パニックというのは、欲求がかなえられないとか不安や混乱を感じているとか、子どもが何らかのストレスを受けることをきっかけにして起こっていると考えられますから、そのようなストレスが起こらない、あるいは起こりにくくなるような働きかけをすることができれば、パニックを未然に防いだり減らしたりすることができると考えられます。
このうち、「欲求がかなえられない」という状況を改善するためには、既に説明した「手持ちのカードを増やす」、つまり代替行動分化強化が効果的だと考えられます。
それでは、もう一方のストレス要因である不安や混乱についてはどうでしょうか?
これも、いろいろな表現方法を知り、コミュニケーション能力を高めることや、スケジュールなどに対する見通しを持つことで予防的に軽減できる部分もあるでしょう。少なくとも、「わけが分からない」ことを理由とするパニックは、こういった認知スキルの向上である程度解決できる(そもそも起こらないようにすることができる)可能性があります。
でも、それでも残る問題は、ある特定の環境(場所や状況など)において、反射的にパニックを起こしてしまうといったケースです。
このような自閉症児のパニックの中には、少なくとも外から見る限り、感じなくていいような不必要な緊張や不安、恐怖といったものを原因としているものがあるように思われます。
例えば、ある道で犬にほえられたことで恐怖を感じた子どもが、以後はその道をまったく通れず、通ろうとするとパニックを起こしてしまうようになるといったケースです。その道にはもう犬はいないのに、たった1回の恐怖の記憶が固着して、パニックが持続しているという状態です。
自閉症児の場合、このような「恐怖による学習」が一般の場合よりもはるかに起こりやすく、かつ強固である傾向が強いように思われます。
このような、怖がる必要がないことを怖がってパニックする、といったパターンのパニックを軽減するやり方として、行動療法の1つである「暴露法」が候補として考えられます。
暴露法とは、従来より系統的脱感作法とも呼ばれていたやり方と似た、特定の刺激への恐怖を克服するための方法で、恐怖の対象に少しずつ接近していき、そのたびに「怖いことは何も起こらない」という状況を繰り返し経験することで、最終的には恐怖の対象だったものに接しても恐怖を感じない、という状態にまでもっていくことを目指す療法です。
たとえば、上記の道に対するパニックでいえば、その道の写真を見せる、その道の近くまで行く、その道を見る(実際に通ることはない)、その道を少しだけ歩く、その道を最後まで歩くといったように少しずつ「接近」していき、その道が怖くないということを経験させていきます。
このとき、訓練中にパニックが起こらないように接近のレベルをコントロールすることが重要です。
パニックを起こして、それによってその場から逃れるという経験をさせてしまうと、「パニックを起こしたから逃げられた、怖くなかった」という学習をして、パニックが強化される恐れもあります。(万一、パニックが起こってしまったら、その場から逃避させずに、パニックが収まるまで待つくらいしか打つ手はありません。これは絶対避けたい展開です。)
ちなみに、上記の例でいけば、犬に対する恐怖それ自体も、うまく暴露法で消去できる可能性があります。
※注意!
暴露法は、刺激として恐怖を起こしうるものを使うということもあり、実施に若干のリスクを伴う技法だといわれています。
実施にあたっては、可能であれば専門家に相談すべきですし、そうでない場合も、最低限、複数の行動療法に関する書籍を勉強してから行なうべきだと思います。
また、もう1点大切なこととして、恐怖の対象となっている刺激が、子どもにとって今でも「本当に怖いもの・嫌なもの」である場合は、怖がって騒ぐ、逃げるというのは「適切な反応」です。このようなケースでは「暴露法」は機能しないでしょうし、それを「克服」させる必要がどうしてもあるなら、別の方略を考える必要があるでしょう。
(次回に続きます。)
担当の子供は中度~重度の知的障害を伴う自閉症です。周囲、本人への危険回避だけの保育では無く、成長段階にある子供にとって貴重な5時間を、より有意義な形にする手立ては無いか日々悩み、模索しています。パニックについても出来るなら回避させてあげたいと思いつつも健常児との集団活動、まして年長になってからは集団制作が多くなり、子供同士の相談の結果、当初の予定通りの制作になるとは限りません。
その様な時、大きなパニックとなり制作物を破壊しようとしたり、泣き叫びます。
部屋の片隅に連れて行き、話しかけずただ
壁に向かわせて落ち着かせるのですが、再度その制作物を見るとパニックとして現れます。しかし、皆で相談して作ったもの、
その子のパニックだけで予定変更は出来ません。そのようなことを繰り返す事で、近頃は本人なりに我慢をし、仕方の無いことと捉えてきてはいるのですが。。
園での生活、保護者の方から見て介助員に
何を望んでおられますか?
ご相談のシチュエーションは、まさに上の記事の最後に書いた、「本当に嫌なもの」に該当するケースなのではないでしょうか。
その子どもにとって、自分の見通しと異なる現実がそこにあるのは、耐えがたいことなのかもしれません。
私がもしその子の親であったとするなら、介助員さんには、「そういった活動はまだ負担が重いと思うので、別行動ができるよう進言してもらえないだろうか」と相談すると思います。
私は統合教育・統合保育全面支持という立場はとっていません。子どもにとって統合された状態が過重な負荷を強いるものであるなら、そこからはむしろ離すべきであると考えています。
もちろん、親御さんごとに考え方は違うので、一概には言えませんが、子どもにとって苦痛でしかない環境がそこにあるとすれば、そこにあえて直面させるというのは、私は、子どもがかわいそうだと思うのです。