※非常に長くなってしまったので、何回かに分けて書きます。
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聲の形 第1巻
大今良時
講談社 少年マガジンKC
(上が楽天BOOKS、下がAmazon)
このまんがは、紆余曲折をへてきた「問題作」だといえます。
この作品は、もともと作者である大今良時氏の少年マガジン新人賞受賞作でした。(2008年)
ところが、通常は受賞作はすぐにマガジン姉妹誌に掲載されるはずのところ、テーマが「聴覚障害者へのいじめ」というデリケートなものであったことから掲載が見送られ、作者はこの「聲の形」ではなく、原作のあるSF作品「マルドゥック・スクランブル」の連載でデビューを果たすことになります。
(この「マルドゥック・スクランブル」も完成度の高いすばらしいマンガになっています。当ブログにてレビュー済み。)
この「マルドゥック・スクランブル」連載での成功を認められ、ようやく受賞作の「聲の形」(新人賞を受賞したオリジナル版)は2年半ぶりに日の目を見ることになったのだそうです。これが2011年の話。
その反響の大きさに力を得た講談社は、マガジン系で最も発行部数の多いメジャー誌である「週刊少年マガジン」への「聲の形」の連載の可能性を模索し始めます。
そのための「前振り」として、オリジナル版「聲の形」をあらためてリメイクした「聲の形」が、今年春の週刊少年マガジンに読み切りとして掲載され、ふたたび大きな反響が。
その反響に自信を得た講談社・少年マガジン編集部は、まさに「満を持して」いよいよ今年の夏から「聲の形」を週刊少年マガジンに連載しはじめたのです。
そして本書は、その「連載バージョン」の聲の形のコミックス第1巻ということになります。
↑某ショップでの初回特典である大今先生イラストカードつきの第1巻です。
なお、以下ネタバレです。
ストーリーの核心部分というよりは「あらすじ」になっていますが、これから読むという方でまったくストーリーを知りたくない方はご注意下さい。
ひたすら楽しく刺激のある毎日を求める少年、石田将也。
そこに現れた、聴覚障害をもった転校生、西宮硝子。
(最初の)舞台は小学校です。
障害がありながらも何とか新しい学校に溶け込み、クラスメートとコミュニケーションをとろうとする硝子。
その象徴が、硝子が肌身離さず持ち歩いていた特大の「筆談ノート」でした。
ところが、当初は硝子を受け入れようとしていたクラスメートも、硝子の障害ゆえに授業が滞ったり、いろいろなことをいちいち筆談で教えなければならなかったり、あげくにクラス対抗の合唱コンクールで硝子がうまく歌えないがゆえに入賞を逃したりといった数々の「困難」にぶつかっていくなかで、徐々に硝子はいじめの対象となっていきます。
そして、そのいじめの先頭に立っていたのが将也でした。
硝子の「コミュニケーションの努力の象徴」だった筆談ノートは、将也によって奪われ学校の池に投げ捨てられ、さらに、補聴器を奪われ、壊されるといった熾烈ないじめに進展していきます。
やがて、そのいじめが校長先生の耳に届き、断罪のクラス会の場で、クラス全体で(担任の先生まで一緒になって)行なわれてた陰湿ないじめは、「将也ひとりがすべてやったこと」にされ、今度は一転、将也が徹底したいじめの対象となります。
そんなクラス全員からのいじめを受けるようになった将也に、それでもただ一人前向きにかかわろうとし続けたのが硝子でした。
でも、将也はそんな、かつていじめの加害者だった相手を気遣う硝子の行動が「単なる偽善」にしか見えず、あるとき遂に硝子と取っ組み合いのけんかになります。
そのけんかの後、硝子はついに転校し学校を去っていきました。
「障害者をいじめて学校までやめさせた男」というレッテルを貼られた将也は、中学、高校になっても当時のクラスメイトからいじめを受け、また新しい友達もできずに疎外され続け、ついには「自分の人生を見限る」ところにまで(高校生にして)行き着いてしまいます。
そして、大きな決断をした将也は、「最後にやり残したこと」をすませるために、かつてのクラスメイトだった硝子に、ふたたび会いに行きます。…
こんなストーリーです。
こうやって書いただけで、とても暗くて重いテーマを扱っていることがわかります。
実際、読んでいるとどんどん気が重くなっていくのが分かります。
内容的には、今年の春に掲載された「読みきり版」を概ね踏襲していて(実は、そう見えてかなり大きく描きかえられている部分があるのですが、その辺りについては次回以降の記事で)、かつ、この「第1巻」には、ちょうどその読みきりのストーリーに相当するところまで(実際にはほんの少し手前まで)が盛り込まれています。
読みきり版では、再会を果たした硝子と将也があっさり(?)和解してハッピーエンドになるストーリーで、その部分には批判も少なくありませんでしたが、連載版ではここから素直にハッピーエンドにはなりません。
さて、今回はあらすじをご紹介するだけで1回分の記事のボリュームになってしまいましたので、次回の記事でもう少しこの物語を深く掘り下げていきたいと思います。
ともあれ、まさに「新進気鋭のまんが家」と呼ぶにふさわしい大今良時氏の原点であり、最新作でもあるこの「聲の形」、障害ある子どもをもつ親として切実なテーマを扱っているまんがでもありますし、シンプルに「まんが作品」としても、際立って高い完成度を誇る作品だと思います。
連載になって、読み切りからのパワーダウンを心配する声もありましたが、全然そんなことはなく、むしろ連載だからできる新たなチャレンジを次々と繰り出してくる凄みすら感じさせます。
よく売れているようで、さっそく緊急増版になったとのことです。
おすすめです!
(次回に続きます。
なお、次回は「硝子というヒロインはどのような障害者として描かれているのか」といったあたりについて自分なりに考えて生きたいと思います。)
コメントありがとうございます。
読みきり版のラストは、まあ読みきりでストーリーを完結させるには仕方ない終わらせ方だとは思いますが、確かに釈然としない終わり方でもあったと思います。
その部分は、連載ではしっかり(?)変わっていて、「突然現れた将也にどう対応していいか分からず、思わず逃げてしまう」という、ずっと自然な(笑)展開になっています。
そしてこの後も、将也は硝子の「こえ」、つまり本当の気持ちを知りたくてもなかなか分からない苦悩を味わい続ける、といった展開になっていきそうです。
作者自身も「読みきりでは描けなかった、本当に表現したかったことを連載では描いていきたい」と言ってますから、連載版こそが本来の「聲の形」なんだと思います。
今週もこのレビュー記事の続きを書きましたので、よかったらご覧ください!(^o^)