2007年07月09日

あしたはきっと晴れ・あしたはきっと晴れⅡ(ブックレビュー)

久しぶりのまんがレビューです。

       


あしたはきっと晴れ―マオと家族の物語
あしたはきっと晴れⅡ―思春期編
著:あらみ なおこ
桂書房

自閉症の子育ての日々をつづったエッセイ風のまんがです。
1冊目は基本的に就学前の話、2冊目は「思春期編」となってはいますが、実際にはそれよりも少し前?の、小学校時代の話となっています。

この本の存在は、少し前から知っていたのですが、2冊まとめて買うとなると2,400円という値段のせいでなかなか手を出せずにいたところ、オークションで半額以下でセット出品されているのを発見し、思わず購入してしまいました。

全体的に、これまで紹介してきた他の自閉症まんがとは少し違った雰囲気があります。
例えば、1冊めの表紙をめくり、最初のカラー写真のコーナーをすぎると、いきなり元郵政大臣・野田聖子さんの「推薦のことば」が入り、さらに2人の関係者の「あいさつ・すいせんのことば」が続きます。
さらに、まんがをはさんで「祖父のことば」「父のことば」「兄のことば」・・・と続いていきますが、このような構成になっていることによって、率直にいえば、本書は非常に「身内色」が強いものになっているという印象を受けます。

さて、肝心の中身についてですが、「軽度から中度の知恵遅れで、自閉的傾向も強い」(本文より)という主人公・マオと家族の日々の生活や子育ての話題を、著者である母親の視点からエッセイ風に描いたものになっています。
一話はだいたい見開き2ページにまとまっていて、読みやすいです。

マオちゃんの「知的障害の重さ」が「軽度から中度」でそれほど重くないというのは、内容からも読み取れます。というのも、私の娘も含め、「重度」以上であれば相当に時間と手間がかかるはずのトイレトレーニングや着替え、食事といった基礎的な生活自立に関する苦労話がほとんど登場しないからです。幼い頃から、不完全ながらも会話(もしくは、ことばによる意思表示)が成立していることも、そのことを裏付けていると考えられます。

ところが、その一方で、マオちゃんがみせる「問題行動」はかなり深刻といわざるを得ないもので、飲み物や食べ物をひっくり返す、洋服や本などあらゆるものをはさみで切り刻む、おしっこをもらす、脱走する、部屋の壁を壊れるほど蹴る、窓に頭を打ち付けてガラスを割る等々、家族の生活にも相当な影響が出てしまうレベルです。
しかも厄介なことに、これらの問題行動の多くを、マオちゃんは「反抗の手段」として意図的に行なっていると思われるフシがあり、言われたことが気に入らない、やりたいことを止められたといった「ささいな出来事」をきっかけに、わざとこういった行動をして抵抗の意思を示す、という行動パターンが(少なくとも著者が本書の中で「反抗期」と呼んでいる一定期間は)定着しているという点です。



そして、これもまた厳しい言い方になってしまいますが、それら問題行動に対して、その場その場で一生懸命対応していることはもちろん伝わってくるのですが、自閉症児への対処法としてはやや首尾一貫性に欠け、問題をより大きくしている側面が透けて見えることも否定できないのです。

これは、以前レビューにてご紹介した、「涼太郎、またやっちゃった!?」を読んだときの印象とほとんど同じです。

本書を慎重に読むと、知的障害とは別に、マオちゃんの「自閉的傾向」は相当に強いことが読み取れます。明確な感覚異常もあり、フラッシュバックによるパニックもしばしば起こしていますし、配列へのこだわりや、いつもと違うイベントに対する耐性の弱さなど、「自閉性」の次元の困難はかなり重いと判断できます。
だとすれば、環境を構造化し、視覚的情報を十分に活用しつつ、行動に対して一貫した明確なフィードバックを与えるといった、自閉症児の認知特性に配慮した働きかけが特に重要になるでしょう。

そういった目で改めて本書を読んだときに、やはり気になってしまうのが、自閉症児にとって苦手な「ことばによる指示」への依存と、ある時は罰を与え、あるときはなだめ、あるときは無視し、さらに子どもが問題行動を起こすと慌てて対応するといった、対応の一貫性の乏しさです。「専門家」であるはずの周囲の人たちの対応も、本書から読み取る限りでは、必ずしも効果的なものになっているとは判断できないようです。

もちろん、だからといって私が代わりの処方箋を出せるわけでもありませんし、繰り返し強調するならば、本書からは著者のマオちゃんに対する愛情と全力での努力が痛いほど伝わってきます。
でもやはり、「涼太郎、またやっちゃった!?」の解説で、佐々木正美先生が重い筆を起こし、あえて「しかしまた涼太郎さんたちは、まだ今日的な意味での専門家に出会って来られなかったことを、少し不幸なことであったとも思う。(中略)「歯医者さんでのてんやわんや」は、避けて通ることができたかも知れない。もう少し小さなご苦労でという思いは拭いきれない。」と書いたのと同様、私自身も本書を読みながら、「自閉症の『専門家』だったら、この問題をどう解決、あるいは予防しただろうか。自分ならどうするだろうか」といったことを考えざるをえないのです。

うーん・・・。
こういった本のレビューはなかなか難しいですね。

「障害児の子育て」をテーマにした本の内容に、多少なりともネガティブな評を与えることは、非常に慎重な姿勢を求められることであるように思われます。
でも、ここはあえて、自分の印象、思いを正直に書くことにしました。ご批判など、コメントにていただければ幸いです。

※その他のブックレビューはこちら


posted by そらパパ at 22:59| Comment(4) | TrackBack(0) | 療育一般 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
そらパパさん、こんにちは。

でも、そうやって改めて考えてみたら、
私も、一貫性に欠ける対応をしてしまっているかもしれません・・・
きちんとした対応を心掛けてはいても、きちんとできているか?と問われると、全く自信がありません。
全力の努力と愛情だけで、強引に行ってしまってる時の方が、実は多いかもしれません・・・
反省しては自己嫌悪、の繰り返しです。

特に、知的障害の軽い子は、知恵がある分、そういった行動を意図的に行う場合が多そうですもんね・・・
でもだからこそ、正しい反抗の仕方?を教えて行ってあげたいですよね。でもそれを自分ができるか?と言ったら、自信がないですね。
本当に難しい問題ですね。。。

でも、そういうケースは、私の周りにも何人かいます。側から冷静な目で見れば、もっときちんと勉強して、こういった対応をすればいいのに・・・等と思うんですけどね。
時々口を出しても、信じてもらえなかったり、迷惑がられたりしますしね。。。
Posted by いっくんママ at 2007年07月13日 12:50
いっくんママさん、

コメントありがとうございます。

確かにまったくそのとおりで、勉強をして、理屈で分かっているということと、当事者として子どもに対応しているときに、しっちゃかめっちゃかになっていてもそれでも常に冷静に対応できるかどうかというのは全然別の問題だと思います。

かくいう私も、楽しく過ごしたい、あるいは子どもを喜ばせたいと思っているときに、ちょっとしたことで子どもが大パニックを起こしてしまったときなどは、つい感情的になってしまうこともあります。(それを妻にからかわれますが・・・)

ただ、それであっても、「全体として」より適切な方向に子どもの状態をもっていく知識と努力があれば、それがないよりは、長い目でみると大きな違いが出てくるはずだと信じています。

そういうことでいうと、確かに周囲をみたときに、「違う対応をしたほうがいいんじゃないかな・・」と思うシーンは少なくありませんね。それは、相手が自閉症のお子さんのときもあれば、健常のお子さんであるときもあります。
とはいえ、もちろん「絶対的に正しいこと」が分かっている世界でもありませんし、親御さん個々人の感情やプライドの問題もありますから、そう簡単にアドバイスできるものではありませんね。
なかなか難しいテーマだと思います。
Posted by そらパパ at 2007年07月15日 23:46
そらパパさん初めまして。

私は1冊目だけ読んだのですが、
マオちゃんは著者である母親のことを怖がっているように感じました。
でも、著者はそのことに気づいていない上に、無理強いしたり叱るばかり。
著者の言動には「あり得ない!」のひと言しか出てきません。
これではマオちゃんは著者に愛され守られているとは感じられないでしょう。
それでも著者のマオちゃんに対する努力は痛いほど伝わってきますけどね。

著者は「自分で自分をいい気分にすること」をしてこなかったのではと思います。
「いい気分」な時は叱る事が少なくなり自然と療育的な対応ができていた様だから。

私はマオちゃんの視点で読んだので、辛口な感想になりましたが、
そらパパさんはどのような視点で読まれたのか気になります。
Posted by 青紫 at 2007年09月01日 22:56
青紫さん、

私も、今回のレビューで触れているとおり、著者が子育てを必死に頑張っている、ということは事実であっても、その働きかけの内容については肯定的にコメントするのが難しいと感じています。

ただ、当ブログでは、こういったエッセイ的な本やまんがについてまで、その内容について厳しく批判的に考察するという方向性は必ずしもとらないことにしています。
それは、親御さんは自閉症療育のプロではなく、もしも子育てのやり方に療育的観点からの問題点があるとすれば、それはむしろ周囲のサポートが不足しているという問題の裏返しだとも思うからです。(それは、今回のレビューで引用した佐々木正美先生の別の本へのコメントでも触れられていることです。)

このあたりは、なかなかデリケートで難しい問題ですね。・・・
Posted by そらパパ at 2007年09月03日 23:25
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