最後に、「禁断の一手」、すなわち罰によってパニックを抑制しようという働きかけです。
これまでも繰り返し書いているとおり、罰にはさまざまな副作用がありますので、できれば罰は使わずに、これまで紹介した方法を優先的に使うのがいいでしょう。
それでも、どうしてもパニックを十分にコントロールできないとき、体罰やことばによる、感情的で効果の薄い罰を与えてしまうのではなく、比較的マイルドで効果が高いといわれている罰を必要最小限に活用することは、意味のあることだと言っていいと思います。
(繰り返しになりますが、この記事の趣旨は「罰を奨励する」というものではありません。その点、ご了承下さい。)
ここで紹介する「マイルドな罰」は、大きく分けると次の3つです。
a. タイムアウト
b. 過剰修正法
c. レスポンスコスト
4)-a.タイムアウト
タイムアウトというのは、いわば「積極的な消去」とでもいうべきもので、強化的な刺激が一切受けられない場所・状況に子どもを一定時間おくという方法です。
具体的には、何も遊んだりするもののない「タイムアウトルーム」と呼ばれる部屋に一定時間入れたり、部屋の隅に壁に面した状態で何もせずに立たせておく、といった対処法を指します。
昔懐かしい(というか、私の子どもの頃でさえ、実際にあったという話は聞かず、『テレビアニメやまんがの世界』だったように思いますが)「廊下に立ってなさい」という「罰」は、授業を受ける、教師の注目やほめ言葉を受ける、同級生と同じ場所にいる、といった強化刺激から隔離するという意味で、一種のタイムアウトであると言えるでしょう。
ただ、自閉症児のパニックへの対処法としては、「パニックしたら強化刺激から隔離する」という、ただそれだけを目的にするのであれば、先に紹介した代替行動の提示を同時に行なうことをむしろ選択すべきですし、静かな部屋に(自由に)放置したとすれば、自傷や部屋の備品の破壊といったリスクもあるでしょう。
したがって、パニックへの対処法としてのタイムアウトとは、
①積極的な消去を行なうというよりは、その行為が間違っているということを明示することを主たる目的にする。
②「放置」ではなく、「拘束」の方向性に持っていかざるを得ない。
という2つの方向性をもたせるべきであろうと思います。
まず①についてですが、パニック時に限らず、例えば他の子どもに手が出た、部屋の備品を壊したといったような「例外なく、常に絶対にやってはいけない行為」を子どもが行なった瞬間に、即座に「タイムアウト」を行なうようにします。これによって子どもに、「どんな行為はやってはいけないのか」を明確に伝えることを目指します。この場合、パニックそのものへの対処としては、代替行動の提示といった、より生産的な手法を使うことになります。
つまり、ここでのタイムアウトは、言ってみれば「体罰やことばによる叱責の代替反応」になっているのです。
自閉症児は、ことばで叱ってもその内容を理解できない場合も多いですし、体罰による「痛み」が必ずしも罰としての効果がない場合もあります。もちろん、そもそも体罰が望ましくないというのは言うまでもありませんが、それに加えて、「効果も薄い」のでは、まったく意味がないということになります。
それらの「効果が不安定なNOのサイン」の代わりに、子どもを「いやな場所」に一定時間移動させることで、「今やった行動はNOだ」ということを子どもに伝えるのです。
そして、それに代わる「適切な代替行動」がある場合は、その代替行動でその後すぐに誘導します。
こういったとらえかたをするならば、自閉症児に対するタイムアウトの有効な活用法の1つとは、「罰(NOのサイン)の構造化」であると言えるのではないでしょうか。
次回の記事では、上記の②について考えたいと思います。
(次回に続きます。)