2013年08月12日

NOといえる(ようになる)療育 (12)

1回ブックレビューをはさんでお休みしましたが、こちらのシリーズ記事を改めて続けていきたいと思います。
このシリーズ記事の後半では、「しない」ということば(拒否の意思表示)を活用したコミュニケーションがなぜ「難しい」のかについて、さまざまな角度から考察しています。

前回のエントリで、「しない」というコミュニケーションを教えるときは、それ単体を教えるのではなく、「する(したい)」というコミュニケーションとセットで教える必要があること、その2つのコミュニケーションをセットで療育することで、この療育は「分化強化学習」となること、そして、この分化強化学習を成功させるカギの1つは、「子どもが言ったとおりに反応する(子どもがすると言ったら必ずその行為をさせて、しないと言ったら必ずその行為をさせない)」ことで、強化と弱化(消去)の「エレガントな関係性」を最大限活用することにある、といったことを書きました。

この「しない(やりたくない)」と「する(したい)」の分化強化学習を成功に導くために考慮しなければならないことを、あといくつか考えてみたいと思います。

まず大切なこととして、

「弱化」とか「消去」だけでは、新しい行動を教えることはできない。

ということがあげられます。

弱化や消去は、既に形成された(あるいは偶然に自発した)不適切な行動の生起頻度を下げることはできます。
でも、それ自体は新たな行動を学習させる効果はもっていません。

つまり、「しない」というコミュニケーションを学習させるには、

1)「したい」ときに「する」と答える = 「する」が強化される
2)「したい」ときに「しない」と答えた場合 = 「しない」が消去/弱化される
3)「したくない」ときに「しない」と答えた場合 = 「しない」が強化される
4)「したくない」ときに「する」と答えた場合 = 「する」が消去/弱化される


この4つのマトリックスのうち、まずは優先的に 3)を繰り返し経験する必要がある、ということになります。
逆にいうと、2)の経験が多くなってしまうのは、「しない」をトレーニングする最初のうちは好ましくない、ということになります。

つまり、ここには、トレーニングの「時系列的な流れ」が存在するわけです。
前回のエントリの趣旨も含めて、このあたりを整理すると、こうなります。

a.まずは「したくない」ときに「しない」と言わせる訓練を優先的に実施。
b.その上で、「しない」と「する」を使い分ける分化強化学習に移行する。
c.その際、必ず子どもが言ったとおりに反応しなければならない。


ところで、ここで当然に問題になるのは、「しない」と言ってやらないで済ませようとしたら子どもが非言語的にやりたがるそぶりを見せた場合、あるいは「する」と言ったのにやらせようとしたら子どもが非言語的に嫌がった場合です。

こういった場合に、親が気を回して子どもの非言語的な要求表現にそのまま応えてしまうと、前回エントリの「エレガントな構造」が崩れ、言語トレーニングとしては失敗してしまいます。

そこで、こういったときは以下のように対応するのがいいと思います。

d.子どもが明らかに言い間違えたときは、「する」「しない」を正しく言い直させてから、子どもの要求に応える。

これで、エレガントな構造を壊すことなく、子どもの本来の要求に応えることができます。(とはいえ、これが頻繁に発生する場合は、まだトレーニングの機が熟していないということになるとは思います。)

(次回に続きます。)
posted by そらパパ at 21:03| Comment(4) | TrackBack(0) | 娘の話 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 自分は言い間違いをすることもあるんだ、ということを落ち着いて認識できるようになるまで、このデリケートな状態は続きますね。
 言い間違いをする、でも、言いなおせば伝わる。または、{今は決められないの。}という後回しの表現を選んでもいいこともある。
 互いに焦らず、ゆっくり進む価値のある過程だと思います。
Posted by しまなみ at 2013年08月16日 16:37
しまなみさん、

コメントありがとうございます。

「言い間違いを直す」というのは、直す前の(言い間違えた)発言の随伴性がよく分からないものになりますから、できれば避けたいとは思っています。

それでも、間違えてしまったものは仕方ないので、しまなみさんもおっしゃるとおり、別のことを学習する機会でもあるとポジティブにとらえて、言い直すという行動を学習させていければいいな、と思います。

Posted by そらパパ at 2013年08月19日 23:37
この手法は通園の先生が何か聞かれた時に頷くことを教える時使ってありました「するの?」と聞いてやりたそうだったら無理やりでも頷かせて(うんと言う言葉も添えて)やらせる
間違った反応をして、やってもらえなくて泣き出した時も(泣き出す前に気付くほうがいいですが)無理やりでも正しい反応をさせてからやらせる
これだと泣きも早く収まって誤学習もなく親子共ニコニコ
ところが、「するの?」で頷くことを覚えると返事が出来ると思って「しないの?」と聞いてくる善意の第三者のなんと多いことか!
そうすると学習途中の子どもは当然頷いてしまいますそしてやってもらえなくて混乱…
言葉で「はい」「いいえ」でもそう
これって多分ABAの手法でアメリカから来てるんですよね
英語だと質問がどうであれやりたい時は「YES」
自閉症の人に特に日本語は複雑で難しい言語と思います
そう考えると「しない」は言葉と行動がいつも一緒で使いやすい
将来的に使いやすい誤解されにくい方法を考えて教えるのも大切ですね
Posted by たんぽほ゜ at 2013年08月23日 09:31
たんぽぽさん、

コメントありがとうございます。

ご指摘のポイントは確かに重要で、日本語の「はい」「いいえ」は「相対語」であり、「しないの?」と聞いて「うん」とか「はい」とか答えさせる、というのは、端的に言って「極めて難易度が高い」と思います。
親の側も、その「難しさ」に気づいて、そういう答え方に誘導してしまわないよう、注意を払う必要があるのですよね。
その点、「しない」は「絶対語」なので、娘にとっても覚えやすいのだと思います。(それでも、このシリーズ記事で書いているとおり、「難しい」のですが…)

なので、「するの?」と聞かれても「しないの?」と聞かれても、「はい」「いいえ」ではなく「する」「しない」で答えるように、我が家では教えています。

Posted by そらパパ at 2013年08月26日 23:08
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