2007年07月16日

「環境への働きかけ」を再定義する(12)

いよいよ本シリーズ記事の最終回です。

・・・思ったよりもかなり長くなりました。

今回のシリーズ記事全体で一番書きたかったのは、子ども自身に課題を与えてそれをこなすことだけが「療育」なのではなく、もっといろいろな働きかけが可能だし、それらも含めて全部「療育」として子どもの将来にポジティブな影響を与えることができるはずだ、ということです。それは具体的には、周囲の人たちや社会的資源に対する働きかけであり、新しい道具を発見・開発・提供することです。

この部分は、まさに当ブログの本来の方向性である(最近あまりそうでもありませんが・・・笑)、「お父さんの療育」というところともつながってきます。

私が日曜大工でトイレの踏み台を作った例をあげるまでもなく、新しい「道具」を考えて、実際に作って試してみたり(繰り返しになりますが、ここでいう「道具」というのはかなり広い意味で、環境との相互作用をサポートする補助具のことです)、周囲にあるさまざまな社会的資源に実際にアクセスして、子どもが利用できるような働きかけをすることは、お父さんが休日を使って行なっても十分に効果のあることです。

さらには、こういった働きかけによって子ども自身へのトレーニングの負担を軽減し、療育を効率化することができれば、当ブログのもう1つのテーマである、「頑張らない療育」にもつながってきます。

最後にもう1つ、私たちが子どもの療育で何かを訓練しているときも、働きかけているのは子どもの「内面」に対してだ、と思わないことです。そうではなくて、私たちが働きかけているのは、子どもと環境の「接点」、子どもが環境に対してどんな「相互作用」が行なえるか、そこに働きかけているのです。

そう考えることによって、子ども自身に対する働きかけと、「環境」(あるいは「道具」)に対する働きかけは、継ぎ目無く連続しているものだということが自然に理解できると思います。


<参考図書>

今回のような視点を明確に示している療育関連本は、私が知っている限り残念ながらほとんどありません。そういった意味では、療育におけるアフォーダンス概念の重要性について自覚的な、下記の本の存在は貴重だといえるでしょう。



遊びを育てる―出会いと動きがひらく子どもの世界
野村 寿子
協同医書出版社(レビュー記事

最近、この野村さんが、改めて佐々木正人先生の著書に登場し、療育(作業療法)にアフォーダンスを取り入れる考え方について語りました。



包まれるヒト―〈環境〉の存在論
編:佐々木 正人
岩波書店

この本もかなり面白い本です。できれば近日中にレビューしたいですね。

また、高畑庄蔵先生の一連の書籍にも、こういった考えが明らかに反映されています。



発達障害のある子とお母さん・先生のための思いっきり支援ツール―ポジティブにいこう!
武蔵 博文・高畑 庄蔵
エンパワメント研究所(レビュー記事

みんなの自立支援を目指すやさしい応用行動分析学―「支援ツール」による特別支援教育から福祉、小・中学校通常教育への提案
高畑 庄蔵
明治図書出版(レビュー記事


さらに、今回のシリーズ記事でとりあげた、アフォーダンスと療育との関係について、哲学的に突っ込んだ議論を読みたい場合は、哲学者でありながら特別支援教育にも造詣の深い、河野哲也氏の著作が参考になると思います。



環境に拡がる心―生態学的哲学の展望
勁草書房 双書エニグマ

「心」はからだの外にある―「エコロジカルな私」の哲学
NHKブックス

著:河野 哲也(レビュー記事
posted by そらパパ at 20:44| Comment(5) | TrackBack(0) | そらまめ式 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
そらパパさん、こんにちは。

思ったよりあっけなく最終回なんですね~(笑)
もっと難しい話が続くのか?と思ってたので、少しホッとしていたりして・・・(笑)

でも、この最終回に、なぜかひとりジーンと来ている私がいたりして・・・(笑)

これからも、この方向性で頑張って行きたいと、ポジティブな気持ちになれました!
ありがとうございました!

そらパパさんの本も、難しい内容なのにとっても読みやすくて、次から次へと読みたい気持ちが湧いてきます。

すでにブログで読んでいて知っていることも多いので、うなずきながら読む感じですね。頑張って制覇したいと思います。
Posted by いっくんママ at 2007年07月17日 17:19
JKLpapaです。ご無沙汰です。
シリーズ執筆、お疲れ様でした。「働きかけているのは子どもの「内面」に対してだ、と思わないことです。」という言葉は、「そうそう、これ!」といった感じで、脳みそに染み渡りました(笑)。絵カードにしろ、スケジュールにしろ、まさに環境との「接点」を作っているわけですよね。今更ながら、勉強になりました。
また新しい理論、定義を期待しています。体にだけは気をつけられてくださいね。
Posted by JKLpapa at 2007年07月18日 10:07
いっくんママさん、JKLpapaさん、こんにちは。

今回のシリーズ記事はかなり引っ張りましたが、結局のところ、書きたかったことは、今回の記事に書いた「そもそも療育っていうのは『内面』ではなく『環境との接点』に対して働きかけているんだ(だから環境への働きかけに意味が出てくるんだ)」ということに尽きます。
(これは、心理学的なスタンスでいえば、行動主義であり、ギブソン主義だと言えると思います。)

また、いっくんママさん、拙著の愛読ありがとうございます。
書いている間はあまり気にならなかったのですが、改めて読んでみると、確かにけっこう難しい内容になってしまっているなあ、と反省しています。ですので、読みやすいと言っていただけるのはとても励みになります。
Posted by そらパパ at 2007年07月18日 22:26
ごぶさたしております、五合庵です。
大変興味深い話題をありがとうございました。

本文中の "無理しない" "環境改善" "連続した働きかけ"
このようなキーワードを見て、知人が子供に物作りを
自発的に行わせることに成功した下記例を思い出しました。

1)物作りに興味を抱かせる。(紙が本物そっくりになることを見せる)
  こちら=> http://angel.ap.teacup.com/tsumiki-niigata/130.html

2)JR西日本HP等から好きな電車のペーパークラフトをダウンロード。

3)道具を工夫して与えたら、自分でつくった。
  こちら => http://angel.ap.teacup.com/tsumiki-niigata/131.html

私も自分の息子への働きかけを工夫し、楽しい療育をめざしていきます。
Posted by 五合庵 at 2007年07月28日 05:49
五合庵さん、こんにちは。

易しいペーパークラフト、というのは確かに今回のシリーズ記事とつながっているように思われますね。

これから、微細運動のスキルに応じて工作の難易度を変えられるうえに、出来上がりは十分に子どもの満足感を満たせるものにできそうです。

そういった「道具」(今回はカスタマイズされたペーパークラフト)を工夫することによって、子どもは環境との有意義な「接点」を得、環境との新たな相互作用を学び、環境に働きかけることの意義を実感することができるようになると思います。

ですから、こういったことこそが、まさに家庭の療育で目指すべき1つの方向だと思います。勉強になりました。ありがとうございます。
Posted by そらパパ at 2007年07月29日 13:34
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