうになってようやく登場してくる方法論ですよね。
実際、娘の発達水準を考えると、我が家でこのあたりまで到達できるのは、できたとしてもまだ何年も先になるだろうと思っています。
今年1年間お世話になりました。
来年もまたよろしくお願いします。