7.じゃあどうすればいい?
パニックは抑えてもだめ、罰してもだめ、受け入れてもだめ、無視してもだめとなると、「じゃあ一体どうすればいいの?」という声が聞こえてきそうです。
ここまで「だめ」が重なると、取れる手段はほとんど残っていないようにも思われますが、実は意外とそうでもありません。
この後、パニックに対する有効な働きかけだと期待できるやり方を、いくつか紹介します。
1) 代替行動分化強化
パニックによる欲求を解決するためには、パニック以外の「手持ちのカードを増やす」というのが、もっとも抜本的で望ましいと考えられる対処法です。行動療法的には「代替行動分化強化」というやり方になります。
既に書いているとおり、自閉症児がパニックを起こすのは、強い欲求や混乱が生じたときにそれを表現する方法がパニック以外にないからだと考えられます。
だとすれば、その欲求や混乱(を解消するためのサポートの要求)を表現するための、パニック以外の方法を教えてあげればいい、ということになるでしょう。
何かを「表現する」ということは、「コミュニケーションをとる」ということとほとんどイコールだと言えます。
(こう考えてみると、自閉症児がコミュニケーションに困難を抱えているということと、自閉症児がパニックを起こしやすいということは密接な関係があるということも分かってきます。)
ですから、欲求を「表現する」ためには、ことばやそれに代わるコミュニケーションのための手段を教えるのが最も適切です。
とはいっても、ことば、特に音声言語は自閉症児にとって苦手であるケースが多いでしょうから、自閉症児の特性にあったコミュニケーションの方法を模索する必要が出てきます。
そう考えていくと、絵カードによる要求表現を中心としたコミュニケーション療育法である「PECS」(および、その他の絵カード等を使ったコミュニケーション指導法)が、欲求のためのパニックを解消するための最も適切な解決法となる可能性が高いといえそうです。
そして、絵カードやことばによる要求行動(○○が欲しい、困っているので助けて欲しい、休みたい、etc.)の学習・定着をすすめるのと合わせて、パニックによって同じ対象を要求する行動は無視して、消去するように働きかけます。
このように、パニックを消去するのと同時に、望ましい行動に誘導してそれを強化するという「消去と代替行動の強化」をセットで行なうのです。これによって初めて、「パニックを無視する」というやり方が有効に働きます。
ちなみに、このトレーニングの過程で、欲求をパニックで表現してしまった場合も、状況によってはプロンプト(手助け)によって望ましい行動(絵カードを使う等)に能動的に誘導し、そのうえで欲求をかなえてやる、という働きかけもできます。
大人が外部からプロンプトするという観点からも、やはりことばによる要求よりも、絵カードによる要求のほうがコントロールしやすいということが分かると思います。
絵カードを出すという「行動」は手をとって誘導するだけでプロンプトできますが、音声言語による要求は、少なくともこちらが言うことばを真似する「音声模倣」のスキルが事前に形成されていなければプロンプトすることができないため、それだけ大人の側からの働きかけの難易度が高くなるのです。
次回は、パニックの原因になっていると思われる「欲求」と「混乱」のうち、今回取り上げられなかった「混乱」が引き金になっている場合に最初に検討すべき対処法について書きたいと思います。
(次回に続きます。)
私は卒論に障害児をもつ親の悩みについてしらべています。
突然ですみません。
障害を持つ子の親として何が不安ゃ悩みを教えていただきたいと思い書き込みさせていただきました。
ご質問の内容は非常に範囲が広く、また個別性も強いので、私一人に聞いても卒論の材料にはならないでしょう。
もし私が同様のテーマで卒論を書くとして、素材をインターネットの親のページに求めるとしたら、
1.障害児の親が書いているブログをたくさんリストアップする。
2.そのブログの毎日のエントリで、何が話題になっているのかをカテゴリーごとにカウントする。
3.カウントされた数の多い話題は何かを、全体傾向、ブログごとの傾向、親や子の特性ごとの傾向などに分類して分析する。
4.分析によって分かった傾向や仮説に基づいて、ブログを書いている親御さんに(もっと具体的な形で)アンケートなどを取るなどしてさらに理解を深める。
といった手順をとると思います。
「親の悩み」というのは定性的なテーマですので、実は「研究」の対象としてはかなり難しい種類に属します。
定性的なものの分析の基本的なアプローチの1つは、それをある程度無理やりにでも「定量的」なもの(つまり集計して計算できるもの)に変換することです。上で触れた1.~3.のアプローチは、まさにそれにあたります。
そのような定量的な分析が成功して初めて、次の4.のような定性的な分析に意味が出てくると思います。
多少難しい話になってしまいましたが、ご参考になれば幸いです。