私たちの目から見ると、自閉症児の起こすパニックというのはとても奇異で「普通ではない」行動に映ることが多いと思います。だからこそ、パニックというのを特別視して、それを解消するためにはどうしたらいいのか?と思い悩むことが多いのかもしれません。
でも、恐らく問題はそれほど複雑なものではありません。
恐らくこの問題は、背後に複雑なものがある、と考えてしまえばしまうほど袋小路に迷い込んでしまうタイプの問題の典型なのではないかとさえ思っています。
ここでは、パニックがなぜ起こるのか?ということだけに焦点を当てるのではなく、パニックを起こさずに済む方法はあるのか?ということを同時に考えることが重要です。
欲求や混乱した状態を周囲に伝えるために「泣き叫ぶ」というのは、自閉症児を含め、赤ちゃんが自然に獲得する行動であることから、恐らく生得的な表現手法なのだと思われます。
つまり、「泣き叫ぶ」というのは、自閉症児にとってもとりあえず選択可能な行動である=欲求や混乱を表現できる「手持ちのカードである」、ということができます。
ここで健常児の場合は、成長につれて、周囲にいる人を具体的に認識し、その人に対してジェスチャーやことばでコミュニケーションするという表現手法を獲得していきます。つまり、表現方法について、選べる「手持ちのカード」の種類がどんどん増えていきます。
しかも、ただ泣くことに比べると、ことばでのコミュニケーションははるかに複雑な内容を的確に伝達できるため、「泣く」ことよりも「ことばで伝える」ことのほうが伸びていき、欲求を表現する手段としての「泣く」という行動は徐々に消えていくと考えられます。
これに対し自閉症児の場合は、何らかの理由(恐らく生得的な脳の器質的損傷と、そこからくる脳ネットワークの発達パターンの異常)によって、周囲にいる人を知覚し、その人たちに対して働きかけようとする行動の学習、すなわち「コミュニケーションをとる能力」の発達が著しく阻害されます。
その結果、年齢を重ねても欲求や混乱を表現するための「手持ちのカード」が、「泣き叫ぶ」だけしかない状態がずっと続くために、その「泣き叫ぶ」という手段を使いつづけるしか、欲求や混乱を表現することができないままになります。
これが、自閉症児がパニックを起こすもっとも端的な理由だと考えられます。
欲求や混乱状態が高じたときに、赤ちゃんのころから生得的に身についている「泣き叫ぶ」あるいはそれの発展形と考えられる「暴れる、自分自身や周囲の人や物を傷つける」といった行動しかそれを表現する行動レパートリーが存在しなければ、必然的にそういった行動ばかりが表に出てくるでしょう。そしてそれが私たちの目には、社会的に許容されない「パニック」として映るのだ、ということです。
言い換えると、自閉症児にとっては、パニックだけが強い欲求や混乱状態の唯一の表現方法になっている可能性が高いと考えられるのです。
ここで、最初に提示した「パニックを起こさずにすむ方法があるのか?」という問題意識とつながります。
多くの自閉症児にとって、パニックを起こさずに、パニックで表現しようとしている状態を表現する別の手段は存在しない、つまり「パニックを起こさずにすむ方法はない」のです。(だから、パニックしているわけです)
だとすれば、私たちが目指すべきは、「子どもがパニックを起こさずにすむように、子どもに対して(事前に)働きかける」ことだ、ということが明確に理解されます。
ここで少し余談になりますが、パニックと子どもの年齢との関係について改めて少し考えてみます。
まず、年齢が上がればあがるほど、「社会的に許容される・されない」の境界線(平たく言えば「世間の目」)は厳しいほうに移動してきますから、幼い頃なら許された行動も「パニック」という問題行動としてとらえられるようになってきます。
また、発達が進むにつれ、自閉症児であっても「表現したいこと」はどんどん複雑かつ多様になっていきます。一方で「表現する・コミュニケーションする能力」は大きく遅れるという発達のアンバランスがありますから、欲求が思い通りにかなえられない場面もどんどん増えていきます。
さらには、子どもが大きくなれば力もついてきますから、同じように「泣いて騒いで大暴れ」をやったとしても、その「破壊力」も大きくなってくるため、その分だけさらに「問題行動」としての深刻さも深まってしまうという問題もでてきます。
つまり、自閉症児とその親、周囲の療育者にとって、自閉症児のパニックにどう対処するのかというのは、極めて重要な発達課題としての側面を持っていると考えられるのです。
(次回に続きます。)
『パニックを考える』シリーズも「なるほどなるほど」とか「やっぱりそうですよね」と独り言を言いながら拝見させてもらっています。
「なぜパニックが起こるのか」という「なぜ」に注目することは大切だと思うのですが、そのことに加えて、「起こさずに済む方法」を考えることの方も大切だと思っていましたので、今回の記事を見せていただいて大変参考になりました。
「落ち着かない子どもは集団から離しても良い」というのはもちろん必要と思いますが、「本人が『落ち着かない』状態にならなくて済む」支援を考えていきたいと、そらパパさんの記事を拝見して私はそう思いました。
現場でのご苦労というのはきっと想像を絶するものだと思います。
そういう意味では、私などが書く内容ではないのかもとか、内容がかなり観念的になっているなあ、などと思いながらも、これはある種の「エッセイ」だ、といった割り切りを持って、思い切って大胆に書かせていただいています。
最近、いまの自閉症療育にいちばん必要なのは、自閉症にまつわるさまざまな事象を、既存の価値観に縛られずに、どんな視点でとらえるべきなのか、という議論なのではないかと感じています。
今回のシリーズ記事もそうですし、直前に書いていた「環境への働きかけ」のシリーズ記事なども、そういった現在の私の関心事について書かせていただいています。
これからもよろしくお願いします!
突然泣き叫び、腹痛かと思い救急病院に行くこと2回。
しかも体力がつき、人並み以上に大きい子供のため、叫び声はマンション中に響き渡り、私たちに対しても急に暴力的になり、叩く、引掻く。
こうなってくるとご近所への騒音はもちろんのこと、親も度重なって夜中に叩き起こされる疲労からあまりついカッとなりがちです。
救急病院での診断中はおとなしく、家に戻るや否や再度大パニック。
度重なるパニック(しかも大半は夜中2時過ぎで2時間は続きます)で気がついたことは、1回目は腹痛だったようですが、それ以後は、広い意味での蓄積したストレスか、何か急に本当に性格が変わって、過動になってしまったような気がします。
パニックに引き金になる直接原因らしきものが見つけにくいんですよね、なんせ大半が夜中ですから。
私の不在によって生活が変わったことともありますが、夏休みが長過ぎて”退屈”していたこと?そして子供がつたない言葉で伝えるには”なぜ自分の思い通りにならないのか?””なぜNOと言うのか?””なぜ、いうことをききなさい”というのか?という不満もあるようです。
そういうことを夜中に目を覚ました際に一気に爆発.....?。
遅く来た第1反抗期?なのかもしれませんが、こちらフランスでメイルをくれた自閉症児のお母さんは、心理的要因以外にプールの塩素、グルテン、カゼインのせいでは?とグルテン、カゼイン(乳製品に含まれる)をとらないダイエットを薦めてくれました。
確かに第1回パニックの2日前知人宅のプールでプールの水をがぶ飲みしたらしく。
メイルをくれた方によると塩素が腸内の善玉菌を殺してデリケートな自閉症児のお腹はおかしくなり、気が荒くなることもあるとか。
それ以外にも普段はほとんど私の手作り料理なのですが、私の療養中の2週間は調理済み食品(冷凍を含む)を食べることが多かったです。まさにグルテンとカゼインたっぷり。
こちらではグルテン、カゼインなしのダイエットは自閉症児を落ち着かせるのに結構効果があるとよく聞きます。
ちょっと眉唾ですが、このダイエット用の料理本もたくさんあるので、試しにやってみようかなと思う今日この頃です。
そしてご存知であれば、教えていただきたいのですが、日本ではパニック多発時にお薬は何が処方されていますか?
これから必要になりそうなので、ご教示いただけるとありがたいです。
グルテン、カゼインが云々という食事療法は、俗にGFCF Dietと呼ばれているようですね。
私は、こういった民間療法については基本的に支持していません。消化の仕組みなんていうのはそんなに複雑なものではないので、もしそれが本当に合理的だとするならば、とっくに医療機関のあいだで一般的に「治療」として取り組まれているはずだからです。
(自閉症に本当に有効な医療的働きかけを発見したらおそらくノーベル賞を取れるでしょうから、そういう線を狙っている医学者はたくさんいるはずです。)
またこの仮説では、異常なペプチドが子どもに「混乱」をもたらすと指摘しているようですが、いわゆる「興奮」の方向性と「反応の低下」の方向性の両方を、単に「混乱」というあいまいな表現で飲み込んでごまかしているようにも見えます。
さらに、この異常なペプチドがモルヒネのような麻薬作用をしているという指摘が正しいとするならば、それによって最も劇的に現れる「異常行動」は、それらの食物への依存と禁断症状であるはずでしょう。
以上のような考察もあり、私はGFCF Dietを含む民間療法は眉唾だと思っていますし、場合によっては有害なケースもあると思っています。
グルテンにしても消化を助けるという効果がありますし、カゼインは栄養価が高くカルシウムの吸収を促進する働きもあるそうです。
そういったものをあえて避けるということが正しいのかどうかは、私にはよくわからないです。
ちなみに、私の娘に関していえば、パニック等の行動障害に対応する薬として、ちょうど1年ほど前からリスパダールを処方されています。
http://yaplog.jp/sora-mame14/archive/267
先程日本に電話して日本ではリスパダールかリスペリゾンが処方されていると知りました。
そらまめちゃんもリスパドールなのですね。
今度子供のお医者さんに処方できるか聞いてみます。
ありがとうございました。
グルテン、カゼインを含まないダイエットはもともとコリアック病というグルテンを消化できない人の改善方法として医療手段の1つとしてとり入れられています。
内臓の消化の仕組み自体は単純かもしれませんが、消化の過程で摂取された食物が他の食物と混ざり合った場合、そこで何が発生してくるかはいまだ完璧にはわかっていないと栄養大学の教授は言っていましたよ。
酵素だって、いまだ解明されていないものが数多くあります。
個人的には科学的にいまだ証明されていなくて、ある程度有効であるものは存在すると思います。
因果関係といいますが、最初は事象しか見えないで、事象の後に原因を探すのが普通で、かつ証明となるとさらに時間がかかりますからね。
でも疑問のある場合は眉唾の態度を崩さないのは賢明だとも思います。無駄なリスクを犯す必要はないですからね。
麻薬作用については私も眉唾ですが、自閉症の子供の中で、恒常的に下痢か便秘で悩んでいるという話はよくききます。これも統計は取ってないので”よく聞く”という程度ですけれどね。
わが子もその1例でバランス的にはちゃんとした食事を取らせていますが、腸の調子はいつも悪いですね。そしてエコーをとっても何も出てこない。
私自身もラクトーズ不耐症らしくラクトーズが90%以上除去されている牛乳に変えてから、体が楽です。
病気になって倒れこむほどではなくても腸の調子が悪いと大人でも不機嫌になりますよね。
そんなこともあって、目の色変えて食事制限というよりも、子供の体が楽になって、イライラせずに過ごせる手助けになるなら、試してみるのも悪くないと個人的には思います。
食事療法はおっしゃるとおり、はまりすぎると危険ですし、”効果を証明する”のはむずかしいです。というか、実践して効果があったにしても、”個人認識レベル”で科学的に証明というのはほぼ不可能でしょうね。
幸い子供は和食大好きなので、和食を食べていれば、必然的にグルテンはあまり摂取しませんし、(小麦、オートミール、セーグル、とうもろこし粉に含まれます)
もともと乳製品は嫌いで食べません(笑)
通常乳製品の替わりに大豆製品を採るらしいのですが、豆乳なら体にも良さそうですしね。
カゼインにしても戦後給食が導入される以前は”牛乳”を飲む人の数はそう多くなかったはずです。もちろんそれが日本人の小柄の原因のひとつであったことは言うまでもありません。
ただ栄養面だけ考えれば、カルシウムをきちんと他から摂取していれば、バランスは崩れないはずです。
これから栄養学の本も見ないといけないですね(笑)
むしろ動物性たんぱく質の取り過ぎのほうが自閉児に限らず、一般的には問題のように思われます。
とはいえ、これはほんと好みと趣味の問題で、”おばあちゃんの知恵”を試してみるというのに近いですから、否定されるお気持ちもよくわかります。
とりあえずお返事まで。
少し調べてみましたが、グルテン不耐症は、セリアック病と呼ばれているようですね。(コリアック病で検索にヒットしないので、確認してみました。)
http://mmh.banyu.co.jp/mmhe2j/sec09/ch125/ch125c.html
改めて私の立場を整理させていただくと、特定の食べ物にアレルギーや不耐性をもっている人はもちろんたくさんいると理解しています。
そういった症状そのものに対して、食事療法などを対処療法として行なうことにも意味があると思います。
そして、パニックに対して鎮静剤的にリスパダールを処方するのも、同じく対処療法です。
これらの対処療法は、働きかけの内容と、働きかけの対象が「近い」ことが重要なポイントです。
食べ物の消化の問題に対して、問題となっている食べ物を変えるという働きかけをすることには、恐らく何の問題もないでしょう。
しかし、GFCF Dietに関していうと、食べ物の消化の問題が、なぜか「非常に遠い」自閉症の症状とつなげられています。
そして、そのつなげ方には、少なくともしっかりとした科学としての医学的裏づけがあるとは思われません。
私が問題にしているのは、まさにこの「非常に遠い因果関係のつなげかた」、ここに尽きます。
自閉症児がたまたまグルテン不耐症で、そのことをうまく表現できないためにパニックしているとすれば、グルテンレスの食生活にすればパニックはおさまる可能性があります。
ですから、あくまで、こういった「対処療法としての視点」に立っているのであれば、食事療法を試してみることもアリだとは思います。