2013年06月03日

NOといえる(ようになる)療育 (3)

娘が、私たちから何らかの行動を促されたり誘われたりしたとき、それをやりたくなければ「しない」と言うことでNOの意思表示ができるようになったのは、比較的最近のことです。

この「しない」ということば、最初は、外出時の寄り道(歩いて外食ランチに出かけた際に公園や神社に立ち寄ること)をしたい・したくないというときに限って出てきていましたが、そこから少しずつ般化し、やがて、自宅や学校で、私たちや先生からトイレに誘われたときにも、尿意のないときには「しない」と言えるようになりました。

これは、トイレトレーニングの過程を考えたとき、小さいけれども本当に大きな一歩(a small but great step)だと言えます。

なぜならそれは、トイレトレの過程の大きな段階としての「定時排泄」から「自立排泄」に進むために欠かせない進歩だからです。

娘のように障害の重い子のトイレトレは、大まかにいうと次のようなステップをへて進んでいくと考えられます。
(例えば、こちらのリンクや、下記の本などが参考になるかと思います。)


自閉症、発達障害児のためのトイレットトレーニング
マリア ウィーラー
二瓶社
段階式 発達に遅れがある子どもの日常生活指導3 排泄指導編
鉄道弘済会弘済学園(著)、飯田 雅子(編)
学研
一日でおむつがはずせる [新書]
N.H.アズリン(著)、R.M.フォックス(著)、篠田 顕子 (翻訳)
主婦の友

1.おまる・トイレに座れるようにする。
2.偶然などをうまく活用して、おまる・トイレで排尿する習慣をつけていく。
3.一定の時間間隔でトイレに誘って排尿できるようにする。(定時排泄)
4.一定の時間間隔でトイレに行くかどうかを聞いて、排尿を促す(半自律排泄)
5.完全に自己決定でトイレに行かせる(自律排泄)


上記は「排尿」についてのトレーニングですが、これとは別に「排便」のトレーニングもあって、こちらは頻度がぐっと低くなるため、習慣づけや定時排泄が難しく、排尿よりもトレーニングがはるかに難しくなります。
(ただ、我が家の場合、ちょっとした気づきから、排便のほうについてはかなりうまく定時排泄にもっていけるようになりました。この話題については、エントリを改めてそのうち書きたいと思います。)

ともあれ、「排尿」についてのトイレトレーニングについてですが、我が家では上記の1.も2.もものすごく苦労して、なんとか3.にたどりつけたのはトイレトレを始めてから数年後でした。
(あらゆる療育が常に「年単位」になる、というのは、ある程度覚悟はできていても、なかなか精神的には厳しいものがありますね。(^^;))

さらに、3.に到達した時点で、トレーニングはまた停滞します。
ここでまた何年も足踏みが続いたのです。

なぜそんなに時間がかかるのか?

そのヒントとして、上記のステップを順に見ていって、3.から4.のステップでいきなりトイレトレーニングが言語課題に変わっていることが分かるでしょうか?

ステップ3.というのは、トイレに行ったら排尿する、という「学習」が済んでいる子どもを、定期的にトイレに連れて行く(そうすると子どもは尿意の有無に関わらず排尿を頑張る)、という、まあ言ってみれば決まった手順を繰り返しやらせるだけの、単純な行動学習です。

それに対して、こちらが、「そろそろトイレに行く?」と聞いて、子どもが「いく」「いかない」を自分で判断できるようになる、というのが、4.なわけです。
つまり、4.を達成するためには、親子の間で言語(もちろん絵カードのような非音声言語でもいいですが)によるコミュニケーションが成立していなくてはならない、ということになるわけです。
しかもそのコミュニケーションは、何かを要求する・させる、何か決まった動作をさせる、といった単純なものではなく、「促されているけれども(尿意がないから)行動しない」「促されていて(尿意があるから)行動する」という、判断・将来の行動の選択を含む、相当に複雑なコミュニケーションになります。

将来の見とおしをたてることが困難で、その見とおしに基づいて予測したり期待したりして、行動を選んだりおとなしく待っていることが非常に難しい娘にとっては、「これから(←つまり将来)トイレに行きたいですか?」と聞いて、それにYes/Noで答える、ということは、とてつもなく難しいことに違いありません。

というわけで、我が家のトイレトレは、3.の段階で非常に長い間足踏みをしていました。

ここへきて、その長い停滞がようやく打破され、なんとか、4.の段階に進むことができました。
その、小さいけれどとても大きな一歩(a small but great step)を踏み出すことができたことばこそが、この「しない」なのです。

だから、私は、娘が「しない」ということばを発して、定時のトイレの誘いに「乗らない」選択をする瞬間を見ると、本当に嬉しくなります。

ああ、やっとここまできた、と。


次回以降、この「しない」ということばを娘が獲得するのになぜこれほどまでに長い時間がかかったのか、そして、娘がこの「しない」ということばを獲得するために、我が家ではどんな働きかけを行なったのか、といったあたりを、何回かに分けて書いていこうと思っています。

(次回に続きます。)
posted by そらパパ at 21:15| Comment(2) | TrackBack(0) | 娘の話 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 たのしみです。
 確かにすべての療育が年単位…、他人様が{スモールステップでかならずできるようになります}{あせらず、じっくりいきましょう}と言うことは、まっとうで、まちがっていないのです。でも、夜泣きにしろ、睡眠障害にしろ、排せつ・摂食にしろ、もう発達障害を受容したつもりですら、月単位のと年単位のでは、苦労の苦さが違うように思いながら、こどもと関わっています。
 さて、かなり高機能の自閉さんでも、NOを正しく認識するのは難しいようだ、という経験則はあります。ことばとの複雑なつながり…なるほどな、と思いました。
Posted by しまなみ at 2013年06月04日 09:06
しまなみさん、

コメントありがとうございます。

「しない」ということばについては、考えれば考えるほど、とても多くのスキルが組み合わされて始めて言えるようになることばだなあ、と改めて痛感しています。
その辺りについても、次回以降書いていければと思っています。

ところで、療育にかかる時間の長さについては、これはもうある種の悟りを開かないとやっていられないレベルですね(^^;)。
だから、「すぐに結果が出る魔法」っぽいトンデモにどうしてもひかれてしまうという気持ちは、実感としてはとてもよく分かるのですよ。
Posted by そらパパ at 2013年06月05日 22:42
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