2014年02月03日

障害者いじめの一つの「形」ー「聲の形」から(1)

もうこのブログでも繰り返しとりあげていますが、いま「聲の形」というまんがが話題になっています。


聲の形 第1巻・第2巻
大今良時
講談社 少年マガジンKC

現在週刊少年マガジンに連載中のまんがで、単行本は現時点で2冊出ており、3月17日には第3巻が発売される予定になっています。

このまんがは、様々なとらえかたができる懐の深さをもっていて、特に最近の連載部分では主人公をめぐる三角関係を中核にしたラブコメとしての要素が強まっている部分もありますが(それはそれで非常に濃密に描かれていて面白いのですが)、今回はあえて、このまんがが最初に注目された要素である「障害者に対するいじめ」という観点から少し考察していきたいと思います。

このまんがにおける「障害者といじめ」という問題は、単行本の第1巻に特に集中して描かれています。

以下、ネタバレになりますので未読でネタバレを読みたくないという方はご注意ください。

好奇心旺盛で退屈が大嫌いな少年・石田将也が通う小学校(当然ですが普通校です)に、聴覚障害をもった少女・西宮硝子が転校してきます。
通常級に通いながら、校内に設置された「きこえの教室」のサポートを受けることができるという、「障害に理解のある学校(硝子の母親の台詞)」への転校のはずでした。
(第2巻までまとめて読むと、硝子は転校前からいじめの被害者だったことがわかります)

そんな、転校してきた硝子をとりまく、「障害者にやさしくしましょう」的な平和な歓迎ムードはしかし、すぐに不穏な空気に変わっていきます。

筆談ノートによるコミュニケーション等が必要で、しばしば硝子のために停滞する授業の流れ。

校内の合唱コンクールの練習で障害のため歌がうまく歌えず、参加辞退を打診された硝子は、筆談で「うたえるようになりたい」と、わずかな自己主張をします。
それに対して「面倒なものを押し付けられた」という本音を隠さない担任教師。



結局合唱コンクールはさんざんな結果となり、これがある種のきっかけとなって「障害ゆえにクラスに迷惑をかけている」という「理由」のもとに、硝子への過酷ないじめが始まります。

硝子にとって、障害ある自分と健常のクラスメイトとのコミュニケーションの挑戦の象徴であった大きな「筆談ノート」は学校の池に捨てられ、これまた障害を乗り越えていくための象徴でもある補聴器は執拗に奪われて壊され続け、耳が聞こえないことをからかうようないじめも日常的に繰り返されるようになります。



これら硝子へのいじめは、このクラスのなかではかっちりと正当化されています

つまり、「障害のせいでみんなに迷惑をかけている」「迷惑をかけているのに、障害ゆえにさまざまな保護を受けている(その端的な事実が、他のみんなと同じように学校に通うことができて、いろいろなことが障害ゆえに目こぼしされて、『多少の犠牲を払ってでも対応してあげなければならない子』という『特別待遇』を受けている、といったことになるのでしょう)」、だから「そういう『不公平』『逆差別』に対して、クラス内で厳しい対応(=いじめ)を受けることもある程度仕方ない」といった理屈です。
そしてその「空気」は、全クラスメイトだけでなく、担任の教師にまで共有されていきます。

ところで、この「聲の形」のいじめのストーリーを思い起こしたのは、先日、ツイッターで渡邊芳之・帯広畜産大教授(わいなべ先生)がつぶやいていた、このツイート群を見たからでした。

http://togetter.com/li/619447



つまり、「いじめ」というのは、「公的な制裁システム、公平性保障システム」でカバーしきれない(とそのコミュニティに属する人々が認識する)「不公平、アンフェアネス」を衡平化するための私的制裁システムである、と整理することができるように思います。

こう整理すると、「聲の形」において、聴覚障害者・西宮硝子が、なぜ「保護の対象」から「いじめの対象」に移行していったのかという、「構図」が見えてくると思います。

(次回に続きます。)
posted by そらパパ at 20:40| Comment(2) | TrackBack(0) | 雑記 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 こんにちは。
 韓国ですか!
 今日は全国雪が残っていると思いますが韓国はもっと厳しい冬なのでしょうか・・・。
 ご体調は万全ですか?
 世界を飛び回りながらのお嬢様の療育、頭が下がります。
『聲の形』読み始めました。
そらパパさんの仰る通り、深刻な問題から逃げずに書かれた作品ですね。
 私は、ヒロインが(読んだところまでは)きれいに書かれすぎていて、その葛藤がなかなか見えてこないもどかしさも感じました。続編に期待したいところです。
 でも、あたらめてそらパパさんのブログを読んで、なるほどいじめというのは、集団内の秩序(?)を守ろうとする非合法的な手段と見ることができるのか、と新しい視点を見せていただきました。
 鋭い分析、おさすがです!
 ちょうどこのマンガを読んでいた頃、テレビを付けたら、テレビ朝日『Qさま!!』に矢幡さんが京大軍団の一員として東大軍団チームと対戦しているところでした。あれは最後から一番クイズに強い人から並ぶという形をとっていて、矢幡さんは最後から3番目か4番目のようだったので、クイズもお得意なんでしょうね。以前に、同じ顔の人がいるのを『Qさま!!』で見た記憶がぼんやり残っているので、このゴールデンタイムの番組にもたびたびご出演なのかも知れません。
 『有吉ゼミ』には完全にレギュラーで出られているようですし、これからはテレビのゴールデンタイムに出ることに意欲を持たれているのでしょうか・・・その一方で、ホームページには全く変更なし。娘さんのことはどうなさっているのでしょう・・・。自閉症のことは忘れてテレビ出演に精出されているのでしょうか?
 基礎的なことも混同された本を出されていると既にそらパパさんが批判されているわけですが、結局その通りだったことを示しておられるような。
 矢幡さんが高視聴率の番組に出演するたびに腹を立てて書き込んでいるみたいですが、多分、最初にホームページを見た時に感じた期待が裏切られた思いがしてしまうのかも知れません。
 もう、頼みの綱はそらパパさんのブログだけですね・・・。
 世界を股にかけながらのブログ更新、ご体調を維持されるのも大変なことでしょう・・・。
 コメントに返答されるのも大変な労力をかけておられるのだろうと思いますが、どうぞご無理のない範囲で続けていただくことを願っております。
Posted by アスペ君ママ at 2014年02月09日 19:58
アスペ君ママさん、

あれ?私は韓国には行っていないですよ。

もしかすると数年前の記事を間違って今年のものと誤解されてご覧になっているのかもしれません。

「聲の形」のヒロインがきれいに描かれすぎている、という点については、私も考察していて、このブログで「聲の形 第1巻」の連続レビュー記事として考察しています。

一言でいうと、「その『きれいな障害者』としての西宮硝子像は、これから作者の大今氏によってきっと壊されていくだろう」と私は思っています。
そして、現に現在進行中の最新の連載では、一部「壊されて」きています。

矢幡さんについては、かつての新書などを読んでいても、どちらかというと表面的でがっかりする内容が多かったので、現状がそのようなものだとしても(詳しくは存じ上げていませんが)驚きはないですね。

このブログは、もう2005年から始めているので、満8年を超えました。
さすがに最近は純粋な療育としてはネタ切れになりつつあるので、今回のエントリのように、ある程度周辺領域まで守備範囲を広げつつ、のんびりと更新しています。

また時間がありましたらお越し下さい!
Posted by そらパパ at 2014年02月12日 23:13
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