ABA実践の優れた入門書の続編が出ました。
発達障害のある子のABAケーススタディ
井上 雅彦 (著), 小笠原 恵 (著), 平澤 紀子 (著)
中央法規出版
1.行動随伴性とは
行動随伴性とは
2.Case紹介
Case 1 休み時間に自傷行動を続けるユミちゃん
Case 2 大声で泣き叫び、おもらしをしてしまうマミさん
Case 3 授業中に空中文字を書くヒロシくん
Case 4 叱責や注意が嬉しいカーくん
Case 5 爪噛みをするハナさん
Case 6 教室を飛び出してしまうイチロウくん
Case 7 激しい他害行動、自傷行動が頻発するタロウくん
Case 8 脅迫的な確認行動や攻撃行動のみられるミチオさん
Case 9 授業中の離席や友だちとのトラブルが頻繁にみられるヒロトくん
Case 10 母親にしつこくつきまとうケンイチくん
Case 11 いたたまれずに家出をしてしまうユウくん
Case 12 日常のあらゆることに対して、手伝いを求め続けるカナメくん
Case 13 授業時間に教室からの逃走行動が多いシンくん
Case 14 動物に対する攻撃行動がみられるナオキくん
Case 15 母親や祖母に暴力をふるってしまうコウジくん
Case 16 脅迫的な確認をするガッちゃん
Case 17 ぐずぐずしてなかなか教室へ行かないタケくん
Case 18 衝動的に発言してしまうシマくん
Case 19 グループホームで物を投げるコウタさん
Case 20 自分の思いどおりにならないとパニックを起こすアキラくん
Case 21 授業に参加できないナミさん
Case 22 通園施設で紙類を破ってしまうタクトくん
Case 23 教室から出ていってしまうユウコちゃん
3.行動問題とは
行動問題とは
用語解説
機能的アセスメント
行動の機能
強化と罰
ABC分析
分化強化
機能的コミュニケーション訓練
プロンプト
課題分析と行動連鎖
トークンエコノミーシステムとレスポンスコスト
セルフマネジメント
中央法規出版様より献本いただきました。ありがとうございます。
(Amazon在庫が切れていたのでレビューのタイミングを少々待っていましたが、ようやく在庫復活したのでレビュー書かせていただきます。)
この本は、以前当ブログで「殿堂入り」させていただいた、同社の「発達障害のある子の『行動問題』解決ケーススタディ」の続編という位置づけになります。(当時のレビュー記事)
前著と比較すると、著者が3名になり、前著では推薦文を書いていた井上先生も共著者に加わっているのが分かります。
発達障害のある子の『行動問題』解決ケーススタディ
著:小笠原 恵
中央法規出版
改めて前著も読んでみましたが、ABAの基本のところから具体的な実践につなげていくところが非常に分かりやすく書けていますし、働きかけの対象が「行動問題」(問題行動)に限定されているところも、とてもいいと思います。
前回のレビューでも書きましたが、療育においてABAが活用されるべき場面は、まず何よりも問題行動の解決にあるんじゃないか、と考えています。
ABAは、ともするとロヴァース法的なフォーマルトレーニングで知的スキルのアップや言語獲得を目指すものととらえられがちですが、そちらをすすめるためには、大前提として「致命的な問題行動がない(少ない)、落ち着いた生活状態」を獲得する必要があります。
また、言語獲得までの長い長いステップを、すべてABAのフォーマルトレーニングで積み重ねていくというのは、気が遠くなる話でもあります。(このあたりについては、先日ご紹介したフリーオペラント的アプローチも参考になると思います)
ですから、まずは目の前の「行動問題」を解決するところから、日々の療育にABAを取り入れていく、というのは、とても理にかなったアプローチなんじゃないかと思います。
ちなみに、本書(や前著)で、問題行動ではなく「行動問題」と表現されているのは、以下のような理由からです。
行動上の問題は、危険で激しい行動もあれば、日々の暮らしや学習、対人関係を阻害する行動、さらにはちょっと気になる行動までさまざまでしょう。いずれにしても、その行動の現れ方がその場の状況や周囲との関係において適切ではない場合に、問題とされる行動です。そうした行動について、「問題行動」という場合には、問題を有している行動そのものに注目しますが、「行動問題」という場合はそのような行動を引き起こし維持させている問題自体に注目します。(初版164ページ)
これは、ABAで誤解されているポイントでもありますね。
ABAというと、問題行動に対して、罰を与えたり無視したり、問題行動をしなかったらほめたりごほうびを与えたりして「アメとムチ」で行動を変えようとするアプローチだと考えられがちですが、そうではありません。
そうではなくて、「いまその問題行動が起こっている」という事態それ自身が何らかの強化の構造のなかにある、そしてその問題行動は何かの「機能」を持っていて、その機能をはたすためにその問題行動が行なわれている、そういう認識のもとに、その「機能」と「強化の構造」を推測し、その「機能と構造」を打開するために、環境を変えたり別の行動に誘導したりほめたり無視したり(場合によっては罰を与えたり)といった「介入」を行なう、それがABAの本質です。
さて、本書についてですが、前著と比べて気がつくことは、前著では7件の行動問題に関する事例をとりあげ、それぞれについてたっぷりとページをとり、理論と実践をあわせて深く解説していく(そのうえで、それぞれの事例に類似したいくつかのケースについて簡単に応用事例として紹介する)といった「事例に基づく理論と実践解説」といった構成になっていたのに対し、本書では、最初に行動随伴性の解説に1章をとり、続くケース紹介では23もの事例を一気に解説していくという、よりシンプルな「事例紹介」に近い構成になっています。
第1章の行動随伴性の解説はとてもいいです。
「ヨウスケくん」が趣味で釣りを始めた結果、さまざまな「いい変化」が現れるというストーリーで、分かりやすく行動随伴性やABC分析について解説されています。
ただ、いきなりかなり本格的なABAの理論に入っていく展開なので、本当に初めてだとちょっと難解に思えるかもしれません。
そして、続く23の事例紹介の個々の事例紹介・解説は、前著の「メインの事例」よりははるかにコンパクトになり、どちらかというと前著の「応用事例」に近いボリューム感になりました。
全体的に、理論より実践寄りの本になり、「いきなり事例でさっと理解してすぐ応用したい」という方にとっては、前作より分かりやすく、また「答え」にダイレクトに近づきやすい印象の本になっているように思います。
そして、本書で新たに登場したのが「8つの視点」という、行動問題への対処のポイントです。
・好みを利用する
・行動問題の生じていない状況を利用する
・選択機会を入れる
・上手に褒める
・先手を打つ
・物理的な環境を変える
・高頻度で行なわれる行動レパートリーを利用する
・スモールステップ
これらは、著者である井上・平澤・小笠原の各先生が、行動問題にABAで対処するときに意識しているポイントだということで、表紙にもオビにも、そして「はじめに」のなかでも大きくとりあげられています。
ところが、です。
実際の事例解説のなかでは、8つの視点のどれが、具体的にどの介入の部分で活用されているかが、はっきりしないのです。
たしかに、4~7ページにある「Caseの一覧表」には、8つの視点のうちのどれがそれぞれのCaseに使われているかが表にまとめられています。
でも、実際の事例紹介のページでは、「8つの視点」への直接の言及がないのです。ですので、せっかくの「8つの視点」も、事例を読んでいくときに頭を整理するポイントとしていまひとつうまく活用できない印象です。
また、そもそもの話になりますが、この「8つの視点」、それ自体を解説したページが見当たりません。
ですので、たとえば「先手を打つ」とは要はどういうことで、どういうときに活用できて、どういうことに気をつけなければならないか、ということが明確に定義されないまま(読者が個々に自分でイメージしながら)、本書を読み解くことになってしまいます。
せっかく、「8つの視点」というユニークな切り口が用意されているのに、本書のなかに、なぜ「8つの視点について」という章が用意されなかったのか、そして、個々の事例紹介をもっとダイレクトに、この「8つの視点」をベースにして整理しなかったのか、そのあたりはやや疑問に感じるところです。
また、もう1点気になるポイントとしては、ある行動問題が「なぜ起こっているか」を考えるためのABC分析は当然載っているのですが、前著には載っていた、介入後にその構造がどう変わったかの「介入後のABC分析」がほとんど載っていない点です。
これは、ページ数の関係があるのかもしれませんが、これは削らないほうがよかったんじゃないかな、と感じました。
全体的に、本書は、前著で学んだ行動問題へのABAによる解決の「具体的事例」をもっと知りたい、勉強したいという方、もしくはABAについて既にある程度学んだ方が、リアルな行動問題とその解決事例に数多くあたりたい、そういった方に適した「ケーススタディ本」になっていると思います。
ケーススタディとしては、実際に支援に関わっている人なら身につまされるような、けっこうシャレにならないケースがたくさん取り上げられており、そういう意味で極めて「実践的」です。
↑本書で取り上げられている「行動問題」は、激しい自傷や他害など、実際に支援の場面を経験している人(や私のような親)にとっては、胸が苦しくて「シャレにならない」事例のオンパレードです。
シャレにならないハードでリアルな行動問題に対し、ABAという武器で果敢に立ち向かう支援者の事例スタディとして、本書はとても価値があると思います。
一方、行動問題にフォーカスを当てながら、ABAについて実践的に学んでみたい、という初学者の方は、やはり1冊目の「(発達障害のある子の『行動問題』解決ケーススタディ」を選ばれることをおすすめします。
※補足
本書の初版43ページのABC分析ですが、2つの「行動」ボックスの「指示に従う」「指示に従わない」が上下逆に思われて仕方ないのですが、どうでしょうか…
※その他のブックレビューは、こちらをどうぞ。
私もそう思います。どうなんでしょうか。
ムスメのシャレにならない{問題行動}はやや下火になってきて、幸せを噛みしめています。さても{行動問題}・・・構造的な振り返りや、{先手を打つ}対処にパワーを発揮しそうな名づけですので、こっちがメインになってくださると、とてもいいなあ!と思います。例:ムスメの問題行動は収まったが、娘はムスメであるので、{行動問題}が今後も出現しやすいことを計算に入れて生活していく。
ダウン症のダウン(人名)のように、たまたま名づけたのが大きな誤解を何世紀も引きずることもあります。{自閉症}もか。科学は再試・訂正するからこそ力がある。
「療育においてABAが活用されるべき場面は、まず何よりも問題行動の解決にあるんじゃないか、と考えています。」
私もABAをやっていた者として激しく同意です。
最近、親による子供への虐待が問題になっていますが、子供の問題行動により「育てにくい」ということが理由の1つとして挙げられるのではと思います。
ABAはその解決策としての最右翼にあると考えます。
コメントありがとうございます。
レスが遅くなり申し訳ありません。
りんごのたねさん、
献本くださった編集者の方から連絡があり、指摘の部分については確認のうえ必要なら次の版で修正したい、というお話でした。
私の誤読でなければ、やはりこの部分は間違っているように思われますので、次の版以降でよくなるのではないかと期待しています。
しまなみさん、
この本でも出てきますし、それ以外の場面でもABAをやっている方からはときどき聞かれますが、「問題行動」は明らかに「周りの人間の評価に基づいた名称」ですよね。
それを「行動問題」と「呼びなおす」ことで、問題のありか自体も変わってくるのだと思います。
あいのパパさん、
ABAをトレーニングの方法としてではなく、まずは目の前の問題に対処する方法としてとらえることは、とても大切なことなんじゃないかといつも思っています。