つながろ! にがてをかえる?まほうのくふう
著:しまだようこ
監修:井上雅彦
今井出版
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こういった「絵本」のようなタイプの自閉症本は、私の場合、環境的にあまり読む機会がないので、今回興味深く読ませていただきました。
この本は、発達障害でない健常の子ども(と、そういった子どもを指導する先生)に向けて、発達障害とはどんなものであるか、どういった理解と支援をすればいいのか、といったことを誰にでも読んで理解できるようにまとめた「絵本」です。
対象は幼稚園~小学校低学年あたりだと思われます。
ページ数にして、本文で32ページしかない(しかも全ページ見開きの絵)ですので、すぐに読み終わることができますが、この少ないページのなかに、発達障害への特別支援教育のエッセンスがうまく濃縮して盛り込まれています。
こちらのページでは、絵カードによる手順指導、タイムタイマー、表情の視覚化やルールの視覚化などがとりあげられているのが分かります。
しかも興味深いことに、その「エッセンス」がどんなものであるか、最後のページでまとめて解説がされているんですね。
こういう本は、具体的な内容をまとめても「ネタバレ」にはならないと思いますので、その全ポイントをまとめておきたいと思います。
<発達障害の理解に関連すること>
・声の調整が難しく大声を出してしまうこと
・じっとしているのが苦手なこと
・思いついたことをすぐにやってしまうこと
・同じことを繰り返すこと
・集中して周りのことが見えなくなってしまうこと
・順番やものの位置が気になってしまうこと
・他人の感情を読み取るのが苦手なこと
<発達障害の支援に関連すること>
・視界に入る無駄なものを取り除くこと
・絵カードを使うこと
・タイムタイマーを使うこと
・表情・感情を絵カードで表すこと
・ルールを文字に書いて示すこと
・相手の視界に入ってから声をかけること
・特別支援とはユニバーサル教育であること
・支援によって「ありのままで頑張れる」環境をつくること
この絵本に登場する発達障害の女の子は「まいちゃん」というのですが、この整理からすると、まいちゃんはADHDの特性をあわせもったアスペルガー症候群の女の子であるように思われます。
…はい、そしてこの写真を見て分かるとおり、この絵本は、
井上雅彦先生の監修本
なんですね。(今回献本いただいたのも、そういうご縁からのようでした。ありがとうございます。)
井上先生監修ということで、支援のやりかたはもっとABA寄りになっているのかな、と思いましたが、実際の中身をみると、絵カード、構造化など、TEACCH的な技法がふんだんに盛り込まれています。
というか、最近思うのですが、こういう感じで「ベースにABAをおきながら、TEACCHの理念(当事者中心)と技法(構造化など)を取り入れて、絵カードなどを活用する」という、当ブログでも基本だと考えているやり方が、自閉症療育の基本フレームワークとして定着してきた印象がありますね。
この絵本では、まさにその基本フレームワークに従った支援が描かれていますから、療育絵本として見た場合、偏りの少ない王道の内容になっていると思います。
そしてこの絵本には、ある意味「政治的」に特定のポジションを取っているポイントが2点あります。
1点目は、特別支援教育をユニバーサル教育として明確に位置づけていること。
発達障害である「まいちゃん」の特性に配慮した教育支援は、まいちゃん以外のすべての生徒(もちろん健常児を含む)にとっても「過ごしやすく、学びやすい」環境を作り出し、だからこそ価値があるんだ、という考え方がはっきりと示されています。
一部には、「特別支援教育によるサポートは健常児にとってはかえって邪魔だから、特別な支援を受けるのは特別な子だけで結構」という「政治的立場」あるようですが、こういう立場は特別支援教育を「健常者からの特別な施し」と位置づけてしまいますから、私も賛成できません。
その点、この絵本は、「特別支援教育はユニバーサル教育である」という明確な立場をとっていますから、その点安心して読むことができます。
もう一点は、療育・特別支援教育が目指すべき大きな目標の一つとして、「子どものありのままを受け止めること」ということをはっきりとうたっていることです。
この点について、井上先生の解説の部分を引用してみましょう。
?ありのままを受け止めるって、なんだろう?
みなさんも苦手なことがあると思いますが、最初から「むりだ」と思ってあきらめていませんか? また、自分を「だめなやつだ」と思っていませんか?
「ありのまま」は「努力しなくていい」ということではありません。まいちゃんのことでみなさんが考えた工夫は、苦手だからだめなのではなく、その人がみとめられたり「努力できる」と思える「ありのまま」でがんばれるようになる”まほう”のようなものです。いっぱい工夫を考えることが「ありのままを受け止める」スタートになるのかもしれませんね。
つまり、「ありのままを受け止める」とは、子どもが苦手なことが理由で挫折したり、自己否定に陥ったりしないように働きかけることで、子どもが「努力し挑戦し成功できる」という環境を作り出すことを意味しています。
「環境」という言い方だと他人任せ的で情緒的なイメージがやや強いとすれば、よりビジネスライクに「態勢」を作る、と言ってもいいかもしれませんね。
それにしても、この井上先生の解説を読むと、「ありのまま」という当たり前の単語を使うにも、定義を明確にしなければならない「不毛」を感じないではありません。
「ありのまま」というと「努力しない、ほったらかし」みたいな批判をして、間違いなく障害支援のなかでトッププライオリティの1つであるはずの「ありのまま(で生活できる環境調整)」という表現の価値をディスカウント(価値の割引き)しようとする「政治的立場」もあるようですので、この絵本が(井上先生らしく)そういった政治的ポジションに与しない、とはっきり宣言しているのは、こちらもやはり読んでいて安心感があります。
というわけで、ちょっと後半は普通のブックレビューと違った感じになってしまいましたが、端的にいうと、「私自身が考えている、基本的な療育・特別支援のフレームワークや価値観に非常に近く、安心して他の方に読んでもらえる絵本」というのが、本書に対する印象になります。
我が家にも2人めの子どもが生まれ、やがて長女の障害のことをこの子にも説明しなければならないときがやってくると思います。
そのとき、きっとこの本が役に立ちそうだな、と感じているので、まだだいぶ先になりますが、それまでこの本をとっておきたいと思っています。(^^)
いい本ですね。
小さなお子さんに、自閉症・発達障害のことを伝えたいときに、選んで間違いのない、手堅くわかりやすい絵本だと思います。親御さんや先生も一緒に読んで得るものがあるはずです。
そういう意味では、学校の図書コーナーや小児科の待合室の本棚などに置くのにもいい本なのかもしれません。
おすすめです。
そらパパさん大丈夫ですか~!?
kamokoと申します。
我が家にも発達障害の小学生の娘がおります。
この絵本、良さそうだったので購入しました。絵本での発達障害の説明本あるようでなかったので小さい子だけでなく、大人の方に説明をする上の参考資料としても良さそうだと感じましたので。
以前、そらまめパパさんが作られた自作の電子タイマーを旦那が設計図を見ながら作りました。(旦那は電気系の技術職です。)
作りながら、アイデアや設計などの構造(私にはちんぷんかんぷんです。)が良く出来ている!素晴らしいととても感心しており、そらまめパパさんって凄いなと言っておりました。
娘も目で見て確認できるタイマーなので判りやすいのか喜んで使っております。
(娘は、視覚での判断が判りやすい子の為)
本当にありがとうございました。
大丈夫です、今のところまだ毎週更新しています。
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kamokoさん、
あのタイマーを自作されたんですか!
それはすごいですね。
私はPICマイコンを使った電子工作とプログラミングはあのタイマーが事実上初めてで、試行錯誤しながら作ったのですが、もしお役に立っているのなら嬉しく思います。
(ちなみに我が家でも数年間使いました。)
今度でなかったら、試してみます。
ありがとうございます。
今度から、水曜日にチェックします。
とほほ。。。
すみません、先週はアップが遅れてしまいました…。
ご心配をおかけして、申し訳ないです。