応用行動分析学から学ぶ 子ども観察力&支援力養成ガイド 家庭支援編 : 発達障害のある子の「困り」を「育ち」につなげる!
著:平澤 紀子
学研 ヒューマンケアブックス
はじめに
第1章 今の困りは次の育ち
困った行動の正体
なぜ、そのように行動するの?
困った行動から読み解く子どもの育ち
ABCから支援を考える
うまくいくABCを探す
第2章 家族と考える家庭における支援
困りを具体化する
ABCから支援を考える
子どもと家族が取り組みやすい方法を探る
支援を行い、取り組みの成果が見えるようにする
第3章 ケースから学ぶ家庭支援
母親のあいまいな「困り」を具体的な行動で考えた支援-帰宅後に泣き出すユキオ君(幼稚園4歳児)
「イヤ」の正体を探り家庭での対応を工夫した支援-朝の洗面を嫌がるユウコさん(幼稚園5歳児)
行動の意味がわかったことで家族が楽になった支援-延々と物の位置を直すヒロシ君(特別支援学校小学部1年生)
自分で学ぶ楽しさを育てた家庭学習への支援-宿題に取り組まないケン君(小学校3年生)
家庭で考えが違うきょうだい関係への支援-弟とのけんかが絶えないマミさん(小学校2年生)
地域との連携で家族の困りを解決した支援-勝手に外へ出て行ってしまうユウキ君(特別支援学校小学部4年生)
問題を避けることを優先した自傷行為への支援-自分の頭をたたくタカオ君(特別支援学校小学部6年生)
母親が子どもの困りを整理し学校につなげた支援-「学校に行きたくない」と言うユキさん(小学校5年生)
父親が主導した親子関係への支援-母親に反抗的なダイスケ君(中学校1年せい)
家族に学校での困りを伝えられるようにした支援-会話に割り込み、延々と話すミツオ君(高校1年生)
学校でできないことへの分析が家庭生活の改善に結びついた支援-課題の提出ができないサチコさん(高校1年生)
学校が行う家庭支援プログラム-すぐにパニックを起こすダイチ君(特別支援学校小学部2年生)
おわりに
参考文献
著者プロフィール
学研教育出版様より献本御礼。
以前当ブログのブックレビューでもとりあげたABA療育本の「子ども観察力&支援力 養成ガイド」の続編が出ました。
このシリーズは、ABA(応用行動分析)をベースにした療育・支援について、誰でも同じように実施できるように「マニュアル化」することを強く意識した、実践寄りの療育本です。
その支援のやり方は、あらゆる問題に対して基本的にはすべて同じです。
1) 問題行動を具体的な行動として記述する(どういう状況で、どのような行動を、どれくらいの頻度で行なうのか。それによってどれくらい周囲が困っているのか等)。
2) その問題行動を、いわゆる「ABC分析」によって分解し、A,B,Cそれぞれに対してどう働きかければ問題が解決しうるかを考える。
3) それらの解決法のうち、実際に取り組みやすそうなものを選択して支援プログラムを決定。
4) 記録をとり、支援プログラムがうまくいっているかどうかを客観的に判定。
5) うまくいっていればさらに支援内容を発展させ、うまくいっていなければ再度分析・支援プログラムの策定をやり直す。
シリーズの新作である本書では、この「支援のマニュアル化」の方向性がさらにはっきりし、すべての問題について、上記の1)~5)をかっちりと当てはめて解決を目指すというやり方が徹底しています。
このようなやり方について、疑問を感じる向きもあるかもしれません。たとえば、
・なんでもかんでも同じやり方では、融通が利かなくて効果が出ないんじゃないの?
・ABAの達人の先生って、もっと柔軟にいろんなやり方で働きかけてるんじゃないの?
などなど。
それに対する私なりの整理としては、
基礎なくして応用なんてできるわけがないし、ここで使われてるフレームワークは、恐らくABAの達人が使ってるやり方と本質的には何も変わるものじゃない。
ということになろうかと思います。
この本が「1つのやり方」にこだわっているからといって、読者がそのやり方だけに固執する必要はないわけですし、逆にいうと「たった1つのやり方」であっても、それを着実に「自分のもの」にできるならば、それを自分の働きかけの基礎、よりどころ、財産にすることができるわけです。
はっきり言って、「本を読んでマスターできる療育方法」って、実はすごく限られていると思います。
ほとんどの支援は、実際にはプロの人に相談して、その人の専門性に頼って初めて実現できるものが多いと思いますし、少なくとも薄い本を1冊や2冊読んだだけで「読者が自分で(試行錯誤しながら)できる」ようになれるものはほとんどないでしょう。
ABAやTEACCH、PECSなどは比較的それに近いとは思いますが、それでもそれぞれの支援方法の全体像を網羅しようとすれば、恐らく本を10冊とかそれ以上読まないと見えてこないだろうと思います。
それに対して本書のシリーズは、ABAの支援方法をさらに特定のパターンに限定して、本を1冊読むだけでとりあえず全体像が分かり、問題行動に具体的に働きかけられるようにしよう、という、意欲的なアプローチをとっています。
本書を読んで、本書に書かれている支援のパターンを「自分のもの」にできれば、それを出発点として、目の前の問題はとりあえずそれで解決しつつ、それ以外のやり方についても時間をかけて少しずつ広げていくだけの「余裕」ができるのではないでしょうか。
そうやって支援の幅が広げていった究極の先に「ABAの達人」がいるわけですから(もちろん素人はそこまでは到底到達し得ないわけですが)、本書で書かれているやり方と、「ABAの達人がやっていること」との間には本質的な違いというのはなくて、単に働きかけの方法に経験に基づいた幅広さや柔軟性が加わっているだけだと思うのです。
さて、そんなわけで、シリーズ全体ではなく、今回でた新刊の本書について触れたいと思います。
今回は「家庭支援編」というサブタイトルがついています。
私はこのタイトルをみて、「ああ、今度は対象読者は親御さんなんだな」と思ったのですが、実際には違いました。
本書の対象読者は「親御さんの家庭での支援のやり方についてアドバイスしなければならない立場にある、学校や支援施設の先生」でした。
これはややこしい…
本書のタイトルとサブタイトルから、この想定読者を読み取るのはけっこう難しいように思います。
個人的には、はっきりと読者を「親御さん」として、「学校と連携して家庭での支援をどうすればいいか」といった形で読めたほうがいいかなあ、と思いました。(そういう書きかたであっても、もちろん親を支援する立場の先生も読んで活用することはできるわけですから)
そして、第2章では、「学校の先生はどうやって親御さんを支援すればいいか」という具体的な方法を教えているのですが、「支援がヘタな先生」と「適切な支援方法をアドバイスできる先生」になぜか同じイラストが使われているので、その「イラストの先生」が正しいことを言ってるのか不適切なことを言ってるのかでやや混乱します。
↑問題行動に対し「毅然とした対応をしましょう」という何の意味もないアドバイスをして親御さんを唖然とさせている先生が…
↑なぜかすぐ後のページではすごく深い理解をして適切な支援について語っています。
また、ここは一番気になったところですが、「問題行動をベターな行動におきかえていく」ための補助的な強化子としてトークンエコノミーがひたすら使われていることや、行動を置き換えるための働きかけがほとんどすべて「ことばで指示する」といった方法になっている点にやや違和感を覚えました。
特別支援学校のお子さんのケースも多々含まれているにもかかわらず、ほとんどのケースについて、
・ことばによる指示で行動を変更し、
・うまくできたらごほうびに「カレンダーにシールを貼る」というトークンエコノミーでその行動を強化する、
というのは、重度の子どもを育てているわが家を振り返っての率直な印象として、「そんな複雑な働きかけができて行動が変えられるなら苦労はしないよ」と思わずにはいられません。
↑自閉症のある幼稚園児にトークンエコノミーで支援するというケース。
むしろシリーズ前著のほうが、トークンエコノミー以外の強化方法もいろいろ駆使していて、納得感がありました。
この部分は、もしかすると「すべてのケースでの支援方法をマニュアル化していく」という方向性を強く意識しすぎた結果起こっていることなのかもしれません。
というわけで、本シリーズの方向性はとてもいいのですが、新刊である本書は、やや内容的にうまく整理できていないところが見受けられる、そういう印象です。
シリーズ前作を読んだ上で、さらにケーススタディを深めるという位置づけで本書を読むのであればまったく問題なく、うまく活用できると思いますので、このシリーズを手に取るのであればまず前著を先に読み、さらに「深める」ために本書に続けていく、という読み方が絶対におすすめです。
↑「前著」です。(レビュー記事)
※その他のブックレビューはこちら。
今回の内容とはそれてしまいますが、娘が来年は六年生で、そろそろ就労を見据えた学習!?を考えたほうがいいかなぁと思っています。
TTAPというTEEACHをもとにした、就労支援療育法!?があると聞きましたが、そらパパさんはご存じでしょうか?
こういう質問はどこに書き込めばいいのか解らず、書き込みました。
申し訳ありません。
コメントありがとうございます。
TTAPというのは、私は知らないです。
すみません。
ググってみたところ、どうやらこれのようですね。
http://www.proedinc.com/customer/productView.aspx?ID=3962
こちらにはTTAPを説明したプレゼンテーション資料がありました。
http://kcart.ku.edu/~kcart/files/woodworth_transition_assessment.pdf
これを見ると、比較的障害の重い方向けのプログラムのようにも見えます。
あまりお役に立てなくてすみません。
言語指導をして頂いてる先生に、最近聞いたものでググっても良く分からず、そらパパさんならご存知かと思い、書きこんでしまいました。
ありがとうございます。
ここにも本がありました。ご参考までに。
TTAPの研修会の案内です。
本は高いですね~。
近畿在住に群馬は遠いし。
最新の物は一般化するまで時間がかかりそうですね。
近畿にお住まいなら、大阪とか京都のTEACCHプログラム研究会のホームページなど、探してみると良いですよ.TTAPの勉強会など、いろいろやってるはずです.私なんか、大阪に住んでる人はうらやましいなあ、近くで勉強できて、と思いますもん.
ありがとうございます。
ググってみます。