まず疑問を投げかけたいのは、「子どもへの訓練」と「環境への働きかけ」を別の次元のものとして見るという、そもそもの出発点に対してです。
私たちは、能力やスキルといったものはヒトの「内部」に、生活環境や周囲のヒトといったものはヒトの「外部」にあって、それらは明確に区別できると考えがちですが、本当にそうでしょうか?
例えば、ここで次のような質問をしたとしましょう。
「あなたは、かけ算ができますか?」
多くの人の答えは、イエスだと思います。つまり、多くの人は、自分にかけ算をする能力、スキルがあると認識しています(このときに感じた、「私はかけ算ができる」という感覚を、ぜひ忘れないでこの後の文章を読んでください)。
この質問への答えが「イエス」だと仮定して、次の質問にいきます。
「では、123×456がいくつになるか計算してください。」
どうでしょう?
先ほどの答えに自信を持ってイエスと答えた方は、ここでその辺の紙とペンを使って、筆算を始めるのではないかと思います。で、答えも出ると思います。
でも、ちょっと待ってください。
なぜここで、紙とペンを使ったのでしょう?
もし、先に書いたように、ヒトの能力やスキルとはヒトの「内部」にあって、周囲の環境のような「外部」のものとは独立に存在していると考えるならば、紙やペンを使ってかけ算をすることは、自分自身の能力によるものではない、ということになってしまいます。つまり、先の考え方が正しいとするならば、紙とペンを使わないとかけ算ができないということは、私たちにはかけ算のスキルはない、すなわち「私はかけ算ができない」という結論になる理屈になります。
さらに、この理屈にしたがえば、はさみを使って紙を切ることも、自転車や自動車に乗ることも、他人と「ことば」という道具を使ってコミュニケーションすることも、すべてヒトの内部だけで完結しないことから、能力やスキルとはいえないことになってしまいます。
でもこの結論は、明らかにおかしいですよね。
結論がおかしい理由は、前提がおかしかったからです。
つまり、私たちの能力やスキルというのは、私たちの「内部」にあって、環境などの「外部」とは独立して存在している、という出発点の考え方が誤っている、ということなのです。
能力やスキルとはあくまで環境との相互作用の中で成立しています。言い換えれば、私たちがおよそ「能力」と呼んでいるものは、ほとんど例外なく、環境に対して働きかける力に他ならないのです。
赤ちゃんが発達の過程で獲得していく「スキル」を思い出してみてください。
食べることも立つことも歩くことも、ある一定の環境の中で身体を適切に制御することですから、環境との相互作用に関連する能力です。
それらに続いて出てくる「ことば」は、周囲の他人という「環境」に理解されて影響力をもって初めて「ことば」たりえるわけですから、これも環境との相互作用そのものです。(そうでなければ、ただの意味のない発声にすぎません。)
それ以外の、例えばおもちゃを扱うことも、身辺自立も、課題を解くことも、すべて環境のなかにある何者かと適切に相互作用する能力のことを指しています。
(次回に続きます。)
a)折り紙の完成絵から、自分で折り方を考えて作れる。
b)折り方手順の絵を見れば、折れる。
c)折り方を連続して(実際に折って見せたり、ビデオで 等)見ないと、理解できない。
世の中の環境が、b)なら c)のスキルしかもたない子どもは、どんどん遅れていってしまう。
c)の環境にするには、周囲の努力がいるけれど、誰もがありがたいと感じると思う。
だって、私だってb)では折れずに、本に八つ当たりする事あるもの。
五合庵さんのお話は、この後、私が書こうと思っていることを既に先取りしていますね(^^;)。
まさに、私がこれから書こうと思っていることは、五合庵さんがコメントで示唆されていることです。
その話は、もう少し先で出て来る予定ですので、よろしければお付き合いください。
私は大学受験を終え、教育学部特別支援教育専攻に合格しました。元々教員志望で、自閉症や発達障害に興味を持ち、この道を選びました。
受験生時代からブログを拝見しています。理解力不足か知識が少ないせいか、記事の内容に頭がついていかないこともしばしばですが…とても興味深い内容ですね(*^▽^*)
1点目は、絵で意図を伝える環境推進。
会社で後輩に説明するときは、言葉といっしょに絵を必ず描いております。
また、人に読んでいただく資料(ブログ含む)は、文字は簡潔,絵を必ず入れてます。
2点目は、...
多分、そらパパさんの次の記事あたりで関連してきそうですね。
わくわく。
その時にコメント入れさせていただきます。
特別支援教育を専門的に学ぼうという方が増えることはとても喜ばしいことだと思います。
えりさんがこれから学んでいくであろう知識と経験によるサポートを必要としている人が、世の中には(恐らく想像以上に)たくさんいることを、心に留めておいていただければ嬉しく思います。
ちなみに、当ブログで扱っている心理学の知識領域は、実はそれほど広いものではありません。
ギブソンの知覚心理学(アフォーダンス理論)、基礎的な認知心理学、コネクショニズム、応用行動分析(ABA)くらいがせいぜいです。
もし興味をもたれたら、この辺りの書籍をお読みになれば、きっと特別支援教育の理解を深めるのにも役立つのではないかと思います。
五合庵さん、
そうですね。
「やさしい応用行動分析」の高畑先生も書いているとおり、自閉症児に対する働きかけの多くは、一般社会でも通用する「ユニバーサルデザイン」に通じますよね。特にTEACCHの構造化・視覚化のアイデアはあちこちで使えると思います。
次回のコメントも楽しみにしています。