さて、前回の記事でご紹介した「代替行動分化強化」は、パニックの原因であると考えられる「①欲求もしくは②混乱、あるいは③混乱を解消するためのサポートの要求」のうち、①と③に有効な「代替行動分化強化」でしたが、残っている②、つまり、何らかの理由でただ混乱している、かつ何かを与えてもその混乱は解消しない、といった場合にはどうすればいいでしょうか?
また、一度起こってしまったパニックによる興奮状態を、子ども自らが収束させていくためにはどうすればいいか、という問題も、ここに含めることにします。
このようなケースに対して「手持ちのカードを増やす」というアプローチを考えるならば、それは「逃げ場所を作る」という働きかけを意味すると思います。
つまり、子どもが混乱状態に陥ってしまった場合、それを「パニックする」という方法で表現するのではなく、子どもが安心して気持ちを落ち着かせることができるような場所、環境、方法を用意してあげて、子どもがそれを主体的に利用できるように働きかけるのです。
このようなやり方でまず思いつくのが、特別な「安心スペース」、「パーソナルスペース」を用意することです。
押し入れの中やパーティションの後ろ、カーテンの裏側、特定の部屋の片隅など、多くの自閉症児が、嫌なことがあったときや混乱状態に陥ったときに「逃げ込む場所」を持っています。
そういった場所にじっと潜んでいる様子が一種異様に感じられることから、大人はついこういった行動を「問題行動」と捉えがちですが、実はそれは、その子どもにとってパニックを避けるための「もう1枚の手持ちカード」、言い換えれば「大切なストレス解消法」である可能性が高いのです。
それらの場所にいることが「こだわり」になってしまって、かえって社会適応が悪化するケースでは一定のコントロールが必要になると思いますが、そのような場合でも、何とかより社会的に許容される(混乱を抑えることができろような)「代替行動」を見つけ、そちらに誘導しながら(手持ちカードの数を減らさないように)行動を変えていく必要があると思います。
また、このような「逃げ場所」は、物理的な場所である必然性は必ずしもありません。
例えば、別のタイプの典型的な「逃げ場所」の1つの例は、指しゃぶりです。
私の娘は、ほんの少し前まで、指しゃぶりの癖が頑固に残っていました。
が、私たち家族は、かなり長い間、これをやめさせようとはあえてしませんでした。
なぜなら、娘はパニックを起こして興奮しているとき、自分から指をしゃぶってその興奮を抑えようとしているように見えるときが何度もあり、指しゃぶりは娘にとっての「安心できる逃げ場所」になっているのは間違いない、と考えたからです。
娘の指しゃぶりをやめさせようと決めたのは、娘の幼稚園入園が見えてきて、指しゃぶりによる感染症への感染リスクが相当に高まることが予想され(指しゃぶりのメリットよりもデメリットのほうが大きくなってきたこと)、さらには絵カード図鑑や絵本などの「お気に入りグッズ」を持っていることが「安心できる逃げ場所」として新たに生じてきて、指しゃぶりをやめさせても「別の逃げ場所」(つまり別の「手持ちのカード」)が確保できる見通しがついてからのことでした。
それでも、指しゃぶりをやめさせてからは、パニックの頻度や自傷の頻度はやや高まってしまったように思います。でもこれは予想の範囲内であり、乗り越えなければならない段階だと思っています。
ともあれ、子どもが自らを安心させる方法・場所などを見つけている場合は、社会的に許容できる範囲でその「逃げ場所」を守って自由に使えるようにすること、もしもそういったものがない場合は、必要に応じて「逃げ場所」を作ってあげること。これらの働きかけは、混乱を原因とするパニックに対して、あるいは起こってしまったパニックによる興奮状態を子ども自らが収束させるために、効果的に働くでしょう。
(次回に続きます。)
我が家で「パニック」という場合は、そらパパさんの記事でいうと、②および③の混乱もしくは混乱のための欲求をさしています。我が家では長男が幼いころパニックを起こしているときは、「場面を切り替える」という手段を良く用いていました(ベランダに出て車やバスを見る、など)。幸い、次男はパニックらしいパニックは起こさず(②や③という意味で)、三男は、自分で「気分を切替に」、家内の鏡台と壁の間の、ちょうど彼一人分が入ることができる隙間に、しばらくこもります(我が家では「スネちゃん場」と呼んでいます)。長男の場合も、三男の場合も、そらパパさんのいう、逃げ場所と同じですね。小6になった長男は、今は自分でカームダウンする術を覚えてしまったようです。三歳の三男は生まれつきその術を知っているのか、自分でそのスネちゃん場を探し出しました。自閉っ子も、それぞれです。が、カームダウンする術を保護者が知っておくことは、物理的、精神的安全の面で、非常に重要だと思います。
我が家では、指しゃぶり以外でいうと、「鏡の療育」で設置している鏡の前が、どうやら娘の安心スペースの1つになっているようです。泣いたり騒いだりしている自分の表情を見るのが多少の精神安定につながるようですね。
(パンツに替える前は、おむつ替え用の長座布団にうつぶせで寝るのも「安心スペース」だったようです)
いずれにせよ、親はこういった行動を「問題行動」としてただ否定してしまうのではなく、そこに隠された意味を理解して、受け入れたり社会に許容されるようにうまく切り替えていったり(場合によっては意識的にその行動に誘導する場合さえあるでしょう)といった対応をすることが求められるのだと思っています。